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いつの日か、こんなことを思い描いていたことを思い出す。

文化祭のステージで、大勢の観客の前でバンドをやる。私はドラムを叩く。その大勢の観客の中に、音楽関係者のすごい人がいる。私はそのすごい人に見初められて、「君、才能あるよ」なんて言われ、私はミュージシャンとしてデビューする…。

ドラムを始めたのは小学五年生の頃で、本格的に習っていたのは中学三年生までのことだから、おおよそ中学生時代のことだろう。
だから、私の思う文化祭もきっと高校のことに違いなかったとおもうのだが(当時の自分からは大学というものが遠い話すぎた)、高校の文化祭はコロナで軒並み中止と縮小に終わった(それでも、3年の時の文化祭は忘れられない思い出になった)。
大学に入り、高校時代のバンドメンバーは散り散りになって、大学の軽音サークルに居場所を見つけられず、どういう訳だが私は新聞サークルの部室を巣窟にしていた。

軽音サークルの上級生が怖かった。1度、上級生と共にバンドを組んだのだが、「LINE、もう少し早く返せない?」だとか、昼休みの練習中に「次の授業あるんだよね、サボれない?」なんてことを聞いてくる。いやいや、サークルより授業が優先だろ。怖すぎる。タバコを吸いにスタジオを出る度に、少し安心をする。そんな恐怖の中で叩くビートは最悪だ。リズムは安定しない。常に焦りで走ってしまう。そうすると、その先輩から「さっき、走ってたよね?」と言われる。うるせー、おめーのせいだ、なんて心の中でブチ切れているようでいて、外見では「はい…」と蚊の鳴くような声しか出ない。

かの上級生は軽音サークルに行けばだいたい見かける。ちなみに、当時組んだバンドには上級生が2名いたのだが、顔を覚えるのが苦手な私は2人の区別がつかないため、1人と同様にみなしている。それも相まって、漠然と怖い先輩像が軽音サークルにできてしまった。私の中の軽音の上級生はみんなタバコ吸ってて、飲み会でオールして、授業をさぼって、2、3年留年している。(そんなわけない。いい人もいます。)

なにはともあれ、私は軽音サークルが怖かった。ドラムはバンドに入れてもらって初めて本領を発揮できる楽器だ。ドラムをたった一人でやってる人はまぁ、いることにはいるかもしれないが、滅多に居ない。だから、ドラムを叩くにはバンドに入ってなくちゃいけない。バンドを組むのに必要なのはコミュニティへ所属だ。しかし、かのコミュニティに馴染めなかった私はドラムを叩く機会も大学生活において今後あまりないだろうと半ば諦めていた。

しかし、ついこの間、大学祭への出演が決定した。9月の定期ライブでたまたま組んだ高校生時代の友達のバンドが、出演バンドから選出され、大学祭への出演権を手に入れてしまった。
曲は、有名だけど私はあまり聞かないバンドの曲だった。しっかり途中でミスっていたので、今回のライブで審査員から票を集めたバンドが大学祭へ出演できる、とは聞いていてても、チケットが自分に回ってくることなんて考えていなかった。

しかし、回ってきた。自分らの適当に決めたバンド名が、運営の口から読み上げられた時は文字通り飛び上がってしまった。

飲み会の席で、大学祭当日の選曲会議をした。その日演奏した2曲+新しく決める2曲。皆酒を飲み、何故か大学祭の運営委員会グループも飲んでいて、その中に別の私の友達がいて、「えー!なんでいるの!」なんて大声で挨拶して、何故か私の恋人もついてきていて(ライブの後私の家に泊まる予定だったので仕方ない)、好きな曲をジャカジャカかけて歌っていたら店主に怒られたりなんかしながら、曲を決めた。

元々あった2曲は私の趣味じゃないけど、なんだかんだの新曲2曲は私の趣味路線に乗せることに成功した。

そんなこんなで、あと二週間と少しあとに、中学の時思い描いた夢のライブステージがある。

え、二週間?まだ新曲練習していません。やばいです。しかし、もしかすれば、もしかすると、かの有名な音楽関係者が大学祭に訪れて、私を有名音楽プロダクションにスカウトするかもです。
 そして、新人ドラマーから作詞作曲を手がけるシンガーソングライターまでこなすようになって、メジャーデビューを果たし、初っ端かはオリコンチャートトップ10にランクインを果たし(憧れのクリープハイプは7位であった)、各地のライブハウスを巡った果てに、軒並み野外フェスに呼ばれ、フジロックなどに出演し、地元、さいたまスーパーアリーナではビバラロックに出演。私は、いつか、「ただいま埼玉〜!!!」なんてなんの愛郷心もない地元に向かって中身のない煽りをするのかも、しれない。

そんな未来が有り得る(宝くじに当たるよりも低い確率で)分岐点があと二週間後に迫っている。そろそろ練習を始めなきゃ、そのチャンスを逃してしまう。授業の課題レポートも文献も大変だけど、留学に向けた手続き関連もめんどくさいし、それでも最近できた恋人とはできる限りずっといたいし、でもそうしてるとお金が無くてバイトしなくちゃで、ほーーーんと時間のない毎日のギリギリを常に生きているが、が!

10/14(祝月)の15時からのライブに備え、そろそろ私は本腰を入れ始めるのである。

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