デリバリーのバイトの話
1年前の僕が27歳のときの話し。
僕は韓国料理屋さんのデリバリーのバイトをしていた。
ある日、いつものように出勤し商品をデリバリー用の3輪のバイクの後ろの方にある、なんという名前かは分からないが「めっちゃ商品守ります」みたいな箱に入れて注文先の家へと出発した。
その日は8月で空に入道雲が広がる、めちゃくちゃ天気の良い日だった。
気温は30度を超えているがバイクに乗っているので風が吹いてとても気持ちいい。
テンションの上がってきた僕は、バイクのエンジン音にかまけて大声で歌を歌った。
ゆずの夏色やmihimaru GTの気分上々やFLOWの GO!!!など思いつくテンション高めの歌を沢山歌いながらバイクを走らせていた。
とても楽しいひとときを終え、注文先の家に着いた。
楽しい気分のままバイクの箱のフタを開けると、商品が無かった。
瞬時に頭をフル回転させ、店を出発したときのことを思い出した。
すると商品をバイクの箱に入れたあとトイレに行った記憶があった。
推測するに、恐らくトイレから戻ったあと違うバイクに乗ってしまったのだ。
合点がいくのはトイレから戻ったあと持ってたバイクの鍵が刺さらず違う鍵と交換した記憶が確かにあった。
つまり商品は交換する前に持ってた鍵のバイクに入っている、と推測した。
勿論さっきのテンションはもう無く、冷や汗を沢山かきながらお店に電話をしたら僕の推測は寸分違わず当たっており、別のバイクに商品があったらしい。
よって僕は電話口で物凄い形相であろう口調で怒られた。
とてもごもっともな怒りだった。
そして、電話で注文者に何が起こったかを説明しろと言われたので指示に従いダッシュで注文者の元に向かった。
注文者は30代くらいの女性だったのだが事情を説明すると何も言葉は発さなかったが、ずっと「どういうミス?」という表情をしていた。
我ながらすごい熱量で謝り、急いでお店に商品を取りに帰った。
片道15分くらいあるのだが行きしと違いとても長く感じた。
少しでも気持ちを紛らわそうと意図的に歌を歌った。
人間とは不思議なもので思いつく曲はうる覚えの森山直太朗の生きとし生けるものや一青窈のもらい泣きなど神妙な曲ばかりだった。
店に着くともう他の人が僕の届け損ねた商品を届けに行ってくれており、店の奥で少し冷静になった店長が待っていた。
諭すように怒られ、気をつけようと決意し次の配達先へ最新の注意を払いながら歌を控えて向かった。
無事に商品を届けられたのだが、今度はバイクを適当な路地に置いてスマホの地図アプリを見ながらちょっと入り組んだところにある目的の家に向かってしまったので商品を届けたあとバイクの場所が分からなくなり、小一時間バイクを探すことになってしまった。
バイクを見つけて急いで戻ったが、店長はもう呆れすぎて怒りもしなかった。
とりあえず賄いでも食えと店長が僕の好きなプルコギ丼を出してくれたが全く味がしなかった。