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《エッセイ》死のうと決めた君へ。

  自殺が後を絶たない。
今日も社会に殺され戦い疲れた勇者達の死が、ニュースの無機質な音声で流れてくる。
自分の存在を消すことが実用的な得策なんだと、名案なんだと閃いてしまった勇者達を、ついに誰も止めることが出来なかった。

もしもあなたの脳内にもそんな名案があるのなら、先を急ぐのはもう少しだけ待ってほしい。
ほんの少し、私と話そうか。
暖かくて明るい部屋で、どうか少しだけこのエッセイの声に耳を傾けてほしい。

私がこんなエッセイを書くのは。
芸能人のドキュメンタリーや成功者の自己啓発本じゃ絶対に描けない、あなただけを支える言葉を書きたいから。
私がこんなエッセイを書くのは。
今は褪せて見える風景も、いつか美しく咲くと知ってほしいから。それをあなたが咲かせたんだと伝えたいから。

私はあなたを、自分なんてと俯いているあなたを、どうしても、あぁ、どうしても。

私は文章を書くけれど、やりたい事は泣いているあなたを、または涙さえ忘れたあなたを、抱きしめて一緒に朝を待つ事なんだ。
だから、いいかい。
今夜はここで私と一緒に朝を待ってくれ。
そして夜の過ごし方を優しいものにすると、約束してほしい。

朝を待つ間、ゆっくりと白湯を飲んで好きなだけ学校や会社を休みなさい。
誰かと話してもいい。誰とも話さなくてもいい。
たくさん本を読んで映画を観て、ストレッチをして寝なさい。
自分の体と部屋は常に清潔に保ちなさい。
家族とは無理に付き合わなくていい。
家族だから感謝しないといけない、理解を得ないといけないという思考回路を捨てなさい。自分が本当に信頼できる人にだけ打ち明けなさい。そこに家族も友達も恋人も関係ないのだから。

私のエッセイには、映像もない、絵もない、肉声もない。
それでもあなたの目に色を魅せて、あなたの頬にキスをして、あなたの耳に届くように声を枯らして、泣き叫びながら隕石みたいな強さで愛を書いていたい。

拝啓あなたへで始まる、あなたの為だけの詩を、どうしても、ねぇ、どうしたら。
もう何も出来なくなって、ベッドから起き上がれないでいるあなたを、消えてやろうかと何度も試みたあなたを、誰も否定できないのだ。

人間の模範にはなれないかもしれない、明るい歌に反吐が出るかもしれない、自分に芽生えた気持ちだって誰かの盗作かもしれない、周りは自己満足な親切の押し売りかもしれない、自傷行為で安心するかもしれない、今ここで死んだ方が楽なのかもしれない。
本当に、本当に、そうなのかもしれない。

今ここで文章を書くことしか出来ない私と、その名案を手に入れたあなたじゃ、どちらが強いかなんて聞かなくてもわかる。
こっちは文章しか書けないんだ、あなたのその名案には適わないんだ、いかないでくれ、頼むよ。

本当に、頼むよ。

今あなたがいる場所は水槽の中なんだ。
息が出来ないのは、そこのエアポンプがあなたに合わないだけなんだ。

明日が来ることに怯えなくて済む時が必ずくる。
あなたが輝ける場所が必ずある。

朝が来たら、あなたが大切に守り抜いた歪で愛おしくて生々しい想い達、それを自分のショーウィンドウに並べる勇気を持ちなさい。
そしてそのショーウィンドウの前でふと立ち止まってくれた人達だけを大切にしなさい。
誰しも1人ぼっちなのだから、それを忘れられるような時間を手に入れなさい。
こんな人になれならいいのにな、それがあなたの大切にしたい価値観。自分の価値観をきちんと理解して、それが尊重される環境を探しなさい。
そしてあなたも誰かの価値観を尊重しなさい。

私がこんなエッセイを書くのは。
人生は捨てたもんじゃないと証明したいから。
私がこんなエッセイを書くのは。
あなたに朝日の匂いがする新しい名案を届けたいから。

生きよう。

生きよう。

生きよう。

ニュースの無機質な音声なんかに、あなたのかけがえのない人生、くれてやるな。


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