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#5【サンフレッチェ広島レジーナvs日テレ・東京ヴェルディベレーザ|試合レビュー】プレスを間違え続ける代償|2024-25年WEリーグカップ第3節


フルTO!配置は変わり続けるが最初はこれ

WEリーグ杯の決勝トーナメントに進出する上で重要な試合となる第3節日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦。グループ内で最も強い相手との試合でもあり、この試合の結果次第でグループリーグの流れが決まる試合です。

そんな重要な一戦ではありますが、吉田監督は前節からメンバーを全員替えるフルターンオーバーを敢行。驚きはしましたが、この選択によって「大会の優先順位」や「サブメンバーの戦術理解度」などが垣間見えて、これはこれで面白かったりもしますね。

さて、試合の方は0−2の悔しい敗戦ということで、個人的にはターンオーバーにしては拮抗した試合ができた印象ではありますが、プレスの練度や試合運びなど、クオリティに欠ける部分を確実に突かれたのが敗因となりました。


相手に合わせた撤退戦を選んだ前半

試合開始直後は4バックでスタートしたレジーナでしたが、ベレーザのSBが高い位置を取る右肩上がりの4231→325の可変で挑んできたため、早々に5バックに切り替える選択しました。

サブメンバー主体で4バックを維持しながらプレス・ブロックを行うのは難しいという判断かもしれません。5バックに変化した際には、SHの松本選手が下がるだけでなく、柳瀬選手と渡邊選手の位置も変わっていましたね。

右肩上がりのベレーザに対して早々に5バックを選択したレジーナ

5バックでの戦いを選択したレジーナは、基本的には撤退戦を繰り広げます。ミドルゾーンから自陣深くにブロックを敷き、外に追いやるプレスをかけながら、ボックス内への侵入を防いでいました。

しかし、プレスに関しては個々の理解度や身体能力が足りていない部分も多く、外に誘導しても上手く嵌められないシーンが目立っていたように思います。

逆にベレーザは、サイドに追い込まれても常にパスの選択肢を用意する立ち位置をとっており、レジーナのスライドが甘いのを逆手に取りながらパスを繋いでいました。

撤退するレジーナに対して前線の枚数を増やすベレーザ

ベレーザは右SBを上げて前線を5枚にし、それに対してレジーナは5バックを選択するのですが、ベレーザはその修正にも手を打ってきます。

ボランチの1人をDFラインに落とし、2DF+2DHの菱形でのビルドアップを行いながら、右CBを高い位置に押し上げ、前線を6枚に増やす形を前半40分ごろから始めています。

ベレーザは前線の数的優位を作る意図持ちつつ、距離の近いサポートを繰り返しながら、レジーナのプレスを掻い潜る意図が見えていました。

ゴール前のスペースは死守&身体を張ったDFが光る

前半はベレーザに押し込まれる展開が多かったのですが、ボックス内に侵入されるシーンは少なかったです。ベレーザのサッカーを見る限りスペースを消されるとできることが少ない(植木選手や藤野選手の不在も)ため、ゴール付近を固めておけば大きな問題は生じませんでした。

ボックス内に侵入された際もCBの中村選手を中心に集中力を保ちつつ、決定的な場面では身体を張るディフェンスを見せています。

【中村選手のスライディング】

この試合の中村選手はカバーリングは冴えており、前半に決定機を作られなかったのは彼女の貢献なしでは成し遂げられませんでした。

狙いの見えるインナーラップ→マイナスクロス

自陣に押し込まれるレジーナでしたが、ボールを奪ってからは縦に早い展開でベレーザのゴールに迫ります。

その中でも、シーズン当初から取り組んでいる「インナーラップからの裏抜け」や「3人目の動き」などが意識されており、サブメンバーの戦術理解が進んでいるのを示しました。

【シャドーへの楔から3人目の動きで裏に飛び出す柳瀬選手】

前節のマイナビ仙台戦でも似たような形がありましたね。違うメンバーでも似た形が作れるのは、戦い方が共有されている証です。

【3列目から裏に抜ける柳瀬選手】

【渡邊選手のインナーラップからマイナスクロス】

インナーラップからの裏抜けで数度ほどゴール前でチャンスを作ったレジーナでしたが、ゴールを脅かすほどのシュートは打てませんでした。

中盤の空洞化が顕著になった後半

後半に入るとシャドーの位置に瀧澤選手・中嶋選手を投入して攻勢を強めます。それに対してベレーザも明確に3バックの形で試合に入り、期待の高校生WEリーガー眞城選手を投入するなど、ギアを上げる姿勢を見せます。

