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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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新CoCシナリオ「絵になる貴女に」


本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」

 こちらは新クトゥルフ神話TRPGの公式シナリオ「世界を視た男」の二次創作・後日談です。現代日本が舞台のオリジナル短編シナリオとなっています。
 タイプは線形シティシナリオ、トーンは不思議な出来事に巻き込まれて解決を目指す感覚です。
 お気軽にお楽しみいただけたら幸いです。

※以下、シナリオ「世界を視た男」のネタバレを含みます。ご注意ください!

【あらすじ】 探索者たちの目の前で、友人の美大生・古川千晶が絵画になってしまった。探索者たちは、冷泉の絵画や街の噂を手がかりに、千晶を救い出すことができるだろうか。


1. はじめに

 本シナリオは、『新クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2020』に掲載されているシナリオ「世界を視た男」(柄本和昭様作)の二次創作です。そのため、本シナリオを遊ぶためにはルールブックに加え、「世界を視た男」が必要となります。

 舞台は現代日本のとある都市、「世界を視た男」から数日後の出来事で、前シナリオと同じ探索者3-4人で参加することを想定しています。プレイ時間は、オフライン・セッションならば1-2時間程度でしょう。

 探索者は友人である古川千晶を襲った不思議な出来事を解決するため、ふたたび街を駆け巡ることになります。戦闘が起きる可能性もあります。

 また本シナリオは、H.P.ラヴクラフトの小説「魔女の家の夢」および『クトゥルフカルト・ナウ』から発想を得ており、「世界を視た男」に関する独自の解釈を含みます。


2.キーパー向け情報

 イスの偉大なる種族(イス人)は、外なる神・ダオロスに関心を抱いている。今回は、「ダオロスの眼球」によって可視化される時空間が人類の芸術に与える影響を調査することにした。

 彼らの命を受けて、イス人を崇拝するカルト「クライン生命保険相互会社」の魔術師・光川睛明(みつかわ・せいめい)は、美術大学のあるこの街に医者として潜入し、「ダオロスの眼球」を与える芸術家を探していた。そこで目をつけたのが、交通事故で失明した冷泉一道であった。

 彼の「実験」は、シナリオ「世界を視た男」における出来事で終了することとなる。光川は、実験の成果である冷泉の絵画を回収してイス人へ引き渡すことにするが、ここで問題が発生した。クライン生命の予算不足により(『カルト・ナウ』P.43参照)、広沢画廊から冷泉の絵画を買い取ることができなかったのである。

 そこで光川は非合法な手段に切り替え、夜間に冷泉邸から絵画『千晶』を盗み出す。続いて広沢画廊にも侵入を試みたが、こちらは警備に阻まれ失敗してしまった。

 ここで魔術師である光川は、冷泉の絵に描かれた角度に着目する。超次元の角度を利用して《門の創造》を行い、『千晶』と他の絵を四次元的に繋げて広沢画廊に侵入しようとしたのだ。

 しかし呪文が未完成だったため、《門》は絵のモデルであり、全く同一の「角度」を持つ古川千晶本人へ繋がってしまった。これに驚いた光川が絵を倒してしまった結果《門》がひっくりかえり、探索者の目の前で千晶と『千晶』が入れ替わることとなったのだ。

(以下、古川千晶本人は千晶、彼女をモデルとした絵画は『千晶』と表記する。)

 光川は慌てて『千晶』の角度を目標に据えて《門の創造》をやり直そうとするが、絵は入れ替わりの際に破損してしまったため上手くいかない。

 カルトの性質上、彼は目立つ行動を避けねばならない。千晶を拉致したままにするのも、解放するのも危険だ。そのため光川は夜を待ってから、彼女を生贄として星辰に捧げ、完全な《門の創造》の儀式を行うことで冷泉の絵画を入手し逃亡しようと準備を進めている。


3. 主なNPC

光川睛明(みつかわせいめい): 魔術師。

 スーツ姿の男性。旺盛な知識欲を満たすため、イスの偉大なる種族を信奉するカルト「クライン生命保険相互会社」に所属している。現在は任務のため、廃病院「中谷診療所」を拠点としている。

特徴: 慇懃無礼。カルトの性質上、極力目立たないように行動する。

STR65 CON60 SIZ55 DEX45 INT65 APP50 POW100 EDU90 正気度0 耐久力12 MP20

DB:+0 ビルド:0 移動:8

1ラウンドの攻撃回数:1

近接戦闘(ナイフ)65%、ダメージ1D4

呪文: 《炎の吸血鬼の召喚/従属》(※クライン生命所蔵の魔導書にある呪文《クトゥグアの招来》から、光川が独自に工夫したもの)

