NY Bar体験記
この記事は、アメリカのロースクールのLLMを卒業後、NY Barの合格を目指す人向けの記事です。NY Barについてよくわかっていない方に全体像を把握していただくことが目的です。ネットやファイルなどで詳細な合格体験記が色々と出回っていると思いますので、詳細はそちらに譲ります。特に、増田先生のブログ記事は参考になると思います。
Q. そもそもNY Barって何?
・ NY州の弁護士に登録するために必要な試験です。いわゆるNY Barというと、毎年7月と2月に行われるUBE(全州統一試験)のことを指します。
・ UBEは、MPT(架空の事例に基づく論文試験)、MEE(論文試験)、MBE(択一試験)の3種類のテストがあります。
・ MBE科目は7科目、MEEは追加で7科目の合計14科目です。
・ この他に、実際にNY州弁護士として登録するためには、MPRE(法曹倫理の試験)、NYLC(NY州法に関する講義・確認問題)、NYLE(NY州法に関するNY州の試験)に合格し、さらに50時間のプロボノを行う必要があります。
Q. UBE、MPRE、NYLC、NYLE、プロボノはどのような順番で行えばいいの?
・ 私は、留学した年の11月にMPRE、卒業後の7月にUBE、その後11月にNYLC、12月にNYLEを受験しました。ロースクール卒業後にアメリカで研修を行う場合にはこのスケジュールがおすすめです。
・ 理由は、①MPREの結果次第で、UBEにどの程度時間をかける必要があるのかがわかるから、②NYLC、NYLEを1年目に受けることも可能ですが、NYLC、NYLEは年4回と比較的受けやすく、また、ロースクールは実質9か月ほどと短く貴重な時間なので、せっかくなら授業やクラスメイトとの交流にあてた方が実りが多いと考えたからです。
Q. MPREはどのように勉強すればいいの?
・ 使用したテキストは私はBarbriがロースクールで無料配布していたテキスト・問題集を使いましたが、必要十分でした。Barbriのテキストの日本語訳をいただいたのでこちらも参照しました。
・ 勉強期間は10日ほどで、こちらも必要十分でした。
・ ポイントは時間制限内に全問を解き切ることです。これは時間を測って問題を解いてみないとわからないので、必ず問題演習を行ってください。
Q. UBE予備校(Barbri、Kaplan、Themis)はどれがおすすめ?
・ 私はBarbriを利用しましたが、全くオススメできません。ただし、後述の通り、MEEとMPTについては、(過去問をまとめただけだったので)おすすめできます。
・ 他の会社はよくわかりませんが、Kaplan、Themisを使っている友人から聞いたところでは両方ともいまいちのようです。後述するとおり、良質なテキストは他にも色々とあるので、一番安いのでも良かったかなと思っています。
・ 記憶が曖昧ですが、Barbri、Kaplan、Themisの順に高くて(KaplanとThemisが逆かも?)、100、75、50くらいの金額差だったイメージです。
Q. MBEのインプット方法はどうしたらいい?
・ いわゆる日本人ノートとSmartBarPrepの組み合わせがおすすめです。
・ 日本人ノートをしっかり最初に何度も読み込んでから、Emanuelを使った問題演習に移るというのがおすすめです。
・ SmartBarPrepは、MEE用に後から購入したものですが、論点ごとにうまく整理されているため、MBEのインプット(というより記憶の喚起と整理)に有用でした。
・ 私自身は、日本人ノートはあまり使わず、Barbriのテキストとウェブ問題を解きながらインプットしていったのですが、これが失敗でした。英語ネイティブではない私にとって、英語で理解することはできても英語で記憶するのは時間がかかりすぎました。
・ オンライン講義を受講するかは好みですが、私はMBE科目は受けず、MEE科目は受けました。
Q. MBE用の問題集はどれを使えばいい?
・ EmanuelとNCBEの公式過去問がおすすめです。Barbriの問題集は使わない方がいいです。
・ Emanuelは必携の問題集です。問題は過去のUBEで実際に出題されたもので、かつ、解説の質がBarbriとは比較にならないほど高いので、問題集はこれをベースに進めるのがおすすめです。ただし、Civil Procedureだけは過去問ではなくオリジナル問題であてになりません。そのため、Civil Procedureは解かずに、JD Advisingというサイトを通じて購入できる、NCBEが出している公式過去問集がおすすめです。なお、NCBEのサイトにあるCivil Procedureのサンプル問題も使えます。
・ 私はBarbriのウェブ問題をBarbriの指示するペースで解きましたが、これが失敗でした。問題傾向も全く異なりますし、問題量がやたら多いので時間がかなり取られます。MBE対策として1500問解けとか2000問解けとか色々言われていますが、EmanuelとNCBEの過去問を完璧にすれば足りると思いますし、それをやっていたら他に手を出す時間は取れないと思います。
