「重症者の6割がワクチン接種者」

統計は奥が深いです。例えば一つの数字。たった1つの数字でも、多くの情報が絡み合って出て来た結果です。今回は教えて頂いた面白いサイト(英語)を紹介し、内容を確認してみようと思います。

8月15日現在のイスラエルのデータを分析したものです。「Israeli data: How can efficacy vs. severe disease be strong when 60% of hospitalized are vaccinated?

初めのデータ。8月15日現在の重症で入院中の人数(重症者数)は515人、うちワクチン未接種者214人、2回接種者301人。

    つまり重症者の6割がワクチン2回接種者だ!
    ワクチン受けない方が良いんじゃないか?! 

…と思うかも知れません。しかしそんなに単純に結論できるものではないことを確認していきましょう。


実数ではなく、比率で確認
重症者数のうち、ワクチン未接種者214人、2回接種者301人。確かに人数的にはワクチン接種した人の方が多いようです。しかし、数字をそのまま比べて意味があるでしょうか?イスラエルはワクチン2回接種が進んだ国です。国民の8割近くが2回接種済み。圧倒的にワクチン2回接種者が多いので、実際の人数(重症者数)は多少多くなっても不思議ではありませんね。
そこで、ワクチン未接種者、2回接種者の中の重症者数の割合を調べると、10万人あたり、それぞれ16.4人、5.3人になります。つまり、10万人あたりの重症者数は、ワクチン2回接種者の方が少ないことがわかります。

ここでは 1-5.3/16.5=0.675,  67.5%  を計算して「効果」と表現することにします。(この値はワクチンの有効性の計算に似ていますが、接種・未接種がランダムに選ばれていない、つまり後ろ向きの評価なので、本当の意味でのワクチンの有効性とは異なります)

それにしてもこの数字、67.5%は、ワクチンの有効性と言われた90%、95%とは随分違います。どうなっているのでしょうか?
そもそもイスラエルでもワクチンの接種率は、年代で違うのでは?それも含めてもう少し詳細が知りたい。
ということで、データの分析第2ステップに行ってみましょう。

年代別に分けて効果を確認
イスラエルでも、50歳以上の高齢者はワクチン接種率が高いようですが、50歳以上人口は50歳未満の約半分です。接種率は、50歳未満が73.0%、50歳以上が90.4%とのこと。そして重症者のうち未接種者は、50歳未満が43人、50歳以上は171人。2回接種者は50歳未満が11人、50歳以上が290人とのことです。10万人あたりにすると、それぞれ3.9, 91,9 そして0.3, 13.6 となり、効果はそれぞれ91.8%、85.2% となります。(下記参照)

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ワクチンを接種した人が重症になるリスクがかなり低いようなので、少し安心・・・ですね。

とは言え、これらの数字、67.5%と91.8%, 85.2% を見て、何か変だと思いませんか?年代を分けるとそれぞれ85%以上なのにも関わらず、全体では7割以下。平均すれば普通、間の数になるのでは?

シンプソンのパラドクス
ここで計算した「効果」は、少し複雑な計算でした。「嘘を言わずにできること」に書いたことを確認してみましょう。元々全体では弱い正の相関があるデータでも、データを一部に限定すると負の相関になることがある、という事例を紹介しました。つまり負の相関があるデータを複数集めた場合でも、全体としては正の相関になる場合がある訳です。上の例は相関ではありませんが、全体で得られる値(割合)と、データを2つに分類して得られた結果が大きく違ったという事例でした。

ワクチンに効果がある、と結論して良い?(以下は個人的見解を含みます)
私たちが今一番知りたいのは、ワクチンの有効性でしょう。そして結果を見る限り、効果は(今は)ありそうだと言えるでしょう。「重症者の6割がワクチン2回接種者」から得られる印象よりもずっと効果があることが示唆されます。但しこの結果(データ)は、有効であることを示唆していますが、学術的に有効性を確認できたとは言えません。有効性を示すためには、(後ろ向きでない、ランダムに被検者を分けた)治験が必要です。
別の視点での考察も必要です。このデータには、時間経過の概念が入っていないらしいのです。しかし最近、ワクチンの効果が持続しないのでは、と言われています。ワクチン接種後しばらくは効果はあったかも知れないが、その後効果が下がっている可能性は否定できません。どう変化しているかはわからないのです。そして最近増えたデルタ株についても全くわかりません。

「重症者の6割がワクチン2回接種者」と言っても効果がありそうだ、と結論したと同じように、効果がありそうだけれども、「今は」という限定付きであることは意識したいと思います。

いずれにしてもワクチンの有効性が下がっている、3回目の接種を、と言うからには、今回のデータ分析とは全く異なったデータを集めて検討しているはずだと考えるべきでしょう。(例えば2月に2回接種済み、4月に2回接種済み、という2グループ全員を6月にPCR検査し、感染を調べたという研究があるそうです。)


重症者の6割がワクチン2回接種者。
これは事実だとしても、本当の意味を理解するのはとても難しい。
決して「6割」だけで判断してはいけない、ということを常に意識したいものです。