借金まみれの工場、バイトの釣り人と新ブランドつくったら北欧の人に刺さった話【後編】
この記事は後編になります。
前編はこちら⇓
突然の連絡、そして来訪
前編の最後と一部被りますが、2024年1月24日、Yetinaのブランドディレクターを務めてくれている牟田口さん(株式会社iwashiの代表)から僕宛に連絡が入ります。
「知人の知人がノルウェーでYetinaを販売したいと言っていて、繋いで欲しいと言われている。ちなみにノルウェー人。」
「なんか数年前に日本に旅行に来た際に渋谷で買い物して、それからずっと使っていてめっちゃ良いから北欧でも広めたいらしい。」
「とても丁寧なメールをもらったので共有します。」
てな感じで、僕の元に報告がありました。
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「これはどのくらい確度がある話だろう。メールを読む限りガチっぽいが、とにかく話を聞いてみないとなんとも言えんな、、、」ということで、通訳の方を入れてオンラインミーティングを設定してヒアリング。
僕は参加できず、牟田口さんが話したところ、本気でやりたいという熱意がすごく、できるだけ早く工場見学させて欲しいと言ってもらっているとのことでした。
じゃあいつにしますか?という話で3月29日にアポイントが入りました。場所は分かるのか、迎えに行かなくても辿りつけるのか等、少しの不安を残しつつ当日までドキドキでした。
従業員駐車場にテントを積んだ車が停まってる・・・?
朝7時半ごろ、牟田口さんと一緒に車で会社に向かっているときに、総務部長から電話がありました。
「なんか駐車場にテントを積んだ車が停まってて、一部の従業員が車を停められないという状態になっているんですが、ノルウェーからのお客さまで間違いないですかね?」
牟「あーたぶん間違いないです。どっかで車中泊するとは聞いてましたが、会社の駐車場でやってたんですね。とりあえず到着したら話します。」ということで、着いたらこうです。
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どうやら、前日に東京入りし、レンタカーを借りてそのまま高速道路を走らせて加古川までやってきたらしいです。到着したのは深夜3時頃とか。目的地を会社にしていたので、そのまま駐車場で寝ちゃったとのことでした。さすがにスケジュールがハードすぎると思う。
でも降りてきた2人は元気そのもの。めちゃくちゃ笑顔で話しかけられ、そのまま少しお話してから工場見学が始まりました。
男性がジュリアン(起業家、クライマー、デザイナー)、女性がエマ(マーケター、マネージャー、写真家)で、うちのスタッフみんなにもリスペクトをもって気さくに話しかけてくれる素敵な方々でした。
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工場ツアーからの日本トリップ
まずは起毛の仕組みの勉強から。
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僕も牟田口さんも拙い英語しか喋れず、細かいところはAIを活用して翻訳してもらいつつ説明しました。
積極的にたくさん質問もいただき、苦労しつつもなんとか説明が終わり、工場見学へ。
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とても真剣な目つきで、全部理解して吸収して帰ろうと思って関わってくださいました。現場の職人にも話しかけ、ひとつも漏らさないように理解して持ち帰ろうとされている姿は、現場のスタッフにとってもすごく嬉しい体験になったようです。
そして工場見学を終えた後には、道中キャンプしながら四国で観光旅行を楽しんでいただきました。
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ここだけ切り取れば、日本発のブランドがその性能を認められ、一人のノルウェー人の心を打ち、北欧で販売がスタートする。そんなサクセスストーリーのようにも聞こえると思います。
でも、その実態はここに至るまでにどのような経験をしてきたかで、違う方向に分岐していた可能性がありました。
前編で書いたように、一度ノリにノッてから、様々な要因でうまくいかなくなる時期を迎え、そこでもがくことを経験した僕たちだったからこそ、自分たちに都合よく扱おうとせず、リスペクトを持ってジュリアン達と関わることができたと思います。
ジュリアンの確信
ジュリアンはどうやら、日常生活とクライミングとどちらでも着用していたらしく、かなりタフな使い方をする時もあれば、普段着としても使っていたと。それでいて、どんなシーンでも快適に過ごせるということが、まず使いやすさに繋がっていたみたいです。
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そして、7年くらい着用しているのに全くヘタれない耐久性に驚き、使いやすいわ長持ちするわで気に入ってくれ、これは知られていないだけで絶対に求められているし、北欧の方々に喜ばれるという確信があったとのことでした。
あとはもうその確信に乗っかった勢いで、うちに連絡してきてくれたそうです。笑
自らの実体験にもとづいた品質への惚れ込み
正直、僕たち作り手からすると、こんなに嬉しい評価はありません。
シンプルに「使ってみてめちゃくちゃ良いから、自分の国で広めたい」なんて言ってもらえると、すごく感動します。
ビジネスの枠を超えて「届いた。。。!」という感覚につながり、ものづくりにおいて心から報われる瞬間だなぁと思います。
日本国内においてこれまで、売れている実績やブランドの知名度などから、取り扱いたいと問い合わせをいただくことはたまにありました。でも、牟田口さんと僕はずっと「実際に店長さんが使っているところとしか取引したくないね。」と話をしていました。
自分で7年も使ってみて、そのうえで自国で広めたいと言ってくださっている方の想いには正直とても感動しましたし、絶対にやりたいということで、この話を全て前向きに進めることに決めました。
実際に、動き出した北欧諸国での販売