Q. MEEはどのように対策すればいい?
・ インプットは前述のSmartBarPrep、練習問題はBarbriがおすすめです。
・ 私はSmartBarPrepで暗記したあと、暗記した内容をメモ帳に自分で書き出すという作業を繰り返していました。暗記の方法は人それぞれなので、やりやすい方法で。
・ BarbriのMEE問題集は全て過去問で構成されていた(はず)で、これは非常に役立ちました。全問きちんと解く時間は到底ありませんでしたので、問題を読んで、答案構成を書き出して、答えをみてチェックして済ませていました。
・ 本番のMEEでは、時間配分で大きく失敗しました。最初の問題を丁寧に解き過ぎて、ペースを守れなかったことが原因です。としては、(1問ずつではなく)3時間をきちんと測って解く練習をもっとしておくべきでした。
Q. MPTはどのように対策すればいい?
・ Barbriの問題集を利用しました。
・ 配点は低いので、あまり時間をかける必要はないと思いますが、問題形式になれる観点から、最低でも2、3問は解いておいた方がいいと思います。
・ 2018年7月の本番では、Articles of Associationのドラフトという一般的ではない問題形式でした。どこまでイレギュラーな問題に事前に備えるべきかについては、個人的にはイレギュラーなものほどみんなできなくて差がつきにくいと考えたため、事前対策はそこまで重要ではないかなと思っています。
Q. UBE対策はいつから始めればいいの?
・ 完全に人それぞれです。ロースクール卒業後から対策すれば必要十分という話は信じない方が懸命です。そのように言っている方でも、実際には結構な割合でもっと早く動き始めている印象です。私が通っていたロースクールでもみなさん遅くとも3月くらいからは対策を開始していた印象です。
・ UBE対策に要する時間を見積もる際の要素として、以下の点が挙げられます。
①MPREの対策に要した時間、合否、点数
②英語のリーディング力
③日本の司法試験の受験経験
[質問を受けた内容について、以下でだらだらと追記していきます]
Q. Emanuelって色々あるけど、どれがいいの?
・ 基本はこれです。Civil Procedure以外は過去問で構成されています。なぜ公式過去問ではなくEmanuelを使うのかといえば、解説がついていて、その質が高いからです。
・ 他にもEmanuel 2というものがあります。これもCivil Procedure以外は過去問から構成されています。時間があれば解いてもいいですが、マストではないと思います。私は一部解きましたが、途中でBarbriに移行しました。
・ FINZというものもありますが、これは微妙という話を聞きました。
Q. Real Propertyの対策をどうするか?
・ Real Propertyは理解するのに一番時間がかかります。理由は、①日本の不動産の考え方と大きく異なること、②制度自体、あまり合理的とは思えないことです。日本の知識をunlearnして、全部1から覚えるくらいの気持ちで割り切った方がいいです。訳のわからない日本語訳は覚えなくてOKです。
・ こちらのブログは参考になります。
・ 自分の中で理解が突き抜けたと感じたのは、各種の不動産権がどう区別されるのかを整理するためにフローチャートを作ったことがきっかけです。日本人ノートや上記のブログを参考に、「不動産権Aと不動産権Bが区別されるメルクマールは何か」というのを分析し、それをフローチャートにまとめ、問題を解くたびにそのフローチャートを見返すようにしました。それによって、「着目すべきポイントが何か」がはっきりわかるようになりました。結果的にReal Propertyは他の科目よりも安定して正解率が高くなったので、取り組み方としては間違っていなかったと思います。
Q. 日本人ノートの説明と他の説明が食い違っていることがあるけど、どちらを優先すればいいの?
・ 私は、細かい食い違いは敢えて無視していました。理由は、①細かい矛盾点を理解しなくても合格ラインには達すると考えていたから、②細かいポイントに時間を取られることで、逆に合格が遠のくと考えたからです。
・ 日本人ノートは、日本語でインプットができるという意味でとても優れています。しかし、不正確と思われる内容が含まれていることが多くあります。考えられる原因としては、①ベースになっているBarbriの資料に間違いがある、②英語から日本語に訳す時に誤りが混入するということが挙げられます。最初は自分でBarbriやその他の文献をベースに日本人ノートを修正していくという作業をやろうかと考えましたが、合格という目的からすると逆効果だと思い、やめましたが、正解でした。
Q. ロースクールでNY Barの試験科目の授業をとった方がいいの?
・ NY Barの合格率をどうしても上げたいという場合、MBE科目(特に時間がかかると言われるReal PropertyやEvidence、Civil Procedure)を履修するのは非常に効果的だと思います。
・ 私自身、授業を履修したCivil Procedureについては、他の授業に比べて対策に要した時間は相当短かったです。他方、Corporationsも履修しましたが、MEE科目であり、また、あまりNY Barとは関係がない内容が多かったので、あまり意味がありませんでした。
・ しかし、当然ながらNY Barの試験科目を履修すれば、その分それ以外の実務的な授業を取れる数は減ります。私の場合は、ロースクールで学びたかった内容がM&Aとコーポレートガバナンス、スタートアップ関連だったため、NY Barの受験要件を満たすために必要最小限の科目(Civil ProcedureとCorporations)のみ履修し、その他は実務的な授業を履修しました。
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