助手席の異世界転生

今日は彼女とデートだ。
車で待ち合わせ場所へ向かう。
合流する前に、ルームミラーで髪型を確認する。
「前を見ないと危ないぞ」
「……え」
車内を見渡しても、俺しかいない。
「ここじゃよ」
声がしたのは隣の助手席。
「どうやら、異世界転生したようじゃ。まさか椅子になるとはのぉ」
……助手席が喋っている。
「わしは戦士じゃった。戦場で数え切れないほどの人を殺めた」
待ち合わせ場所に到着し、駐車場に車を停めた。
彼女は少し遅れるそうだ。
「じゃが、歳には勝てん。最後は見せしめに仲間の前で殺されてな……」
「大変だったんだな」
いつの間にか同情している自分がいる。
「遅れちゃってごめん!」
彼女が車のドアを開け、謝りながら助手席に座った。
「若い娘の柔らかい感触が全身で感じ取れる!最高じゃ!」
「てめぇふざけんな!」
「ごめんなさい……」
彼女は涙を浮かべながら謝った。
助手席の声は、俺にしか聞こえなかったらしい。


たらはかにさんの企画に参加させていただきました。
以下の記事に詳細あります。


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