数字を見てわかった気にならないために意識したいこと
数字を見てわかった気になることはとても危ない。特に初めて目にする情報には注意したい。そんなことを改めて実感する記事を読んだので紹介します。
記事はこちら:
じつは戦争を望んでいた、憲法にNATO加盟を掲げた…?ゼレンスキー大統領への「大いなる誤解」を解く
です。
ウクライナ語、ロシア語に堪能な、岡部芳彦神戸大学教授の記事です。それは、「73%だった支持率がその後、20%台後半にまで低迷していたが、開戦後90%超にまで回復した。だからゼレンスキーは戦争を望んでいた」という文章の解説の部分です。
73%(就任時) ⇒ 20%台(2月24日以前) ⇒ 90%超(戦争勃発後)
比べてはいけない数字の比較であることが、解説からよくわかります。
73%:二択の決戦投票の数字。(当然、勝者は過半数を超える)
20%台:「明日投票するとしたら誰に投票するか?」という問に対するゼレンスキ―の割合。いろいろな複数名の名前があがる調査。(任期3年目の大統領としては高い数字)
90%超:「大統領の行動を支持するか?」という問に関する回答。
二択であれば、もちろん率は上がります。このように調査方法を少し確認するだけでも、比較できないことはわかります。
勝手に数字の増減だけで理解したつもりのなってはいけない、を改めて実感しました。特に背景などをよく知らない事柄については、少し引いて理解する、類似の調査の結果がどうなのか調べ、比較する必要がありますね。
日本の世論調査でも
一般に、日本の世論調査でも、メディアによって支持率が随分違います。それは設問の方法、サンプルの選び方に違いがあるからです。それを解説した記事の例です。
3分でわかる政治の基礎知識 世論調査のマジック「内閣支持率が1ポイント上がった」は間違い 2019年12月3日
この記事の趣旨は、各社方法が違うので同時期の調査結果を比較しても意味がない、各社の増減の傾向を確認しよう、というものです。
初めて知ることを、簡単に「理解できたつもり」になるのは危ない
紹介した岡部教授の記事では、「憲法にNATO加盟を掲げた」「三年間、クリミア問題解決のために何も手段を講じなかった」「2021年10月にドローンで親ロシア派武装勢力を攻撃したのが今回の戦争の原因」という点についても説明があります。
・憲法にNATO加盟が明記されたのは2019年2月(ポロシェンコ政権下)
・政権発足当初のゼレンスキーの対ロシア路線は非常にソフト(2019年12月9日、ウクライナ東部紛争の和平協議開催(仏大統領仲介)、ウ・ロの間で12月末までに戦闘停止の措置を取ることで合意)
・「親ロシア派」の武装勢力の実体はロシア軍
ヴォロディーミル・ゼレンスキー
1978年 1月生まれ
1997年 チーム「クヴァルタル95」を立ち上げ、モスクワを拠点に活動
2003年 チームを制作会社化
2005年 コメディーショー歴代ウクライナ大統領批判など政治風刺のコント
2012年 ウクライナオリガルヒの一人が所有する「1+1」チャンネルに移籍
2015年 ドラマ・シリーズ『国民のしもべ』
2018年 12月末、テレビで突然大統領選挙に出馬表明
2019年 第一回投票得票率約30%で首位、4月の決選投票で73%近い得票率
5月20日、第6代ウクライナ大統領に就任
事実関係、時系列を少し確認するだけでも、何か変だと思える事柄がいろいろありそうです。
感想:何かを初めて知った時。こうだったんだー、と感心する場合も多いでしょう。でもそれは、今知った1面からしか物事を捉えていないはず。それだけで理解した気になってしまうのは、とても危険だと思います。まずはそんな意見・考え方があるのだ、と受け止めること。できるだけ事実関係を確認すること。専門家の意見を調べること。
(たとえ大学教授でも、専門家だからこそ専門の分野は狭いはず。なので、その人の本当の専門が何かを調べることも大事。専門外で知ったように発言していたら、かえって危ない。陰謀論への入り口。)
まだわからないことを、わからないと受け止めること。保留すること。
この例だけでなく、因果関係の有無を理解しようと思った時にも出てきました。「Go To Trave l事業が感染拡大の主要な要因であるとのエビデンスは現在のところ存在しない」が言っているのは、今はわからない、だけ。GoToトラベルが感染拡大に無関係とも、関係があるとも一切言っていない。
まずはこの、結論を保留できることが重要だと、改めて強調したいと思います。