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ニワカも普通にジャンルを潰す

格闘技の話です。若干マニアックです。

平本蓮のドーピング疑惑は、対戦した朝倉未来とともに陰性という結果が出て、一応は決着がついたかたちだ。

だが、現状のネットの盛り上がりを見る感じでは、もうしばらく、もしかしたら向こう5年や10年は尾を引く問題になりそうである。

まあ、盛り上がっているのはいつもの如くSNSの声がでかい人たちだけで、多くの格闘技ファンは冷静に事の経緯を見守ってくれていると思いたい。

僕は、あるジャンルのファンを「マニア」や「ニワカ」に分類すること基本的には好まない。実際には両者の間には果てしないグレーゾーンがあり、100%純粋なマニアもニワカもないからだ。

しかしそんな僕でさえも、今回の件に関しては一部の格闘技ニワカの人たちが無駄に騒動を大きくしていると思っている。


あなたUFC見たことあるんですか?

今回「ニワカ」な人たちの中で目立って支持された意見に「UFCのように厳しい検査体制を実施しないRIZINは所詮二流、三流団体だ」というものがある。
UFCでは血液検査や試合期間外の抜き打ち検査などを実施しているとされており、確かにMMA団体では最高水準に厳しい薬物検査をしていると言える。

しかしそういう意見を言う人たちは、RIZINが世界的にみても(UFCに遅れをとっているとはいえ)それなりの水準で検査を実施していることや、RIZINがWADAのような外部の検査機関に検査をしているのに対してUFCはUFC内部の検査機関を利用している(自浄作用や検査の客観性に懸念があるのではないか、と言う指摘がある)ことなどを、おそらくは知らないのであろう。

まあこの辺の検査体制の話は多少マニアックだから、知らないとしても仕方ないのかもしれない。
(調べれば普通にわかるけど)そういうことにしておこう。

「UFCのように〜」とUFCの検査の優位性ばかりを主張しRIZINを貶める人たちに僕がいちばん聞いてみたいのは「あなたUFC見たことあるんですか?」という問いである。

UFCの現ヘビー級チャンピオンがどんな人か知ってますか?
ジョン・ジョーンズ(JJ)ですよ。彼が今までに何回ドーピング検査にひっかかってるか、合計でどれくらいの期間出場停止処分くらってるか、知ってますか?木村ミノルなんて比較にならないくらいヤバいよ?
JJは飲酒運転やドラッグ、銃の違法使用などで、(僕が覚えているだけでも三回は)逮捕されている。ブレイキングダウンも真っ青のゴリゴリの犯罪歴です。
JJは10年近くPFPだともてはやされ続けているけど、JJにまつわるエピソードはあまりにもダーティすぎるし、そんなJJが人類最強を決めるべきヘビー級の頂点にいるUFCに、僕はなんか乗り切れない。

SNSで皆さんが「UFCのように〜」と主張するような厳格な検査をしているとしても、JJがチャンピオンでいるような団体ですよ。
RIZINがそういう団体になったら満足ですか?


ちょっとだけ昔の話になりますけど「どう考えてもドーピングやってるだろ」と言われていた当時のアリスター・オーフレイムやブロック・レスナーをスターとして重用し、オクタゴンに上げ続けたのもUFCですよ。
実際アリスターもレスナーも、何度ドーピング検査にひっかかかっても、それが原因でUFCをリリースされることはついになかった。

そんなUFCで、かねてよりドーピングを批判して自身のクリーンファイトを強調し続けていたマーク・ハントは、ドーピングをしていたアリスターにもレスナーにも負けてしまっています(レスナー戦は試合後にレスナーの薬物検査失格でノーコンテストになった)。

意地悪な見方をすれば、ドーピングしてる選手を使ってクリーンな選手たちを泣かせて稼いだ金の上に、現在のUFCの世界最高水準の検査体制がある、とも言えるわけです。

UFCが世界一の団体であることは僕も同意するけど、血液検査・抜き打ち検査してるから100%善でサイコー、やってないRIZINは悪でダメダメのお笑い団体、みたいに言うのは普通に考えて違うでしょ。

そもそも、あちこちで「アイツは怪しい」と言われつつK-1はじめとする数々の団体が放置してきた木村ミノルのドーピング疑惑に、ついにメスを入れたのがRIZINだったことを覚えていますか?
だから、木村ミノルの薬物問題を指摘し続けて鼻摘み者にされかけていた城戸康裕は、検査を実施して結果を公表し木村に処分を下したRIZINの対応を評価したわけです。

RIZINの対応は100点じゃないかもしれないけど、かといってドーピングを容認しているわけではない。容認するわけがない。



RIZINに「改善の余地がある」からといって「叩き放題」なわけじゃない

上記のようなことをちょっとでも知っていたら、単純に「UFCのように〜」とか「だからRIZINはダメなんだ〜」なんていえないと思う。
少なくとも、20年くらい格闘技を見続けている僕は、そんなことをいう気に全くなれない。

もちろん、今回のRIZINの対応が世間の反応に対して若干後手に回ってしまった感は否めないし、検査体制については今後も改善していく余地がたくさんあると思う。
今回の件を受けて、検査体制がより高度になっていくとすれば、日本の格闘技界にとっては不幸中の幸いだとろう。
また、普段の言動を含めた平本蓮の振る舞いが、火に油を注ぐ結果になったことも事実だと思う。

しかしだからと言って、RIZINや選手たちの対応の不備をあげつらって叩き、あまつさえそこから根拠のない陰謀論まがいのデマを作り出して選手や関係者を誹謗中傷するのは間違っている。
血液検査しろ、平本はクロに違いない、と浅薄な知識で根拠のない主張を繰り返す人は、格闘技に悪い影響を与えている。

