ワクチン3回目接種の必要性を説明している厚労省のQ&A

ワクチン3回目接種が必要と主張する人は、何を根拠にしているのでしょうか。それを知ることも意味があると思います。今回は、何故か今日facebookに流れて来た厚労省の宣伝を取り上げてみます。内容を深く理解しなくても理解できることもある、書かれていることを鵜呑みにしてはいけない、というわかりやすい事例なのではないでしょうか。

何度か繰り返している3つのポイント
 (a) データリテラシーを向上させよう
 (b) 数学・確率・統計がどのように使われているかを知ろう
 (c) 多くの反論に耐えることが科学だ

の中では(a) 、特に「デーの成り立ち、解釈、伝聞に注意/わからないことは、わからないということが正しい/発信者の発言目的も意識しよう」に関係すると思います。(加えて、いつの情報か、が大事)

取り上げるのは厚労省の新型コロナウイルスに関するQ&A

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の1つ:

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まず、今問題になっている感染はオミクロン株です。オミクロン株はいつからだったのか。11月末でした。正確には、

WHO は 2021 年 11 月 24 日に SARS-CoV-2 の変異株 B.1.1.529 系統を監視下の変異株(Variant UnderMonitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年 11 月 26 日にウイルス特性の変化可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。

でわかります。11月24日に南アフリカがWHOに報告、26日にオミクロン株と命名されたのでした。このQ&A文章の日付である11月30日は、オミクロン株が発表されてから5日後、すでに存在と感染力の強さは知られていたが、状況が全くわかっていなかった時期ということになります。

続いて主張している内容です。

追加接種(3回目接種)について
2021年11月現在、諸外国では複数の国で追加接種が進められており、日本でも同年12月からの開始に向け、現在、準備が進められています。2回目の接種から時間が経った方に追加接種を実施すると、2回目接種直後よりも高い抗体濃度を獲得することが報告されています(※5)。そして2回目接種のみのグループと比べて、3回目接種を受けると10万人あたりの重症化患者数が約12分の1に低下したケースもあります(※6)。現在(2021年11月)、国内での新型コロナウイルスの感染状況は、以前に比べて落ち着きを見せていますが、今後再拡大するリスクも残されています。免疫の記憶力は時間とともに一部低下してしまいますが、追加接種により強化することは可能です。本コラムの内容も参考にして、3回目の接種をご検討ください。

まず注目したいのは、この時点でオミクロン株に対するワクチンの効果は全く不明だったはず、という点です。つまり主張しているのは、デルタ株かそれ以前の株に対する有効性であるはず。時系列を確認するだけで、ワクチンがオミクロンに有効か議論されていないはずだ、わからないはず、と結論できます。

続いてワクチンの有効性を抗体濃度の話だけにすり替えている点にも注目ししたいと思います。抗体濃度という数値にして、あたかも有難いように感じさせる。この方法なら副作用に触れなくても、触れていないこと自体が目立たなくなります。嘘は言っていません。嘘を言わなくても印象を植え付けることはできる、という事例だと思います。

(さらにもう1点、この文章から感じるのは、感染拡大リスクを強調しているので、もしも感染が拡大すればワクチン接種ができると喜ぶ人もいたのではないか。妄想ですが。)


さて、今回はこれ以上内容には踏み込まず、2つの参考文献に注目してみます。関係するのは文献5、6です。

※5:N Engl J Med 2021; 385:1627-1629
(SARS-CoV-2 Neutralization with BNT162b2 Vaccine Dose 3)
※6:Lancet 2021; Oct 29:S0140-6736(21)02249-2
(Effectiveness of a third dose of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine for preventing severe outcomes in Israel: an observational study)

文献5:SARS-CoV-2 Neutralization with BNT162b2 Vaccine Dose 3

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いつの論文でしょうか。日付は9月中旬です。これだけ見ても、この論文にオミクロン株のことは書かれているはずがないと確信できます。

続いて著者の所属に注目です。

University of Rochester, Rochester, NY
incinnati Children’s Hospital, Cincinnati, OH
University of Texas Medical Branch, Galveston, TX
BioNTech, Mainz, Germany
Pfizer Vaccine Research and Development, Hurley, United Kingdom
Pfizer Vaccine Research and Development, Pearl River, NY
Pfizer Vaccine Research and Development, Collegeville, PA

大学とファイザー、ビンテック。つまりこの論文は、ワクチン開発メーカーが大学と連携(多分資金供給)して書いたものと言って構わないと思います。いずれにしても、ワクチンメーカーが入った論文で、不利になる結果を出すとは思えません。

(そしてこれを今だに効果があったという根拠の1つにするのは・・・)


文献6:Effectiveness of a third dose of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine for preventing severe outcomes in Israel: an observational study

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Lancet. 2021 4-10 December; 398(10316): 2093?2100.
Published online 2021 Oct 29. doi: 10.1016/S0140-6736(21)02249-2

あれれ?オンライン公開は10月末ですが、実際には12月のようですね。いずれにしても、やはりオミクロン株の議論は全く入っていないはず。実際、グラフはこんな感じです。

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いつものグラフで見ると、

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で形は一致します。しかしその後どうなったか。今日現在では

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となっています。つまり論文の時期は、ちょうどワクチン3回目接種が始まった後、ワクチンの効果かは不明ですが、感染者数が減り始めていた時ということですね。今はまたまた感染拡大中。

そして著者の所属。こちらはイスラエルとアメリカの大学や病院が並んでいます。(ファイザーとの関係は、名前だけからは何とも言えません)

内容詳細はわかりませんが、いつ、だれが書いた論文かを考えれば、その時のイスラエルの感染状況が書かれているのだと思います。


以上が「国立感染症研究所」の「高橋宜聖」という人の説明と参考文献です。その時、ちょうど感染が縮小期にあったイスラエルの情報と、ファイザー関係の論文を文献としてあげているわけです。(そのタイミングでしか言えないはずのワクチン3回目が有効だという情報を、意図的に集めているように見えて仕方がありません。)


もう1点、注目したいことがあります。厚労省のページとして最後に

(注:本コラムに記載している内容は、筆者の見解となります。)

という記載があることです。
厚労省が責任を持つべきWebサイトであるのに「著者の見解」って何?
内容は誰の責任において発信されているのでしょうか?


結論:このQ&Aの根拠は
・ファイザーがかかわった論文
・オミクロン株前の感染縮小期のイスラエルで書かれた論文
である。
少なくともオミクロン株に対してワクチンが有効であるとは一切言っていない。従ってオミクロン株の感染拡大前に、急いで3回目接種を推進する根拠にはならない。


誰が主張しているのか、いつのどんなデータなのか、という基本に注目するだけでも、多くのことを読み取れる事例だと思いました。


(a) データリテラシーを向上させよう
デーの成り立ち、解釈、伝聞に注意/わからないことは、わからないということが正しい/発信者の発言目的も意識しよう/人は安心したい、騙されたとは思いたくない/人は自分が正しいと思う(思いたい)情報を探す
(b) 数学・確率・統計がどのように使われているかを知ろう
全数調査できないから一部を調査/幅のある推定を知ろう/「有効性あり」と科学的に主張するには仮説検定/因果関係と相関関係は別物/直接の因果関係が不明でも統計ならできることがある/人は無意識に数学を使っている
(c) 多くの反論に耐えることが科学だ
反論こそが科学の発展を促した/嘘・捏造・作為的データも存在する/同じ方向を向く結果は信頼できる