【改訂版】デフレ調整の計算(やさしい説明)
(説明が分かりづらいという意見をいただいたので、改訂版を出しました。質問等、遠慮なく寄せていただければ幸いです。)
以前生活保護減額裁判に関してデフレ調整のことを書きましたが、一般向けではなかったので、計算方法とその問題点についてもう少しやさしい説明をしたいと思います。
消費者物価指数とは?
デフレ調整で問題となっているのは、厚労省が持ち出した生活扶助相当CPIですが、CPIとはConsumption Price Indexの頭文字をとったもので、消費者物価指数のことです。消費者物価指数の目的は、典型的な消費者の生活水準を維持するための費用を測ることです。つまり、典型的な消費者の生計費を測ることが目的です。
消費者物価指数の出し方
次に、消費者物価指数の出し方を見ていきましょう。まず、典型的な消費者が購入する財やサービスの組み合わせを見つけます。とても簡単な例として、以下のような米と電化製品だけの2財の数値例を考えます。
最初に、この典型的な消費者が2008年に購入した米2袋、電化製品2個の数量を基準とします。これを買い物かごに入れると考えバスケットと呼びます。このバスケットの価格の変化を表すのが消費者物価指数となります。
それでは、実際にこの数値例で消費者物価指数を計算していきましょう。大事な点は、バスケットは固定されるという点です。つまり、2008年と2010年の数量は当然異なりますが、2008年のバスケットの価格の変化を見るために、2010年も2008年と同じ数量の消費がなされたと考えます。したがって、計算に使う数値例は下の表2のようになります。
表1と2を比べてみると、表2の2010年の電化製品の数量が2に替わっていることがわかります。実際は2010年の電化製品の数量は4ですが、消費者物価指数の計算では、バスケットを2008年で固定するので、2010年の電化製品の数量も2008年と同じ2とするのです。
まず、基準年の費用を計算します。2008年が基準年なので、米は10000×2=20000円、電化製品は10000×2=20000円で、合計40000円となります。次に、2010年の計算をします。米は10000×2=20000円、電化製品は5000×2=10000円で、合計30000円となります。
次に、下の定義式に基づいて、2010年のCPIを計算します。
よって、(30000/40000)×100=75となります。これは2008年を100とすると、2010年にこのバスケットを維持するための費用が75であることを意味します。
最後にインフレ率を計算します。2008年を100とすると、2010年は75なので、((75-100)/100)×100=-25%となります。なお、インフレ率がマイナスになることをデフレと言います。
パーシェ方式による計算
CPIの計算は普通は上のように行われますが、これは基準年 (2008年) のバスケットを用いるラスパイレス方式です。ここでは、ラスパイレス方式ではなく、当該年 (2010年) のバスケットを用いたパーシェ方式で計算してみましょう。
パーシェ方式ではラスパイレス方式とは異なり、2008年ではなく2010年をバスケットの基準とします。つまり、2010年の米2袋、電化製品4個を典型的な消費者のバスケットとし、2008年から2010年にかけてこの2010年のバスケットを消費するためにかかった費用の変化を考えるのです。
それでは、表3を見ながらパーシェ方式で計算してみましょう。表1と表3を比べて見ると、表3で2008年の電化製品の数量が4になっていることに気が付くと思います。実際は、2008年の電化製品の数量は2ですが、パーシェ方式ではバスケットを2010年で固定しているので、2008年の電化製品の数量が2010年の数量である4となっているのです。2008年の費用は米10000×2=20000円、電化製品10000×4=40000円で、合計60000円となります。2010年の費用は米10000×2=20000円、電化製品5000×4=20000円で、合計40000円となります。したがって、インフレ率は((40000-60000)/60000)×100=約-33%となります。
代替バイアス
以上ラスパイレス方式とパーシェ方式の両方でインフレ率を計算してみましたが、前者は-25%、後者は約-33%となり、パーシェ方式の方が大きな下落となりました。どうしてこのような違いが出たのでしょうか。ラスパイレス方式とパーシェ方式の計算で違うのは、バスケットの電化製品の数量が前者よりも後者の方が大きい点です。2010年の電化製品の消費量が増えているのは、2008年に比べて価格が下落したため、他の製品から電化製品へ消費が代替されたことを表しています。基準となるバスケットの電化製品の数量が大きいため、電化製品の価格下落の影響が大きくなってしまったのです。このように、パーシェ方式によって代替効果が作用しCPIが大きく下落してしまいました。これを代替バイアスと呼びます。
厚労省が計算した生活扶助相当CPIが大きく下落しているのは、通常のラスパイレス方式ではなくパーシェ方式を採用したため、上の例と同じようにテレビを始めとした電化製品の数量が増加した2010年が基準のバスケットとなってしまい代替バイアスが生じたことが原因です。代替バイアスによって、一定の生活水準を維持するための費用が大きく下落したと見なされ、生活扶助費が大きく減らされてしまったのです。価格指数に完璧なものは存在しませんが、生活保護世帯だけがこのバイアスの影響を被らなければならない合理的な理由は存在しません。これは、生活保護世帯への差別であると思います。
参考文献
Mankiw, N. (2010) Principles of Economics 6th edition, South-Western College Pub. (足立英之他訳(2014)『マンキュー入門経済学(第2版)』東洋経済新報社)