UFCの現状や歴史を知らずに良い面だけを見て称揚し、RIZINが今までやってきたことも知らずに誹り、おまけに情報が十分に出ていない段階から憶測だけで吹き上がる人たちは、単に「無知」だし「無恥」だと思う。

UFCがどんな検査をしていてどういう団体か、RIZINがこれまで何をやってきたのか、格闘技におけるドーピング問題にどういう歴史があったのか、手元にあるスマホで調べればすぐにわかるのに。



「マニアがジャンルを潰す」だけではない

ここで表題の話に戻る。

「マニアがジャンルを潰す」というのは新日本プロレスの社長の言葉だそうだが、今回のドーピング疑惑をきっかけに盛り上がったSNSを見て僕が思ったのは「ニワカも普通にジャンル潰すじゃん」ということだ。

もちろん、ニワカであることや知識がないことは罪ではないし恥でもない。むしろ、知識がない人を、そのことを理由に非難することこそ恥ずべきことだ。

しかし、ちょっと調べればわかる答えすら求めず、自分の思い込みだけに基づいた持論を振りまくことは、ニワカかマニアかということよりもまず人として間違っている。

冒頭の繰り返しになるけど、僕はそもそもニワカ/マニアでファンを分類することが好きではない。誰しも最初はニワカだし、ニワカでもマニアでも安心して熱く盛り上がれる環境こそ、そのジャンルの成長を支える基礎だと思う。

けど今回の騒動に関して言えば、ルールにないけど血液検査をしろとか、検査結果をが隠蔽されているとか、だから日本の格闘技はダメなんだとか、知識もない一部のニワカの吹き上がりが、格闘技の品格を下げてしまった。

彼らがやったのは、これまでの格闘技の歴史を築いてきた先人たち、今の格闘技を支えている関係者、なにより現在進行形で闘いに向き合っているファイターたちへのリスペクトを欠いた行為だ。

騒動の起点になった匿名暴露系アカウントや、その背後にあるとされる人間関係の闇とか、そういうことは僕には全くわからないしハッキリいって興味もないが、何らかの事情で当事者同士がなにかいがみ合うのはまだ理解の範疇だ。

けど、部外者である一介のファンたちが、いっときの熱に浮かされて、あやふやで、時に明確に間違った認識で炎上を手助けするような発信をするのは、僕には全く理解できない。

そんなことして誰が得するの?

それって結局、格闘技を盛り下げてるだけじゃん。

格闘家たちの名誉を傷つけてるだけじゃん。

これも冒頭の繰り返しになるけど、格闘技界につけられてしまったこの傷は、残念ながら向こう5年から10年くらいは尾を引くような気がする。


とりあえずRIZIN.48が盛り上がってほしい!!!

僕が目下懸念しているのは、9月末に開催されるRIZIN.48が、一連の騒動にかき消されて全く盛り上がっていないことだ。

RIZIN.48ではライト級タイトルマッチとして、ホベルト・サトシ・ソウザvs.ルイス・グスタボバンタム級タイトルマッチとして井上直樹vs.キム・スーチョルが予定されている。

特に井上vs.スーチョルは、血液検査推しのニワカたちが大好きなUFCにも劣らぬ好カードで、朝倉海を除けばアジア最強を決める闘いになるかもしれない。

また今大会で引退を表明している浅倉カンナvs.伊澤星花のワンマッチもある。両者の実績を考えれば、このカードが今まで実現してこなかったのがちょっと不思議な気もしてくる。


他にも、萩原vs.高木、元谷vs.太田2、矢地vs.宇佐パト…、とにかく豪華なカードが揃っている。超RIZIN3に入っててもおかしくなかったカードも多い。

にもかかわらずこんなに盛り上がりに欠けているのは、やっぱり一連のドーピング疑惑騒動がこれだけ過熱してしまったからだろう。
騒動が出場選手のモチベーションやパフォーマンスを下げることはないと思いたいが、肝心の闘いの場・ファンの熱が冷めていては元も子もない。


RIZIN関係者のみなさんも今回の騒動にだいぶエネルギーを削がれてしまったのだろう。それが、RIZIN.48のプロモーションの低調さにつながっていると思う。

榊原さん、笹原さん、佐藤大輔さん、鈴木アナ、その他にもたくさんのRIZINを支えるメンバーの格闘技に対する情熱をファンはよく知っている。彼らこそが、誰よりもJapanese MMAのファンだ。
だから、彼らが今回の対応でどれだけ苦慮したかを想像すると、PRIDEやDREAM以来追い続けているファンとしては心苦しくなってしまう。

なにより、こんな結末で引退を迎えることになってしまった朝倉未来選手のことを思うと本当に悲しい。YoutubeもBreakingDownは快調そうだし、心境は本人のみぞ知るが、将来にわたって彼のメンタルに悪い影響がないのかが本当に心配だ。


今回の騒動で訳のわからないデマに噴き上がっているのはRIZIN視聴者のほんの一部で、大半のファンはニワカであれマニアであれ、今回の騒動の推移を静かに注視しつつ、格闘技というジャンルを愛し、格闘家にリスペクトを持ってリングを見つめているはずだ。


僕はそう信じたいし、僕自身もそういうファンでありたい。


とりあえず、検査結果も出て一区切りついたんだし、こっからはRIZIN.48の話題で盛り上がってくれ!!!


※カバー画像はRIZINの会見動画のサムネから。

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