美術館女子的体験
「美術館女子」という言葉を聞いた時、その内容を全く知らないうちから「うわ 嫌だな」と感じた。
美術館女子について何か書こうと思っているうちに、その問題点はたくさんの人によってわかりやすくまとめられ、ジェンダーや美術、その他様々な視点からの言及や議論が既になされている。今更何が問題点なのかを自分なりにまとめてもTwitterで見かけたいくつかの意見の焼き増しになってしまうので(もちろん他人の意見を元に自分の意見をまとめて文章化するのは重要なことだが)、私が「美術館女子」という言葉を見た時にぱっと思い浮かんだ経験について書こうと思う。
数年前、恵比寿にある山種美術館を訪れた時のことだった。山種美術館の企画展では、一回の展示につき写真撮影可能な作品が1つだけ用意されることがよくある。少なくとも私が行った4、5回の企画展のうち全てに、撮影可能な作品が1つ用意されていた。展示室の入り口には、展覧会の説明やチラシと一緒にどの作品が撮影可能であるのかやSNSに投稿する際に注意する点をまとめたペーパーが設置されていて、これも私が訪れた全ての展示に共通する特徴だった。
撮影可能な作品の前には他の作品よりもたくさんの人が集まっていて、みんなスマートフォンで作品の撮影をしていた。六曲一隻の屏風を1枚の写真に収めるのは難しかったので、私は3回に分けてその全体像を写真に収めようと考えた。2枚ほど撮り終えた時に、後ろから「ちょっと」と肩を叩かれた。
驚いて後ろを振りかえると、知らない中年男性が立っていた。あ、撮影に邪魔だったかなと思って謝りかけたのだが(謝らなくて本当によかった!)、それより先に男が
「写真撮っちゃダメなんじゃないの」
と明らかに怒りを含ませた口調で言ってきた。
!?
!?!?!?
一瞬だけ混乱して、その後 またか~ という気持ちになった。
「いや、撮っていいって書いてあるだろ」
と言うと、その男は あっという顔をして、謝りもせずに気まずそうに私から離れていった。
顔や雰囲気が弱そうなのもあってか、私は馬鹿で失礼な年上の人間から高圧的な態度で絡まれることがよくあった。
作品の前には割とたくさんの人が集まって写真を撮っていた(5組くらい)のに、あの人はどうして私を選んだのだろうか。それは私が若い女で、一人で来ていて、1番頭が悪くて気が弱そうに見えたからだろう。
美術館慣れしていない無知な若い女が何も知らずにマナー違反をしていることばかりに目が行って、俺が注意してやらなければという使命感が彼をそのような奇行に駆り立てたのか、はたまた来館者が作品の写真を撮りまくっている非常識な光景に腹が立って、その中で1番(略)な私に絡んできたのか。
どっちにしろ私がこの男に舐められていたことに変わりはなく、私はその事実に死ぬほどイライラしながら鑑賞を続けた。
山種美術館の展示室はそれほど広くないので、さっきの男が常に視界の端に居るのも不愉快だったし、的はずれな説教をされたこと自体も不愉快だった。それに最近の展示を1回でも見に来ていれば、撮影可能な作品があることくらい想像出来るはずである。少なくとも私の方が、山種美術館においての鑑賞ルールには詳しかった。
駆け出しの女性アーティストが個展会場で謎のおじさんに絡まれるという話はよく聞くけれど、ただルール通りに鑑賞しているだけで説教され(かけ)ることもあると学んだ1日だった。
「美術館女子」という言葉を初めて目にした時、これはあの時私の肩を叩いた男と同じ視点から作り上げられた言葉なんじゃないかなと感じた。内容を見ても、それまでアートに興味のなかった女性がアートに対して主に「映えスポット」としての価値を見出しはじめるというもので、それは私の第一印象からそう乖離の無い視点から創り出された企画であるといえるだろう。その割に女性タレントも含めて一つの作品であるかのような写真ばかりが並び(アートに無知だった人が興味を抱き始めた時、まずは作品やキャプションをじっくり見るのではないだろうか。)、なんだかちぐはぐな印象を受けたことも覚えている。
以上が私の「美術館女子」に対する印象である。私のように絡まれやすいタイプの人は、相手と同じくらい高圧的な態度で立ち向かっていくと相手の態度が変わって(ほんのちょっとだけ)楽しいし有益なので、逆上されても何とかなりそうな場所で是非試してみてほしい。
最近イメコンのことを少しだけ齧ったおかげで知ったのだけれど、絡まれやすい顔タイプ・PD というものがあるらしい。私も早く診断に行って、絡まれにくい方へ見た目を寄せるにはどうしたらいいのかを聞き、実践したい。
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