#2【サンフレッチェ広島レジーナvs大宮アルディージャVENTUS|試合レビュー】戦術の浸透度を図るターンオーバー|2024-25年WEリーグカップ第2節
吉田体制の2試合目となるWEリーグ杯第2節の大宮戦では、びっくりどっきりなフルターンオーバーが行われました。早い段階から戦力の見極めを行う目的に加えて、前節で2人足が攣ったことから、コンディション面も理由かと考えられます。
何といっても昨年出場機会に恵まれなかった中村楓選手や、怪我で長期離脱をしていた塩田選手など、サポーターの中には「この選手が見たかった!」という人もいたはずです。
試合全体としては、TOの影響で前節で見せた攻撃は難しい部分はあったものの、守備では吉田監督仕込みの高いパフォーマンスを示していたと思います。
スタメン全交代で挑む吉田体制の2試合目
ターンオーバーで臨んだWEリーグ杯第2節、試合結果は0−0と最低限の結果は残せたのかと思います。ただし、保持面ではスタメンが入れ替わったことで、個々のスキルや戦術理解度に差が生じて難しい場面も多かったと思います。
守備に関しても相手のビルドアップに苦戦し、プレスがハマらない時間帯が多かったのですが、DFラインが的確な対応を繰り返しており、崩されるようなシーンはほぼなかったかと思います。
総じて言うと、「守備に収穫あり、攻撃に課題多し」といった感じですが、では試合内容について振り返っていきましょう。
機能不全に陥るボール保持
前節では、ビルドアップ局面で積極的なサポートを用いたレイオフによる前進が多用されていました。レイオフのパターンもさまざまで、一定の収穫はあったかと思います。
今節では、IHのポジションでプレイした上野選手と柳瀬選手のサポートが少なかった印象です。DFライン+アンカーでボールを保持するものの、前後が分断して効果的な前進ができませんでした。
【中盤のサポートが少ない前進シーン】
今日のアンカーが森選手だったため、経験不足を補うためにも、上野選手と柳瀬選手には積極的なビルドアップのサポートをして欲しかったと思います。CBが運ぶ解決策もありますが、相手も枚数を合わせてプレスをかけていたので難しかったかもしれません。
このようにビルドアップからの前進が機能不全に陥っていたため、そこから先の展開も難しくなりました。特に、CFの髙橋選手は動き出しに特徴を持つラインブレイカーで、ポストプレーが得意なわけではないため、前身からDF裏へのパスを供給する選手の不在も響いたと思います。(※髙橋選手の動き出しに呼応できるのは渡邊選手、瀧澤選手あたり…)
前節では、IHポジションに入る小川選手や瀧澤選手が積極的なサポートを行っていましたし、アンカーの笠原選手が顔を出す回数も多かったです。この辺はターンオーバー故の機能不全とも言えそうです。
【前節では小川選手が積極的なサポートを見せていました】
相手の保持に苦戦するプレス
プレッシングに関しても相手の4222的な保持に苦戦していました。特に絞ってハーフスペースで顔を出すSHに対して、パスコースの管理ができていないのが目につきました。
【SH-DHの間にパスが通るシーン】
右SHの吉野選手とDHの柳瀬選手がプレスの段階で何を優先して守るのかが整理されていなかった印象です。SHは中を絞る、DHは縦を切ってギャップを通されないようにする、などスペースやパスコースを管理する意識を求めたいですね。
また、大宮は後方での数的優位を作ったビルドアップを志向しており、相手の保持を制限するプレスがかかりませんでした。この辺の原因に関しては、仕込みが甘いのと、メンバーが入れ替わったのとの半々といった感じです。
柔軟に動けないタイプの松本選手と吉野選手に加えて、人に強く当たるけどスペースは守れない柳瀬選手、守備範囲の狭い森選手で構成される中盤では、プレスもブロックも難しいかもしれません。(吉野選手に関してはSBをマンツーで見るというシンプルなタスクが与えられており、DFラインに吸収されるシーンも目立ちました。)
統率されたDFラインと安定した守備
機能不全な保持・苦戦するプレスと「この試合大丈夫か?」と心配になるのですが、意外な健闘を見せたのが中村選手を中心としたDFラインです。
守備に関しては吉田監督の細かい仕込みが前節からも見られており、今節も中村選手・呉屋選手の両CBを中心に的確な守備対応を見せていました。相手に主導権を握られながらも、最後のところで崩れなかったのは、統率されたDFラインによる安定した守備があったからです。
【サイドの広いスペースに展開された時の対応】
1つ目のシーンは、サイドチェンジで広いスペースに展開された時の対応です。左SBの塩田選手は無闇にボールホルダーに突っ込むのではなく、DFラインの距離感や後ろを走る選手を細かく確認しつつ、スペースとパスコースを管理する対応を見せました。
昨シーズンまでであれば、サイドに展開されたときは「SBが突っ込んで1対1でやられる」「SBは中に戻ってSHが走って戻る」という対応がほとんどでした。
ターンオーバーをしてもスペースを意識した守備ができるのは、吉田監督の指導の成果と言えるでしょう。
【DFラインのスライドとカバーリングの意識】
前節から見られたDFラインをコンパクトに保ちつつ、チャレンジ&カバーを徹底する意識の高さも目立っていました。これだけ意識高く連携した守備ができていれば、ターンオーバーをしても大崩れすることはないでしょう。
そして、特に守備面で際立っていたのが中村選手と呉屋選手のCBコンビです。DFラインを統率しながらSB裏のケアやカバーリングを的確にこなしつつ、背後へのボールに対するアラートも欠かせませんでした。
【CB2人の意識の高さと貢献】