《門の創造》(※独自のヴァージョン。小説「魔女の家の夢」で描かれたような、特異な角度を利用した空間転移。ただし未完成)


広沢雄大: 広沢画廊のオーナー

冷泉一道: 世界を直視した男

古川千晶: 不運な美大生

⇒ステータスは「世界を視た男」を参照。


4. 導入

 シナリオは「世界を視た男」事件から数日後の午後、探索者たちが古川千晶を見舞うところから始まる。場所は千晶の自宅か、あるいは重傷を負った探索者がいれば、彼女と一緒に同じ病室で入院していることにしてもよい。

 ベッドから体を起こした千晶は「色々あったけど、みんなのおかげで落ち着いてきた」と感謝を述べる。ここで〈心理学〉または〈目星〉に成功すると、彼女がサイドテーブルに置かれた封筒を気にしていることに気づく。判定に失敗した場合は、最も幸運の低い探索者がサイドテーブルに足の小指をぶつけ(1ポイントのダメージ)、その拍子に封筒に気づく。

 封筒について尋ねると、画家の冷泉一道から今日届いたものだと言って見せてくれる。千晶は冷泉への感情の整理がつかず、まだ中身を見られずにいるで、代わりに見てくれないかと頼んでくる。

 手紙を調べると以下のことが分かる。

○冷泉の絵手紙
・消印は数日前、「世界を視た男」事件の当日となっている。

・中身はハガキ大の鉛筆画が一枚。建物の屋上のような場所で、星空を仰ぎ見る古川千晶の姿が写実的な筆致で描かれている。最近の冷泉が描いていた「真実の世界」とは全く異なる、美しいが平凡な絵である。

・裏には「夢の裡でも絵になる貴女に、感謝をこめて」と走り書きされている。

 探索者たちがこの絵手紙を調べていると突然、千晶が悲鳴をあげる。

 見ると、彼女は宙に浮かぶ無数の線に取り巻かれている。うすい菫色の霧が彼女のまわりに渦巻き、みるみるうちに無数の節足のような形へと結晶していく。千晶は助けを求めるように手を伸ばすが、次の瞬間、ぱたんという音ともに彼女の姿は掻き消えてしまう。この現象に遭遇した探索者は正気度を1/1D4+1失う。

5. 絵画『千晶』

 ベッドの上には一枚のカンバスが残されており、そこには頭のない不気味な怪物が描かれている。冷泉のアトリエに行ったことのある探索者は、これが古川千晶をモデルに冷泉が描いた絵画『千晶』であることに気づく。

 絵画『千晶』を調べると、落下の衝撃のせいか、描かれている人物の体にヒビが入っていることに気がつく。また「世界を視た男」で狂気に陥った探索者がいれば、絵の背景に薄紫の燐光が漂っているのが見える。

 ここで誰かが古川千晶の名前を声に出すと、薄紫の霧が絵画『千晶』から噴き出してきて、探索者たちをとりまく。全員がPOWロールを行う。ハード以上の成功をした探索者は、一瞬、建物の屋上に横たわる千晶の姿が脳裏に浮かぶ。やがて霧が晴れたかと思うと、探索者たちは全員、冷泉のアトリエにいる。正気度を1/1D3、MPを1ポイント失う。

(誰も千晶の名を呼ばなければ、「7. 鬼火の襲撃」にシーンを移す。)

キーパー情報: これは、光川の行った《門の創造》の残滓が、探索者たちの言動により再活性化し、『千晶』の背景に描かれていた冷泉のアトリエに繋がったために起きる現象である。正気度とMPの減少は、《門》を通過する際のコストを含む。


6. 冷泉のアトリエ

 冷泉のアトリエ(2階部分。詳しくは「世界を視た男」の「10. 真実なる世界」を参照)は無人で、天井の採光ガラスから温かい光が差し込んでいる。探索者たちの傍らには絵画『千晶』が落ちている。

 冷泉が置かれている状況は「世界を視た男」の結末によって異なるが、いずれにせよ本シナリオ中、彼には連絡がつかない。

 冷泉の家では、以下のことがわかる。

①アトリエ

 空のイーゼルと作業台がある。作業台には絵筆などの他に、黒い手帳が置かれている。最後のページに、以下のような走り書きがある。日付は「世界を視た男」事件の前日である。

