基本を知らずに発言して、「平均余命」の意味を誤解する人を増やさないで欲しい
今日は少し違う話題。今炎上しているらしい「余命投票制度」の話題です。取り上げようと思ったのは、平均余命とは何かを知らない人がこの議論を聞いたら、悪い影響しか残らないと思ったからです。
ポイントは3つ。
(1) 平均寿命100年はあり得ない
(2) ポイントとしている計算は、余命ではない
(3) 平均寿命より長く生きる人のポイントはどうするつもりなのか?
そして前提として知っておきたいことが2つ
(a) 平均寿命と平均余命
(b) 「人生100年時代」で厚労省が何を言っているか
つまり「余命投票制度」は実態としても、制度としても杜撰。平均余命の正しい理解を阻害するという意味でも問題!
(a) 平均寿命と平均余命
平均寿命は、生まれてすぐの人の平均余命です。これ以外に、「寿命中位数」というものもあります。
今の日本の平均寿命は男性81歳、女性87歳です。
日本では、寿命中位数は平均寿命より上になります。つまり平均寿命より長く生きる人が過半数を超えることになります。
知っておくべきは、例え50歳の男性の平均余命は81-50=31年ではなく、33年。これは生命表からわかります。
(b) 「人生100年時代」で厚労省が何を言っているか
人生100年時代と言われて久しいですね。平均寿命が100歳になる、と思っている人も多いようですが、厚労省の資料を見ても、平均寿命100歳になるとは書いてありません。はっきりとは述べず、単に100歳になると言われている、と「LIFE SHIFT─100年時代の人生戦略」という書物を引用しているだけです。
どうしても言わなければならない時は、「ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されており」のよううに記載されています。(つまり寿命中位数が107歳であって、寿命については何も言っていない。)
(元資料へのリンクが切れていたので、現状を貼っておきます)
(1) 平均寿命100年はあり得ない
平均寿命100年はあり得るのか。もちろん数字的にはあり得ます。しかし現実的には無理でしょう。理由は生物としての人間の寿命がせいぜい120歳だから。そしてどう考えても、若い時期に亡くなる人が出てくることは避けようがないからです。
個人的には、寿命中位数が100歳になる可能性は、平均寿命が100歳になるよりは高いと考えています。(寿命中位数が100歳になるとは、とにかく半数が100歳まで生きるということ。0歳で亡くなっても99歳で亡くなっても影響は同じです。しかし平均寿命への影響は全く違います。)
(2) ポイントとしている計算は、余命ではない
上にも書きましたが、平均寿命から自分の年齢を引いたら平均余命、なんてありえません。しかし、説明を聞いて誤解する人が出てくる可能性が十分に高いと感じます。
平均余命は重要なデータなので、簡易生命表として毎年公開されています。
(3) 平均寿命より長く生きる人もいる
制度として考えようと言っているのですよね。今でも100歳を超える人が多いことを忘れているのでしょうか?(それともそれ以上の年齢の人の選挙権をなくそうとしている?)
結論:「余命投票制度」に価値なし。逆に、平均寿命、平均余命の概念を間違えて使って伝えている意味で害悪。厚労省の「人生100年時代」の間接的プロパガンダ。