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選択肢を持つということ
本記事は、法務系 Advent Calendar 2022のエントリーです。
同じ事務所の世古さんから強制おすすめされて、初参戦です。
ちひろ先生からバトンを受け取りました。私自身、今年から社外監査役を拝命して悪戦苦闘しておりますので、興味深く拝読いたしました(ご無沙汰しております!)。
さて、今回のエントリーでは、複数の「選択肢を持つ」ことの意味について、私の実体験とこれに基づく取り組みをご紹介します。
元々選択肢を広げることに興味がなかった
私は、小学生の頃に弁護士を志して以来、中学、大学、大学院、司法試験、事務所選びと全く迷ったことがありませんでした。そのおかげで、やるべきことは常に明確で、選択肢を広げることにあまり興味がありませんでした。
弁護士になってからも、いい意味でも悪い意味でも自分の売上というものを気にすることなく、目の前の案件に全力で取り組む以外の選択肢はありませんでした。事務所の外の世界といえば、せいぜい転職エージェントが「私個人」ではなく、「私のような属性の人」向けの転職先候補を教えてくれる程度です。
そうして、特に悩むこともないまま留学適齢期を迎えました。当然のように、事務所に戻る以外の選択肢など考えることなく、諸先輩方と同じようにアメリカのロースクールへの留学とローファームでの研修を選びました。
そんなときに、第三者から猛烈に「もう一つの選択肢」を提示され、選んだのが、Holmesへの転職でした。その時の経緯は下記のnoteにて記載しています。
生殺与奪の権を他人に握ら「れ」るな
その結果として、かけがえのない多くのものを得ました。このとき得たものは今も自分を助けてくれています。
ただ同時に、「他の選択肢を選ぶこと」と、「もう一つの選択肢を増やすこと」は同じではないとも気づきました。選択肢の数が1から2になり、再び1に戻るだけです。
![](https://assets.st-note.com/img/1670813737144-yuhZjA0a73.jpg?width=1200)
とは、水柱・冨岡義勇の名言ですが、これをキャリアに当てはめた場合における問題の本質は、自分が他の選択肢を持っていないことによる交渉力の欠如ではないかとの考えに至りました。
選択肢を複数持った状態で、納得する相手に生殺与奪の権を「握らせる」のは、それ自体が自らの選択です。尊敬する企業・人にコミットすることでしか見られない景色・得られない経験があります。
しかし、他に選択肢を持っていない状態では、自分が選ぶか否かにかかわらず、生殺与奪の権を「握られる」ことになってしまいます。これは、市場、会社、部署、上司、同僚、家庭環境など、自分がコントロールできない事由に依存し、外部環境の変化への適応を強いられることを意味します。
「握らせる」と「握られる」は、似て非なるものです。
選択肢を持つということは、言い換えれば、「別の道があるけど、今の道を積極的に選んでいる」ということになります。
このことの恩恵は計り知れません。組織で不正や不誠実を目にしたら、職を辞す覚悟でモノを言えるようになります。居酒屋で上司の愚痴を言うくらいであれば、別の道を選べばいいのです。不正や政治に屈する必要がありません。自分で選んだ道であれば、誰のせいにもできません。
「自分で選んだ道だからこそ頑張れる」「いざとなれば別の道もある」という心の余裕は、長い(長過ぎる)仕事キャリアを楽しむ上で、きっと大きな助けになります。
選択肢を新たに作ることは難しい
事務所時代は(少なくとも当時は)個人受任禁止で、また、会社時代も副業禁止だったので、事務所・会社に所属しながら新しい選択肢を作ることには困難を伴いました。
無理ではないものの、退職とそれに伴う金銭的な不安が伴います。他人から見たら大したことないリスクかもしれませんが、本人とその家族からしたらエライことです。だからこそ、やむを得ず、神様・仏様・日本政策金融公庫様にお金をお借りしつつ、2畳のレンタルオフィスでコストを抑える、ミニマム独立の手段を選びました。
我ながら考え抜かれた再現性のある手法だと思うので、気になる方はこちらのツイートをご覧ください。
というわけで、法律事務所立ち上げTipsを思いつくままにつらつらと書いていきます。もちろん推敲とかしていないので、読みにくいかもしれませんがご容赦ください。
— 酒井貴徳|LEACT (@Sakai_Takanori) May 4, 2022
とはいえ、私の場合、運良くハードワークを10年以上続けられた結果としての下積みがある上に、過去の経歴に下駄を履かせていただいていると日々感じています。そのため、生存バイアスの影響を踏まえると、他人に対して無責任にリスクテイクを薦めることは躊躇します。
副業カウンセルという試みを始めてみた
そこで、法律事務所LEACTで副業カウンセルという制度を作りました。
インハウス弁護士が、副業として事務所に在籍して外部カウンセル業務に挑戦できる環境を提供するというものです。このコンセプトは元々インハウスハブ東京法律事務所さんが有名で、最近だとスパークル法律事務所さんなども募集されています。
うちの事務所の特徴としては、上述のように自分と同じような境遇の人が「複数の選択肢をもてるようにすること」を目的にしています。そのため、
コスト負担が気になる
事務負担が大変
営業が心配
案件にうまく対応できるか不安
といった悩みを、代表の私が引き受けることで、前職事務所時代や独立前後で自分が感じた不安やハードルをなるべく払拭し、メンバーが選択肢を持ちつつ、前向きに本業に取り組んでいただける状態を作りたいと思っています。
もちろん、情報管理やコンフリクトの問題は付きまといますが、まだ規模が小さいこともあり、私の知る限り大手事務所に比しても厳格にやっています。小さく仮説検証しながら、制度の中身も変化させていくつもりです。
選択肢を背景に活き活きと働く人が増えてほしい
私は、副業を手放しで薦めるわけではありません。
複数の選択肢の存在は、一歩間違えると人を傲慢にする両刃の剣です。もしかすると、副業を通じて人々が選択肢をもつ世界は、今よりも殺伐としたものかもしれません。
副業を始める以上は、本業でのパフォーマンスはそれまで以上に厳しく見られると思っておいたほうが無難です。副業は本業に還元してなんぼで、「私は外から引く手数多なんだぞ!」と傲慢に気色ばんだところで、パフォーマンスが低ければ「どうぞどうぞ」と喜ばれるのがオチです。
ただ、何かに悩んだときに、新しい選択肢を気軽に作れる場があれば、もっと軽やかに、悲壮感なくキャリアを楽しめるのではないかと思うのです。そして、副業解禁、リモート・フレックス、ITの活用が進んだ今だからこそ可能になった、新しい道だと思うわけです。
私自身も、LEACTに縛られるのではなく、複数の選択肢を持ちながら前向きにLEACTにコミットしたいと思っています。また、他のメンバーにも、他の選択肢がある中で、積極的にLEACTに所属してもらえるように努力しています。
まとめ
創業一年目の締めくくりのつもりが、期せずして来年の抱負のような形になってしまいました。ただ、アドベントカレンダーという企画がなければ言語化できていなかったと思うので、貴重な機会をいただけて感謝です。
というわけで、バトンをSTORIA法律事務所の杉浦健二先生にお渡ししたいと思います。
ありがとうございました。