「午前、ミツカワと名乗る男が来た。私の絵を買いたいらしい。あまりにしつこいので広沢画廊へ行くように言った。

 作品は順調、完成間近。

 夜、夢を見た。ヴェールに覆われた退屈な光景だった。屋上、満天の星空、そして古川千晶がいた。目が覚めてしまったので、その平凡な景色を描いた。彼女に贈りたいと思った。明日にもダオロスの似姿が完成するというのに、何故だろう。」

②リビング

 絵画『千晶』が消えている。他の(以前の作風の)絵画には触れられた形跡がない。

③玄関

 鍵はかかっていない。〈目星〉または〈鍵開け〉に成功すると、鍵のボルト部分が焼き切られていることに気づく(光川が使役する炎の吸血鬼の仕業である)。

7.鬼火の襲撃

 探索者が屋外に出たところで、冷泉の絵手紙を持っている探索者の周囲に音もなく亀裂が走り、薄紫色の霧が漂いだす。やがて、霧が一点に凝縮したかと思うと、火の球になる。絵手紙を持つ探索者は〈回避〉をロールし、失敗すると熱により1D3ダメージを受ける。

 火の球は、まるで意思をもっているかのように周囲を縦横無尽に飛び回ったあと、ものすごいスピードで空に飛び去ってゆく。追跡は不可能だ。この超自然的な光景をみた者は、正気度を0/1D3失う。

  ここでINTロールに成功すれば、薄紫の光の発生源が絵手紙だと確信できる。

キーパー情報: 光川が『千晶』の角度に繋がる《門》を作り直そうとした結果、同一人物を描いた絵手紙に不完全ながら繋がってしまっている。光川は『千晶』の在処を確認するため、不完全な《門》を通じて炎の吸血鬼を送り込んできたのである。

8. 町の探索

#冷泉の絵手紙

 改めて絵を詳しく調べると、以下の2点が分かる。

①背景は建物の屋上で、金属製の柵に囲まれている。周囲の風景はこの街のものと思われる。〈ナビゲート〉に成功するか、街の地図と照らし合わせるなどの工夫をすれば、そこが町中にあった個人病院、中谷診療所の屋上ではないかと推測できる。

②〈天文学〉またはハードの〈知識〉に成功すると、星空の中にアルゴー流星群(※架空)が描かれていることに気づく。この天体は約百年ぶりに、今夜一晩だけ観ることができるもののはずだ。

 ダオロスの祝福は、人に未来を見通す力をも与える。この絵は数日前、冷泉が夢で視た未来をもとに描いたものであり、描かれているのは今晩の古川千晶の姿である。しかしこれはまだ確定した未来ではない。

 したがって千晶が危機に陥れば、絵の中の彼女の姿も徐々に薄くなって映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の家族写真のように消えていく。

 調査の途中で探索者がこの消えていく絵を見た場合、説明のつかない焦りを感じて正気度を0/1失う。


#広沢画廊

 広沢画廊は警察に封鎖されている。広沢オーナーはちょうど、封鎖線の前で警官と話し終えたところである。彼はややくたびれた様子だ。

 彼に警官との会話の内容について尋ねると、以下のような話をしてくれる。

「昨晩、ここに泥棒が入りそうになったのですよ。幸い、ドアを破られる前に警察の方が見つけてくれたのですが……泥棒は、警官に火炎瓶を投げつけて逃げたそうです。しかし現場をいくら調べても、瓶のカケラさえ見つからなかったのだとか……はぁ。最近どうも変なことばかり続いて、一体なにがなにやら」

 また、ミツカワという男について尋ねると、数日前に画廊に来たと答える。見たところ30代ほどのスーツ姿の男性で、冷泉の絵画を買おうとしていたが条件が折り合わなかった。その直後に放火事件(「世界を視た男」の「6. 燃える女」)が起きてしまったため、交渉は有耶無耶になってしまったと悲しげに語る。

 その交渉の際に、彼は光川の名刺を受け取っている。〈言いくるめ〉など適切な技能ロールに成功すれば、名刺を見せてもらえる。名刺には「クライン生命保険相互会社 光川睛明」と書かれている。

キーパー情報: 「世界を視た男」で探索者が冷泉の絵画を購入していた場合、空き巣未遂のエピソードは、当該探索者の自宅付近で起きたように改変する。その場合、事情を語るのは広沢ではなく、マンションの管理人や近所の事情通などになるだろう。

