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洗い物には気をつけろ

割ってしまうと食器ング。

いや、ごめんなさい、そういう芸風ではないんです。

先日私のマグカップが割れた。
正確に言うとマグカップの取手部分が欠けた。
そして割れたというよりも割ってしまった。
洗い物してるとついつい手が滑る。そういや2年前にもお皿割ったな、なんて思い出す。
ただ、洗い物の最中に陶器を割ってしまう頻度の平均値を私は知らない。

このマグカップは、私が大学生になり、一人暮らしをするにあたって、母からもらったものだ。

「マグカップといえばやっぱり猫がニャッってしてるやつがいいよね」

という私のこだわり発言が引き金となり、それっぽいマグカップを母と弟で捜索する羽目になり、結果これに至った。6年弱使ったこのマグカップだが、上側の取手が鋭利になってしまった。それでも使い勝手はさほど変わらなかったので2ヶ月ほどそのまま使っていたのだが、年明けに彼がキバを剥いた。
いや、彼女の可能性もあるけれども、“Mike”って男性名やし。

發王戦予選の前日、マグカップを洗っていた私は再び手を滑らせた。鋭利とは言っても刺さることもないと思っていたその欠けた取っ手が、私の右手親指に突き刺さった。
本当に鋭利だったのはその先端ではなく側面、ネコの絵柄側の方である。

「サクッ」

そんな効果音が聞こえたような気がした。瞬く間に親指から血が溢れ出てくるので、右手を水に晒しつつ絆創膏を探す。しばらくして、ようやく血が止まったものの、親指に巻かれた絆創膏ほど麻雀において邪魔なものはない。

新人研修の際一度人差し指を切ってしまい、絆創膏をしながら麻雀をしたことがあるが、親指はその比ではない。盲牌から倒牌まで、私は親指に頼っていることを瞬時に悟る。

ちなみにその人差し指を切った原因は今でも覚えている。ツナ缶を開け、端々に残ったツナを攫えようとして誤って人差し指を缶のフチで切った。痛かったぁ。
あれ以来缶詰のフチには気をつけているし、お箸を使うことを徹底している。

話は戻って發王戦当日、親指に絆創膏を巻きながら会場に着いたものの、さすがに時間制限もある対局において、親指が不自由は緩慢がすぎると思い絆創膏を外す。また血が出てきたら困るからおしぼりだけはサイドテーブルに携えていた。
麻雀プロとして、指は商売道具のようなものである。傷をつけないよう気をつけねば。
元々指にマメが出来やすいという理由でボーリングは避けていたのだが、より一層の気配りを私は再認識した。

その矢先、もう一度、マグカップを洗っている最中に親指を、今度は浅く切った。

「もう捨てるしかないよな」

私は比較的物持ちがいい。あとそんなに物欲ってやつがないのかもしれない。恐らく欲しいものは多々あるんだろうけれども、前のめりに何かを手に入れに行くことがないような気がする。
さほど裕福でないところで育ったので、何かを買ってもらうことに対抗はあったし、言ったところで買ってもらえることの方が少なかったのもあるだろう。
「いいこと」と言われることが多いが、そうでなかったらよかったのにと思うことも多い。

物持ちのよさの代表例を挙げるならば、高校の入学祝いで親に買ってもらった腕時計はかれこれ9年くらいつけている。
成人祝いで、これまた母にもらった財布を今でも使っている。
この前帰省した時履いていたズボンなんて中学時代に履いていたものだ。当時太って入らなかったのが今となってはちょうどいい。
持ち主が、私から母を経由してまた私に帰ってきた。

筆箱に至っては小学校6年生の時、塾の夏期講習に合わせて買ってもらったやつを今でも使っている。中学受験から高校受験、資格試験に麻雀のプロテストまで付き添ってくれている相棒みたいなものだ。案外見た目がキレイだから10年以上も使っているようには見えないから驚かれる。

2012/7〜2025/1



「古くなったから買い替える」という価値観に「もったいない」が付きまとう私にはそれがいいことなのかどうなのかいささか検討がつかない。
「壊れるまで使わないともったいない」と感じてしまうそれは恐らく貧乏性の部類なのだろう。

「リコーダーを上手になりたいなら、まずは友だちになること。
雑に使うより丁寧に使ってあげたほうが喜ぶよ」

小学2年生だったか3年生だったか、担任の先生がおやすみの時に代理で入ってくれた先生がそんなことを言っていた。
それを真に受けた私は今でも物にも心があると思っている。

そんなに宗教っぽくもない、言ってしまえばどうせ使うんなら丁寧に扱ってやろう。そんな具合である。
お金ももったいないし。
物に喋りかける癖もその当時ぐらいからついたのだろうか、ぶつかったら「ごめん」って言うようになってしまった。

大切にしてたのになぁ、あのマグカップ。
新しく買ってきたそれは少し重いような気がするよ。


マグカップの適切な替え時なんて私は知らないから、洗剤と漂白剤とで何度も洗ってきたけれど、こんな形で別れることになろうとは。

私は女々しいから、そんな未練を口にする。
親指にできた2つの切り傷に誓う。

麻雀プロである間は、商売道具のこの指を大事にすることを。

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