見出し画像

偽善師たち ~実録・児童養護施設をしゃぶり尽くす闇の錬金術~ Vol.1「エミュー」

はじめに

 拙著「それでも、親を愛する子供たち」(新潮社バンチコミックス)は、児童養護施設を題材とした漫画だ。制作のきっかけは、社会福祉法人高塔会(以下「高塔会」)の前理事長Nと出会い、児童養護施設にまつわるさまざまな話を聞いたことだ。Nは私の仕事に興味を示し、「児童福祉分野でも精神疾患は避けて通れない課題だ。ぜひ押川さんの力を発揮してほしい」と言うようになった。そして2023年3月、私はNに請われ、高塔会の理事に就任した。それは、一般には知られていないある種の“聖域”に、足を踏み入れた瞬間でもあった。

 多くの人にとって児童養護施設とは、「身寄りのない子供、虐待された子供が入所する施設」という程度の認識だろう。私もそうだった。しかし理事として現場に足を運ぶうちに、良い意味でも悪い意味でも想像を覆されるエピソードに触れることが続いた。児童養護施設の在り方を知るほど、日本の「子育て」に対する考え方も透けて見えるようであった。そこで一つの「現実」として、漫画で描いてみようと考えたのである。

 だが、そうこうするうちに、高塔会の中でさまざまな不正や、法に抵触する恐れのある行為が行われていることに気づく。もちろん発覚するたびに関係各所に相談・報告を行い、適切な運営に立ち返るための対応をとるのだが、その間に別の不正が顔を出す。昨年(2024年)はいたちごっこのごとく、不正への対処に明け暮れた一年だった。結果として、前理事長のN(現北九州市議会議員)や元施設長のS(元中学校校長)ほか、不正に関与していた人物たちもまた高塔会から去り、その全容も見えてきた。

 私が何を見たのか。高塔会でいったい何が起きているのか。その一部については、漫画「それでも、親を愛する子供たち」1・2巻のあとがきで触れた。すると、それを読んだ読者やメディア関係者から、「詳しく知りたい」という問い合わせが多く寄せられるようになった。彼らは口を揃えて、「児童養護施設は、一般的な生活では知ることのできない世界だから」と言った。もちろん中には、私の告発を「内輪揉め」や「のっとり」と捉える人もいた。だが今回の不正が内輪揉めの類ではなく、国や自治体の制度そのものに疑問を投げかける内容であることは、今後のシリーズを読んでいただければ理解できるはずだ。

 児童養護施設は、あまりにもブラックボックスである。入所児を保護する意味もあり、学校のように公に晒されることもない。家庭に居場所のない子供たちの生活の場であり、「かわいそう」とイメージをもたれることも多いが、運営は国と都道府県等からの措置費(児童入所施設措置費等国庫負担金)でまかなわれ、その額はかなりのものである。入所児の暮らしぶりだけをみれば、一般家庭に比べて恵まれている、とすら思うこともある。このように公金で運営される施設において、一部の法人役員や施設職員により不正・中抜き・キックバックが行われている。これは許しがたい事実であろう。

 そして私がもっとも憤りを覚えたのが、不正の中心人物ほど、「子供たちのため」という言葉を多用することだ。自分たちの私利私欲でしか動いていないのに、「子供たちのため」とさえ言っておけば、善人を装うことができ、いかなる追及も逃れることができる。そのうえ第三者に対し「お金を出してください(寄付してください)」と臆面もなく言えてしまう。「子供を食い物にする」という言葉が、これほど似合う蛮行もない。

 つまりこれから私が書き記すことは、児童養護施設という聖域を利用した、偽善者たちによる闇の錬金術のすべてである。中には、「児童養護施設のイメージを穢す真似をするな」という意見もあろう。しかし今や児童養護施設も、大舎制(大きな施設)からの脱却が求められている。具体的には、地域に一軒家を借り、そこで職員が子供たちと生活を送る「地域小規模型児童養護施設」が主流になっている。今まで以上に人員が必要になるために地域住民からもボランティアを募るなど、地域ぐるみの養育への期待もある。国の意向がそうである以上、児童養護施設で起きている出来事を世に開示して知らしめることは、運営側に課せられた責務といえる。そして第三者の目が入ることは、必ず、真の意味での「子供のため」になるだろう。私はそれを願っているのである。

 


 発端はエミュー

 高塔会で行われていた数々の不正・違法行為であるが、私がそこに気づいたきっかけは、「エミュー」であった。

(以下、実名が登場します。取扱いにおいては自己の責任の範疇でお願いいたします。)

ここから先は

9,493字 / 23画像

¥ 980

期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?