 また、この「火炎瓶」は炎の吸血鬼を誤認したものである。警官に見咎められた光川は、護身用に連れてきた吸血鬼をけしかけて逃走したのだ。

#警察

 探索者が通報すると真摯に応対してくれるものの、事件が超自然的な話だと分かると怒り出してしまい、詳しい話はできない。

「また悪戯電話ですか。ここのところ、廃病院の鬼火だの、幻覚作用のある展覧会だの……今度は人間消失!? いい加減にしてくださいよ!」


#図書館またはインターネット

 〈図書館〉に成功すると、以下の情報が得られる。

①冷泉一道、または広沢画廊について調べた場合、盗難事件の記事が見つかる。

 昨夜、広沢画廊に侵入者があったが、警備に見つかったため何も盗らずに逃走した。画廊では数日前から、冷泉一道氏の個展が開かれていた。

②中谷診療所について調べれば、所在地と、数ヶ月前に廃院となったことがわかる。廃業の原因は不明。

③インターネットで火の球について調べた場合、心霊動画が見つかる。内容は、「中谷診療所」の廃墟に肝試しに入った配信者たちが、鬼火のようなものに追い散らされるというもの。写りがよくないため視聴者の反応は芳しくない。配信日は2日前である。

④「クライン生命保険相互会社」について調べると、新宿区にオフィスがあることが分かる。しかし具体的な活動内容等は不明である(実際はダミー会社であるため)。

#そのほか

・廃病院の鬼火の噂
 シナリオが行き詰まった場合(ごめんなさい!)、最もINTの高い探索者に〈アイデア〉ロールをお願いする。

 成功すると偶然出会った探索者の知人などから、「そういえば、廃病院の鬼火の噂って知ってるか? お前、こういうオカルト系好きだろ?」といった話を聞ける。詳しく聞けば、前項③の配信動画について教えてくれる。

 失敗した場合、突如としてオーバーオール姿の若者が探索者たちに殴りかかってくる。各自〈幸運〉をロールし、失敗した探索者は1D3ダメージを受ける。その後、男は「俺は騙されねえぞ!お前たちもあのバケモンの仲間なんだろ! ざまあみやがれ!」と叫んで走り去るが、その際にビデオカメラを落としていく。中身を確認すると、前項③のような録画データが収められており、病院の看板もはっきり確認できる。

 この若者は「中谷診療所」の噂を聞いて撮影に訪れたものの、炎の吸血鬼に遭遇して一時的狂気に陥ってしまったのだ。

・買い物
 火の球の対策として、消火器や水鉄砲等を購入しようとした場合、判定不要で入手できる。いずれもDEXまたは〈射撃〉技能で使うことができ、消火器は1D6ポイント、水鉄砲は1ポイントのダメージを与える。


9. 中谷診療所跡

 中谷診療所は、郊外にある2階建ての廃墟である。入口や窓は木の板で封鎖されているが、よく見ると一か所、釘が外されて入れるようになっている。

 病院内部は埃をかぶっているものの、そこまで荒れてはいない。待合室や複数の診察室、処置室がある。人の気配はない。一番奥の診察室は埃が乱れている。〈追跡〉に成功すれば、最近までここで人が暮らしていたことが分かる。ただし寝袋や荷物などは見つからない。

 ここで〈目星〉に成功すると、書棚から古ぼけたノートが見つかる。これは『ニューイングランドの楽園における魔術的驚異』を日本語訳したものであり、次の一節に付箋が貼られている。

「敬虔なる者たちによる断罪を免れた魔女の一人に、悪名高きケザイア・メーソンがいる。セイレム監獄に囚われたこの魔女は、空間の壁を越える忌むべき角度について判事に語っていた。そして1692年のある晩、牢の石壁に奇妙な図形を描くことで、実際に姿を消してみせたのである」

 探索者が屋上に辿り着くころには夜になっている。満天の星空で、月はない。

 屋上は鉄製の柵に囲まれている。中央にスーツ姿の男が立っており、片手に持ったロウソクであたりを不気味な赤色に照らしている。足元には旅行カバンがある。

 さらに足元の地面にはテラテラと輝く液体で魔法陣のようなものが描かれ、その中央に手足を縛られた古川千晶が意識を失って横たわっている。

 男(光川)は探索者を見ると、「おや、こんなところになんの御用です?」などと慇懃無礼な態度で対応するが、探索者が千晶を返すように言うと態度を硬化させる。

「そう仰られても、こちらも仕事でしてね。サンプルを収集し、我が主へお届けする。粘土がなければ煉瓦が作れないように、研究のためには十分なサンプルが必要なのですよ。
 我が主がそれを必要とされている……我が主の叡智は時空さえ支配する、真に偉大なものなのですよ。真実の探求の前には、貴方がたの思惑や感情など限りなく無に等しい。消え失せなさい」

