認知バイアスの古い例 ~勝ち組・負け組~
信じたいこと(だけ)を信じる。古くから繰り返されて来たことです。情報の一部だけを切り取る。信じていないことはフェイクだと切り捨てる。同じことを信じる人だけで集まる。私たちは常に自分がそうなっていないかを意識する必要があります。しかし抜け出すのは容易ではありません。陥らないためにできることは、知識を広げる、経験を積む、ということに尽きるでしょう。
知識を広げる、は多岐にわたります。認知バイアスの存在を知ること、論理的思考ができるように学ぶこと(数学統計の知識はこの一部)、騙されやすいことに気が付くこと、これまで人がどんな認知パイアスに陥って来たかを知ることなどがあるでしょう。
経験を積んで、自分が信じたいことだけを信じていたのではないか、と自問自答することも大事です。深く入り込む前に、できるだけ様々な意見を聞く、あえて反対意見の人の反論を聞いて納得できることがないかを考えてみるのも重要ですね。
今回は、知る人ぞ知る認知バイアスの例を1つ紹介します。この例では、一生抜け出せなかった人もいるかも知れません。
取り上げるのは、「勝ち組・負け組」。ブラジルで第二次世界大戦後に起きた、日系人同士の対立です。簡単に言ってしまえば、日本からの情報(主に短波放送)を信じていた人たちは、「日本が負けた」という情報を得ると、そんなはずはない、日本が勝ったはずだ!と思ってしまった人たちがいた、という話です。そして「本当は日本が勝った!」という情報が流れました。それを信じたい人たち(つまり認知バイアスに陥った人たち)が、負けたことを認める人たちへの銃撃騒ぎまで起こしてしまった、という話です。
原因の分析と共に、様々な対応が行われました。しかしその経過を追うと、信じ込んでしまった人たちの認知バイアスは、そう簡単に変わるものではないことがわかります。
例えば30年後。高度成長期真っただ中の1970年代の日本を訪問した負け組の人。「ほら見ろ、日本はこんなに豊かになっている、やっぱり日本は勝ったんだ。」
「その女、ジルバ」(漫画、2021年テレビドラマ化)でも、勝ち組・負け組の問題が長く尾を引いていることが描かれています。
認知バイアス。情報が簡単に手に入るようになった今こそ、情報は自分が選んでいる、つまり一部を排除していることを、十分意識したいものです。