田村くんのこと
むかし、とても大好きなシンガーソングライターがいました。
対バンのイベントで偶然見て以来、ひとめぼれのような気持ちで、ライブが決まるたびに通うようになりました。
彼はまだ駆けだしのシンガーで、四谷天窓や吉祥寺のSTAR PINE'Sなど、50人くらいの会場でライブをすることが多かったと思います。
ライブの予約をメールしたり、出番後に少し話をするようにもなり、僕はいつしか彼のことを「田村くん」なんて呼ぶようになりました。
当時、僕も彼も20歳くらい。
大学生にとって、会場まで行き、チケット代を払うのはそれなりの負担でしたが、それでもライブに通ったのは、ひとりきりでステージに立つ彼が、僕にとってのあこがれだったからだと思います。
ライブ中に一度だけ、ポケットにしまったデジカメで動画を撮ったことがあります。
彼の曲を、家でも聞きたかったから。
安くて小さいデジカメで、ポケットの中で録られた音は、ひどく音が悪くて、聞きにくいものでした。
数年後、僕は就職し、ライブにはいかなくなりました。
彼はその後も、歌い続けていました。
しかし、たまに覗いていたブログは更新が徐々に減り、ホームページ(当時は携帯サイト)のライブスケジュールも少なくなり、
僕が彼のことを忘れたころ、彼は音楽をやめたようです。
「ようです」というのは、もう調べようがないから。
当時はミクシィでマイミクだったけど、彼はもう退会していました。
ブログも、ホームページも残っていません。
かろうじて、四谷天窓の2006年ごろのブログに、名前が残っているくらい。
彼が音楽をやっていた痕跡は、ネット上のどこを探しても、もう見つかりません。
残っているのは、ポケットのなかで撮った動画ひとつだけ。
何度も何度も、ノイズだらけのその音を聞いています。
田村くんはいまはなにをしてるかなって、たまに考えます。
もっとライブに行けばよかった。
もっと応援してあげればよかった。
もしも会えたら、どうして音楽を辞めたの? って聞いてみたい。
それはたぶん、残酷な質問だけれど、でもこう伝えたいなとも思っています。
いまでも田村くんの曲おぼえてるよ、よく口ずさむよ、って。
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原田さんがツイッターにあげていた歌声を聞いて、あのとき大好きだった田村くんを思い出したのです。
ライブで拝見したときに、音楽でしか伝えられない切実さがこの曲にはこもっている、この曲があれば原田さんを推せる、と思いました。
がんばってくれ、原田さんよ。
問題は、僕が心から応援したアーティストは誰も売れてないってことだな。
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