4月の時点で、instagramアカウントが立ち上がり、⇓
最初はPOPUPとか現地のクライマーに使ってもらってレビューしてもらうとか、そこから始まって、10月にはついに現地ノルウェー版ECもオープン⇓
サイト見ていただけると分かると思いますが、まずとにかく写真が良すぎる。
モデルさんの魅力やカメラマンの腕はもちろんのこと、そもそもの背景が日本では撮れないようなものが多いです。
ブランド名も北欧っぽさがあるし、思っていたより現地の雰囲気と相性が良かったです。
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実は現地の世界的なアウトドアブランドとコラボする話も進んでいます。
ジュリアンとエマのビジョン
ジュリアンとエマに、
「これから先、北欧でYetinaはどうなっていく(どうしていきたい)と思っているか」
という質問をしました。
その回答がこちらです。
「We hope that Yetina will be synonymous with timeless cold resistance clothing. The go-to option if you want to invest in warm wear in the years to come.」
AI翻訳⇒「Yetinaが「時代を超えた寒さ対策の衣服」の代名詞となることを願っています。これから先、暖かい服に投資したいときの定番の選択肢になってほしいです。」
ビジネスとしての成長性や収益性には一切言及されず、Yetinaブランドの製品をどのように広めるか?というベースで考えてくれていると感じています。
「寒いんだったらYetina着たら良いよ」と、いうやり取りが海を越えて起こっていくことが楽しみで仕方ありません。
外から見た自分たちについて
その他にも、気になって質問したことに対して、気づきをもらった返事を共有させてください。
質問「ワシオ株式会社を見学して、どう感じた?」
回答「Our impression was that we visited a family run production facility. A small team of dedicated people working together to create something more then profit. There is a Love for the craft mentality easily visible there.」
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「収益以上の何かを創り出そうとしていた。」
海を越えて、はるか遠くのノルウェーの方々に届いたワシオのものづくり。
たまたま旅行に来た時に手に取り使ってみた1枚のパーカーのファンになり、暖かい服として定番の選択肢にしたいと感じていただいた。
その熱意でパートナーシップ契約を結びたいと工場まで見学に来られ、最終的にこんな感想をいただけることになるなんて、心から感謝の気持ちでいっぱいになりました。
心を込めて、一生懸命に取り組んだものづくりって本当に人の心を動かすことができるんだ。とそう思いました。
では最後に、なんとなく気になって質問してみたことに対する回答をお伝えします。
ノルウェーから見た日本の製品
質問「ノルウェーにおいて、日本製品はどのように認識されていますか?」
回答「They are associated with technology, quality and dedication.」
technology ⇒技術力
quality ⇒品質
ここまではわかります。いわゆる日本人が想像する日本製のイメージだよなぁと思います。
では、dedication とは?
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これはなんて訳したらいいのでしょう。
僕には「(常軌を逸した)こだわりと献身」というように受け取れます。
要するに、ものづくりに身を捧げるということだと思いました。
僕はこの返事を読んで、先人たちが積み重ねてきた「Made in JAPAN」という言葉の重さを感じるのと同時に、「そのイメージを損なわないものがつくれているんだな」と思う事ができ、すごく誇らしかったです。
※Yetinaとの出会いをジュリアンが動画にしてくれました
改めて、ものづくりにおいて大事だなと思うこと
Yetinaのブランド運営をビジネス、商売の視点から捉えたら、売上や利益は当たり前のように大切な指標です。特にワシオ株式会社は長年の借金が積み重なり、その返済原資を確保した上で事業を継続していこうとすると、「とにかくどんなことをしてでも売上確保に走るのが普通」として捉えられる状況でありました。
でも、今回のことは「収益性」だけを指標にした考え方で進めていたら起きていないのではないか?と感じました。
どんな状況においても「利益を確保するために品質を下げてでも原価を安く作る」ことに傾かず、どうやって売るか?というよりも購入して着用してくれた人が、使ってみて本来の服としての価値を感じてもらえることを最優先に開発を進めたからこそ生まれたチャンスだと思っています。
事業が苦しいから、資金繰りを楽にすることだけを目的に「とにかく売れたら良い」と思って開発するのではなく、たとえ売上が落ちて苦戦しても、1枚で快適に過ごすことができるというYetinaに期待される価値提供から軸足を動かさずに踏みとどまることで実現した、と確信できる展開でした。
財務の正常化だけを目的にして、ドライに経費削減を進めたり、事業の本質的な価値を毀損するような進め方をせず、本当に本来の服としての価値を大切に積み上げてきて良かった。
僕たちは、これからもできるだけ「買ったけど全然使ってない。要らない。」と言われないように、気に入って使ってもらえる、(彼らの言葉を借りれば)収益以上の何かを生み出す購入金額だけでは測りきれない価値を提供し続けていく努力を継続していきたいです。
とても長くなりましたが、読んでくださった皆様、ありがとうございました。
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