レジーナとしては瀧澤選手・中嶋選手を中心に相手を押し込み先制点を奪う狙いでしたが、攻勢を強めたために試合をオープンにしてしまい逆にカウンターで先制点を奪われる展開となったのは誤算でした。

その中で目立っていたのは「中盤の空洞化」です。

駒を大きく動かし展開を早める功罪

後半からのボランチは渡邊選手と柳瀬選手の2人でしたが、保持時には柳瀬選手がトップ下の位置まで上がって、DFラインの裏を狙ったり、ゴール前でクロスに待ち構えたりしていました。

しかし、後ろに残された渡邊選手の1人で中盤のスペースを守り切るのは難しく、攻守が入れ替わった瞬間に空洞化した中盤のスペースを使われ、カウンターから失点を喫します。

【失点までの一連の流れ】

 

失点シーンでは「松本選手が後ろに戻ることばかり意識してボックス手前の選手が見えてなかった」「柳瀬選手が全く戻れていなかった」「瀧澤選手・渡邊選手が後ろに戻りすぎていた」などの原因があり、見事なゴールなのですが、細かいミスの積み重ねが招いた結果と言えるでしょう。

また、柳瀬選手の強みは「走力を活かした3列目の飛び出し」ではありますが、駒を大きく動かすということは、展開が切り替わった際に必要なポジションにいられない状態になることが多いです。

確かに前に出る勢いは凄いのですが、プレスバックなどの後ろ向きのランニングに対しては気分次第な所があるため、ボランチで起用するトランジションで穴になりやすいのも目立ちました。

奪ったら早く攻めるを意識しすぎたか

展開を加速させオープンになった原因には、前掛かりになっただけでなく、奪った後の選択肢にもありました。

自陣でボールを奪った際に、DFラインの裏を狙うロングボールばかりを蹴っており、自分たちの時間を作れていなかった印象です。

【奪った瞬間に淡白に裏に蹴飛ばす塩田選手】

「奪ったら早く攻める」「DFラインの裏を狙う」などは、チームとして意識している部分ではあります。

しかし、状況を考えずに蹴飛ばしても前線の選手は走って疲労し、後ろも押し上げられず、結果的に間延びした状態で相手に主導権を握られてしまいます。

イケイケムードで「前へ前へ」な雰囲気を後半には感じたのですが、展開を落ち着かせ試合をコントロールする時間が必要でした。

【ボールキープで展開を落ち着かせるプレーが必要】

このように自陣でボールをキープできる選手が時間を作りながら、味方にスペースを与える意識があれば主導権を奪い返せたかもしれません。

プレスの意図は共有できている?

この試合全体で気になったのは「プレスの意思共有」です。試合で見られたプレスの形は、開幕から見られたものと同じでしたが、個々の選手の理解度に差があるように見えました。

シャドーの外切りプレスに対する連動

5-2-3でプレスを行う際のスタートは「シャドーがどちらに追い込むか」によって決まります。

  • シャドーが外を切る→中に誘導して中盤で奪う

  • シャドーが中を切る→外に誘導してサイドで奪う

ベレーザ戦では、シャドーのプレスに対する全体の連動が甘かった印象です。

【シャドー渡邊選手の外切りプレスで中央〜左サイドへの誘導をしているのに柳瀬選手が左方向から突っ込んでしまい右サイドに展開される】

このシーンでは渡邊選手の外切りプレスで左サイドに誘導する意図があったのですが、中盤にパスが入った際に柳瀬選手が左を切ってしまい、スペースのある右サイドに逃してしまうというミスです。

シャドーのプレス方向を見た上でどちらに追い込むのが正解なのかを瞬時に理解できないと、チーム全体で連動したプレスは難しくなります。

【シャドー渡邊選手が縦を切って中に誘導するがボランチが感じていない】

このシーンでは渡邊選手がCBに対して縦を切って中に誘導しています。中盤へのパスを潰して奪うのが正解ですが、柳瀬選手のスライドが遅れてパスが通ってしまいます。

柳瀬選手は自分が「行きたい!」と思った際の反応の速さはピカイチなのですが、チームの意図を読み取って必要なタイミングでパワーを出すのが苦手なのかもしれません。

シャドーの中切りプレスに対する連動

次に、シャドーが中を切ってサイドに誘導するパターンを見ていきます。サイドに誘導する場合は、シャドー-WB-DHの3人で囲い込むのが重要で、スライドの徹底が重要となります。

【シャドーの渡邊選手が中切りプレスで外に誘導したいがWBの縦スライドがいない】

渡邊選手がCBに対して中を切ってプレスをかけたため、パスの選択肢はサイドのWB一択になりました。しかし、塩田選手が縦スライドをしておらず、プレスを嵌めることができませんでした。