 彼がロウソクを高く掲げると、その光が風もないのに揺らめく。光はみるみるうちに膨張していき、やがてロウソクを離れて浮き上がったかと思うと、突如として流星のように縦横無尽に飛びはじめる。炎の吸血鬼を間近で目撃した探索者たちは正気度を0/1D6失う。

 ここで探索者が取れる行動は主に2通りある。

①戦闘
 
炎の吸血鬼のデータは、ルールブックP.301を参照。
 炎の吸血鬼を倒すか光川を行動不能にすれば、光川は降参する(再度召喚するには、時間とマジック・ポイントが不足しているため)。ただし炎の吸血鬼に対しては、水などでしかダメージを与えられないことに注意。

 光川が降参するか気絶すると、そのタイミングで彼の携帯電話が鳴る。これはクライン生命からの連絡だ(光川が意識を保っていれば電話に出て、しばらく黙って耳を傾けた後で「主が君たちと話をしたいそうだ」と携帯を差し出す)。

 探索者が電話を取るか取らないかに拘らず、スピーカーから少年の声が流れ出す。

「こんにちは、僕はジェフリー・ウォレンといいます。部下がご迷惑をおかけしました」

 ジェフリーはまるでその場の様子を見ていたように非礼を詫びるが、それでも可能であればサンプルを手に入れたいと語る。

「今日のところは諦めて、私たちは手を引きます。でも皆さんはそこの女性……千晶さんを描いた絵画を2点持っていますよね。それらの絵をいただければ……そうですね、我々の叡智の一部を差し上げますよ」

 探索者たちが交換に応じて冷泉の絵手紙と『千晶』を渡せば、ジェフリーは光川に命じて千晶の拘束を解き、さらに『ナコト写本』(クライン生命版)の抄本を渡させる(なお、探索者たちが絵を携帯していない場合は、絵のある場所を教えるだけでもよい)。

 交換を拒否すれば、「そうですか、残念です。それではまたいつか」と言って通信は切られる。その冷ややかな声を聞いた探索者は全員POWロールを行う。成功すると、冷泉の絵画を観たときのような目眩とともに、少年の声が混沌とした音の集合――鋏の音や羽音、さらにはテケリ・リといった奇怪な音の混ざり合ったものに聞こえてしまい、正気度を0/1D6失う。これは冷泉の絵画の影響で感受性が敏感になっているために、ジェフリーに宿るイス人の異質な精神を直感してしまったことによる。

 交換を受けても拒否しても、光川は任務を諦めたのか、いつの間にか姿を消している。探索者は古川千晶を取り戻すことができるだろう。

 一方、探索者が敗北すれば、光川は千晶を生贄にして《門》の儀式を完成させ、街から姿を消してしまう。友人を救えなかった無力感から、探索者たちは正気度を1D6失う。

 なお、ジェフリー・ウォレンと『ナコト写本』(クライン生命版)に関する詳細は『クトゥルフカルト・ナウ』を参照。

②交渉
 光川が「十分なサンプル」を求めているという情報を手がかりに、下記のいずれかと千晶を交換するよう持ちかけることもできる。

・時雨荘の壁に描かれたダオロスの下書き+冷泉の絵手紙などの絵画(「世界を視た男」参照)

・「ダオロスの眼球」を着けた人間

 これらはいずれも、特異な角度に関する重要なサンプルとなる。
 交渉が成立すれば、光川はもう探索者たちに迷惑はかけないと約束して立ち去る。交渉が決裂すれば、戦闘に移る。

10. 結末

 光川が去ると、古川千晶は意識を取り戻す。千晶は状況を理解すると、探索者たちに心からの感謝を伝える。友人を救い出した探索者たちは、正気度を1D6回復する。

 その時、夜空に流れ星が走る。千晶は(もし失明していなければ)それを見て、「綺麗……こんな景色を冷泉先生に描いてほしかったな」とつぶやく。

 もしも千晶に冷泉の絵手紙を返すことができれば、彼女は驚きながらも喜んでくれるだろう。正気度を追加で1D4回復する。


主な参考文献


柄本和昭「世界を視た男」(坂本雅之/アーカム・メンバーズ編『新クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2020』KADOKAWA、2020)

坂本雅之、内山靖二郎、坂東真紅郎、アーカム・メンバーズ『クトゥルフ神話TRPG クトゥルフカルト・ナウ』エンターブレイン、2013

H.P.ラヴクラフト(大瀧啓裕訳)「魔女の家の夢」(『ラヴクラフト全集 5』東京創元社、1987)


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