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慶野松原、ホタルがいる海

ホタルがいる海
                     狭間 孝
 
砂地に這う松の根っこで転ばぬよう
松林の中を歩きながら
ふと立ち止まり
真夏の空を見上げた
 
松の枝が絡み合う隙間から見える空
こんなに空が広く見えていたのかなあ
 
空も海も見えない
昼間でも
枝が重なり合って薄暗かった
子どものころの記憶が浮かび上がってきた
 
五十年過ぎて久しぶりに訪れると
途中から折れた松の老木
朽ちて残った大きな切株
細い松の木の間から
小豆島が見えていた
 
夕暮れ時 西播磨の海がキラキラと
濃いみかん色に見えてきた
雲も赤く色づいてきた
 
夕日が沈み 暗くなってきた
砂を握り
海に向かってザザザァーと投げてみたけれど
何も起こらなかった
 
昔と変わりないような気もするが
子どもの頃の記憶だから
変わってしまったのかもしれない
記憶の奥底から湧いてきたものは
 
砂を海に投げると
幾重にも光が重なりあい
暗くなった海が 光る
満天の星と同じくらい 光る 
ツーと青い光を放つ
 
松林と空と白砂の海
光る海ホタル
慶野松原の夏は
幼い頃の風物詩

五色浜

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