【長期化した重度ひきこもりの問題を解決できる、現実的思考】
私の経験では、長期化した「重度のひきこもり」は、なんらかの精神疾患に罹患しているケースばかりだった。そもそも精神疾患の症状としての「ひきこもり」は昔からあり、たとえば統合失調症にも、ひきこもりの症状はある。そのため家族も、偏見や体裁から本人の状況を受け入れきれず、第三者の介入を拒む傾向がある。これは、長くひきこもりの問題に携わる専門家の間では周知の事実である。
今や世の中にはメンタルヘルスにまつわる情報があふれ、生涯を通じて五人に一人が心の病気に罹患すると言われている。しかし「我が子」や「自分の家族」となると話は別で、未だ精神疾患や精神科病院への偏見は根強い。
そこへきて、今から20年ほど前のことであるが、新たなひきこもりの概念(社会的ひきこもり)が登場した。これにより、ひきこもりは医学モデルから社会モデル、そして文化モデルへと広がり、我が子を精神疾患と認めたくない親たちが「ひきこもり」にすがった。「無理をさせてはいけない」「時間をかけて見守れば、いつか立ち直る」として、結果的に精神疾患を「放置」してしまうことにもなった。今、議論の的になっている「中高年のひきこもり61.3万人」の中には、精神疾患とひきこもりの混同により、長きにわたり放置された精神疾患患者が、かなりの数含まれるだろうと私はみている。
「重度ひきこもり」の大半は精神疾患であり、治療の必要がある
川崎の事件でも、被疑者は30年にわたるひきこもり状態にあり、親族ともほぼ顔を合わせず、昼夜逆転の生活を送っていたと見られている。最近は、道路にはみ出した木の枝にぶつかったと近隣宅に怒鳴りこむという、近隣トラブルを起こしていた。
また、元農林水産省事務次官の父親に殺害された息子も、中学から家庭内暴力が始まり長くひきこもりがちだったというが、自身のものと見られるツイッターで、過去に「アスペルガー症候群」と「統合失調症」と診断されたことを告白している。
二人とも亡くなっている今、正確なことは知りようもない。しかし私は、第三者が本人に会って話をしたり、行動を観察したりすれば、医療や福祉につなげられる糸口が見つかったはずだと思っている。
実際、私の受ける相談でも、親が「(子供が)長年ひきこもっているんです」と言って相談に来たものの、ヒアリングや視察調査を進めるうちに、精神疾患の疑い(統合失調症、うつ病、強迫性障害、発達障害、不安障害、アルコール依存など)がみえてくるケースは多い。
ここで、私が最近、携わった事例を挙げる。
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