相手に主導権を握られながらもボックス内で危険なシーンをほとんど作られなかったのは、CB2人が90分間的確な対応を続けていたからだと思います。保持面に課題が残る2人ですが、少なくとも守備に関しては安心してスタメンを任せられるレベルですね。
主力投入で改善した保持の形
前半はTOしたメンバーで何とか凌いで、後半に主力を入れて勝負を仕掛ける流れの中で、保持面に関しては若干の改善が見られました。
特に、前節積極的な狙いを持っていたポケット攻撃を狙う形が繰り返しあり、徐々にゴールの気配が強まってきました。
【インナーラップからポケットを狙う中嶋選手】
さらに、小川選手と藤生選手が入ったことで保持の形が安定し始め、レイオフを使った前進を狙うシーンも見えてきました。
【中盤で顔を出してレイオフを狙う】
本来であれば、主力を入れて攻勢を仕掛けた上で、1点をもぎ取り勝利を掴みたかったところですが、大宮の守備も最後まで固く、試合は引き分けに終わりました。
吉田監督の仕込みの跡が見える守備対応
ターンオーバーをしても第1節と同じような守備対応が見られたのは好印象でした。「主力と控えが同じプレーをする」=「明確に仕込んでいる」ということなので、吉田監督の指導が活きているのだと思います。
DFラインのカバーに入るボランチ森
CBがカバーリングでサイドに出て、CBの間にスペースができた際、ボランチの森選手が埋める動きをしていました。
これは前節で笠原選手がやっていた動きでもあり、吉田監督が明確にボランチの守備で求めているプレーと言えるでしょう。
【CBの間が割れた時にカバーに入る森】
【同じ動きでカバーリングをする前節の笠原】
出る出ないの判断やDFラインの管理
DFラインの判断の質が高く、特にスペースを管理しながら、出る出ないの判断が的確でした。
【スペースとパスコースを管理しながらスライドするDFライン】
こちらのシーンでは、広いスペースに展開された際に、無闇にボールホルダーに突っ込まず、スペースとパスコースを管理しながら適切な対応ができています。(ボランチはしっかり戻って欲しいと思います。)
【数的不利では後退しながらスペースを埋めるDFライン】
こちらでは数的不利でカウンター気味の攻撃を受けているのですが、落ち着いてスペースを埋めながら後退しつつ、ペナ手前でラインを設定し、相手の選択肢を奪う守備ができています。(CB2人の息のあった対応はお見事です。)
ターンオーバーで見えた個々の選手の印象
ターンオーバーということで、第1節と第2節を比較した上で今節気になった選手の印象を書いていこうと思います。
右SH吉野選手と渡邊選手の振る舞いの違い
保持が上手くいかなかった要因の1つにSHがプレスの逃げ口になっていなかったのも挙げられます。前節では、渡邊選手が起用されていましたが、DFラインからボールを引き出しながら、相手を引きつけて味方にパスをしたり、ワンツーで抜け出すなどの活躍を見せていました。
吉野選手がプレスの逃げ口になれていない理由には、ボールスキルの差もあるのですが、パスの受け方にも明確な差が見えています。
【棒立ちで駆け引きをしない吉野選手】
【裏を伺う動きから足元に受ける渡邊選手】
このように棒立ちの吉野選手に対して、渡邊選手は裏を伺いながら足元で受けるなど、細かい駆け引きを繰り返しています。こういったディティールを身につけてサイドが逃げ場になれていれば、もう少し保持は楽になったかもしれません。
ボランチのスライド/プレスバック/カバーリングの意識
ボランチの意識にも差が見えた印象です。森選手は身体能力的に守備範囲が狭いのに加えて、柳瀬選手はスペースを守るのが苦手なため、守備範囲が広く、カバーの意識が高い笠原選手と比較すると、ボランチの守備能力の差はかなりの影響を与えていたかとも思います。
【ボランチのスライド/カバーリングが薄い場所を突かれる】
【ボランチのスライドが遅れてハーフスペースに縦パスが入る】
安心して試合を任せられるDFライン
CB2人のパフォーマンスは非常に良かったです。ポジショニング/カバーリング/状況判断など、的確な動きでピンチの芽を摘みとっていました。
DFラインに関しては、誰が出ても同じような守備ができるクオリティに達していると思います。
【ロングボールに対する的確なポジショニング】
【中村選手のドリブル対応】
【背後のスペースを警戒しながら的確に守る呉屋】
次戦に向けての雑感
今節はターンオーバーということで、控え選手の戦術理解度やスキルに焦点が当たる試合でした。その中でも、DF陣は的確な守備対応でレギュラー組と遜色ないパフォーマンスを示していたと思います。(保持には課題が残りますが…)
保持に関しては、個々の選手のスキル不足が否めませんでした。もちろん想定内ではありますし、無失点で推移させながらレギュラーとの交代で試合を決めるプランだったと思うので、しょうがない部分は当然あります。
ただし、攻守においてレギュラー組との差は否めないため、DFラインの選手と上野選手以外の序列は動きそうにないですね。
対戦相手の大宮に関しては、昨年対戦したよりも戦術的に洗練された印象がありました。コンパクトな守備でこちらの前進を妨害しながら、的確なポジショニングでセカンドボールを拾うなど、主導権を握られ続けましたね。
保持に関しても4222の形で後方での数的優位から安定したポゼッションを繰り広げており、スムーズな前進を狙っていました。ただ、ゴール前でのクオリティや崩しの質不足や、レジーナのDFラインが強固だったこともあり、ゴールを奪うほどの脅威はなかったです。
レジーナとしては、難しい試合の中で勝ち点1を無失点で取れたのは評価できると思います。今節のTOが今シーズンのチーム力に好影響を与えてくれればいいと思いますね。