このシーンの場合は、縦スライドをしなかった塩田選手と、後ろをしっかりと確認できなかった渡邊選手それぞれに責任があると言えるでしょう。

【中切りプレスで外に誘導する意図も追い込み方が悪く前を取られる柳瀬選手】

こちらは前半のシーンでシャドーの柳瀬選手が右CBに対して中切りのプレスをかけるシーンです。

走るコース的に後ろと横のパスコースを奪うのが目的で、チームの意図を理解しているのはわかります。

しかし、プレスの角度が悪く相手に前を取られてしまいます。これではホルダーに制限がかけられません。

ほぼフリーの状態でボールを持ったベレーザ右CBは余裕を持って前線の選手にパスを出しました。

柳瀬選手はボールに向かって突っ込む癖があるため、チームとして追い込む方向を理解していても、プレスの角度が悪いケースが多いです。

【ボランチが本来の持ち場を離れ得てボールに釣られてしまう】

こちらはベレーザの左CBへのパスに対して、シャドーの渡邊選手が中切りプレスをかけるシーンです。

直前のシーンの影響かボランチの柳瀬選手がサイドに寄りすぎているのが懸念ポイントです。

渡邊選手は中を塞いでおり外に誘導する姿勢を見せます。塩田選手も縦スライドの準備をしてWBへのパスを警戒しています。

柳瀬選手も中のパスコースを切る意図は分かるのですが、ボールに釣られすぎているため、本来であれば少し後ろでボランチをケアしなければなりません。

柳瀬選手がボールに釣られすぎていたため、サイドに誘導して渡邊選手と塩田選手と前後から挟んだのですが、真横にいるベレーザDHをフリーにしています。

ここで横にパスを出させて奪うのがチームとしての意図なのですが、意思共有ができていないと全く意味がありません。

結果的にベレーザDHへのパスが通り、3人が置き去りになってしまいます。

このようにベレーザ戦では、プレスの意思共有が不足していたため、相手に主導権を握られていたと感じます。

もう少し中盤の選手にスライドをしてチームとしての奪いどころでパワーを出す意識があれば、カウンターの機会も増えていたでしょう。

試合で目立った活躍を見せた選手をピックアップ

敗れはしましたが、2回目のターンオーバーということもあり、前回との比較も含めて目立った選手を見ていきましょう。

1試合ごとに成長を見せる森選手

1年目の頃から森選手のプレーを見ている人からしてみれば、まさかベレーザ戦でアンカーとして出場し、ゲームがきちんと成り立つとは思わなかったかもしれません。もちろんまだ未完成な選手ですが、試合に出るごとにできる事を増やしている姿を見せてくれました。

保持の部分でも落ち着いたボールを持ちながらサイドに散らしたり、相手を交わしたりなど、ベレーザ相手とは思えないプレーぶりでした。守備の場面でもできる限りのことをやっていた印象です。チームとしての約束事でもあるDFラインへのカバーも徹底していました。

【DFラインが割れた際にカバーに入る森選手】

試合の中で数度ほどあったのですが、パスコースを読んで先回りをする、予測してカットするなどのプレーも見せてくれました。チームとしてのプレスの意図を理解し、次の展開を予測できるようになった証のプレーと言えるでしょう。

【中央でのパスカット】

【パスコースを消す森選手】

的確な守備対応でチームを支えた中村選手

CBで出場した中村選手はカバーリングやドリブル対応、シュートストップなど、的確な守備対応でチームを救いました。中村選手がいなければ拮抗した試合展開にはならなかったかもしれません。

【DFラインのカバーをしながらドリブルを力強く止める】

【裏に抜けた選手をカバーリングで冷静に対処】

後、保持でも成長を見せていたのが驚きでした。去年までは左SBで出場するも左足が苦手で何度もパスミスを繰り返していたのですが、この試合では鋭い縦パスを左足で刺すなど苦にしていない印象でした。

次節に向けた雑感

評価の難しい試合ではあるのですが、「ターンオーバーながら良くやった」とも「課題が多く負けもやむなし」とも言えます。ただ、サブメンバー主体の試合として、「プレスの精度」と「ゲームコントロール」は明確な課題となりました。

吉田監督のチームでは、組織で連動したプレスが必須科目です。ピッチ内で違う動きをする選手が1人でもいるとプレスが成り立ちません。試合運びに関しては、展開を早めることのリスクを頭に入れてプレーしてほしいものですね。

レギュラーメンバーでの試合でも、この辺は笠原選手の守備範囲で成り立っている部分もあるため、試合のテンポを落ち着かせる選択はチーム全体で必要です。

悔しい敗戦ではありますが、1年を戦う上でサブメンバーの成長は必要不可欠なので、この試合を糧にチーム全体で成長していきましょう。

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