記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

新CoC「死者のストンプ」考察

 新クトゥルフ神話TRPG「死者のストンプ」をキーパー(以下KP)として遊ばせていただきました!
 1925年のアメリカ、ハーレムという多くのアフリカ系アメリカ人が集まる街で起きる怪事件を追うシティシナリオ。ジャズ・エイジの空気感とクトゥルフ神話的狂気が満喫できて、とても楽しかったです。ぜひ皆様にも遊んでいただきたい……!
 という訳で、シナリオ考察と感想を書いてみます!

本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」

【シナリオ概要】
舞台は1925年アメリカ。人々がジャズと密売酒を楽しむナイトクラブ「スモールズ・パラダイス」に、一発の銃声が鳴り響く。犯人は人混みに消えて行くが……
・人数: 2-5人
・プレイ時間: セッション1-2回
・注意点: プレイヤーには事前に、1920年代の人種差別が扱われる可能性が高いことを説明する必要がある。
・出典: 『新クトゥルフ神話TRPGスタートセット』
※『クトゥルフ神話TRPG』(6版)にも掲載されており、Mark Morrison作とクレジットされている。ただし6版バージョンと本作には変更点も多い。

※以下、シナリオ本編のネタバレを含みますので、まだ遊ばれていない方はご注意ください!


事前調査

○時代背景:ジャズ・エイジ

 「死者のストンプ」は、ジャズとギャングの銃声で幕を開け、探索者は1920年代のハーレムを駆け回ることになります。プレイヤーさんたちにはぜひ、ジャズ・エイジの空気感を楽しんでいただきたいところです。

 そこで今回は、アーカム・メンバーズ様がオススメされていた資料『アメリカ1920年代』を参考に、自分なりに時代背景をまとめてみました。初学者ゆえ理解の浅い部分もあるかと思いますが、ご容赦ください。

大戦の終結と戦後の繁栄
 1918年11月、第一次世界大戦が終結しました。戦場となったヨーロッパが荒廃した一方で、戦火を免れたアメリカは戦時の緊張から解放され、繁栄を謳歌することになります。

 その繁栄を経済面からリードしたのが自家用自動車でした。1908年に発売されたT型フォードは、大量生産によって低価格化を実現し、大衆が自動車を所有する時代を切り開きます。やがて自動車は単なる道具を超えた社会的なステータスとなり、本シナリオに登場するパッカードのような高級車が人気を博します。
 自動車以外にも、掃除機や冷蔵庫などの家電製品やラジオ、住宅など様々な商品が大量生産され、広告によって大衆の欲望を刺激し、次々に消費されていきました。現在のアメリカ的な生活様式は、この時代に形づくられたと言われています。

 このように1920年代は、大量生産・大量消費による経済的な繁栄を大衆が謳歌した時代だったようです。
 しかしその影では貧富の格差も拡大していました。そのあおりを受けたのは、移民や黒人(アフリカ系アメリカ人)、あるいは女性などの社会的弱者でした。彼らは劣悪な労働環境で働きながら、その人件費の安さから白人男性労働者からの反感にも曝されていたのです。

人種差別とジャズ
 20世紀初頭、ヨーロッパの貧困と戦争から逃れるため、多くのイタリア人とユダヤ人がアメリカへと渡りました。彼らは「新移民」と呼ばれ、工場などでの単純労働に従事しました。「死者のストンプ」の舞台ハーレムでも、1918年までに20万人のユダヤ人と17万人のイタリア人が独自のコミュニティを築いていたそうです。

 その後、ハーレムにやってきたのがアフリカ系アメリカ人たちです。当時、南部では「ジム・クロウ法」と呼ばれる人種差別制度が施行されており、黒人の公共施設利用は制限され、異人種間の結婚も禁止されていました。南部ではこうした差別やリンチ、貧困がはびこり、そこから逃れるために多くのアフリカ系アメリカ人がハーレムに移住したのです。北部にも差別はありましたが、南部よりは自由とチャンスがありました。

 その結果として花開いたのが、「ハーレム・ルネッサンス」という、アフリカ系アメリカ人たちを中心とする文化です。「戦争体験からくる虚無感と、人間を無視する物質万能のアメリカへの絶望」(『アメリカ1920年代』123ページ)から、エキゾチックな魅力をもつ黒人文化が注目を集めたのでした。
 その代表が、ニューオーリンズで生まれたジャズです。アドリブとスイングを特徴とするこの音楽は聴衆の心をとらえ、レコードに乗って全米へ広がってゆくこととなります。

禁酒法とギャング
 最後に、禁酒法についてまとめておきたいと思います。
 禁酒法は、この時代のもつ様々な側面から生まれました。第一次世界大戦下で、倹約と勤労のために禁酒が奨励されたこと。社会に根強く残るピューリタン的価値観。女性の社会参加が進む中で、家庭の平和を求めて禁酒運動が行われたこと。人種間の対立が、移民たちの拠点であった酒場への反感に繋がったことなどです。そういった種々の運動の結果、1919年から全米で酒の製造販売が禁止されることとなりました。
 しかし、実際には酒の取り締まりが徹底されることはなく、本シナリオの「スモールズ・パラダイス」のようなもぐり酒場(スピーク・イージー)が各地に乱立し、かえって犯罪組織が酒の密売で利益を得ることとなりました。そうして成長したギャングの代表格が、シカゴのアル・カポネです。

 このような光と影の入り乱れる時代が、「死者のストンプ」の舞台なのです。

○シナリオの構成

 それでは「死者のストンプ」のシナリオ分析を進めていきます。
 このシナリオは、1925年のニューヨーク、ハーレムが舞台です。具体的な季節は指定されていませんが、史実では作中に登場するスモールズ・パラダイスが10/26に開店しています。また、11/12にはルイ・アームストロングがニューヨークからシカゴに戻ってレコーディングを始めているそうなので、厳密に考えるなら10月末から11月上旬あたりになるのではないかと思います。

 次に、シナリオの構造です。海外シナリオの例に漏れず、本作も一見複雑に思えますが、整理すると以下のようになっています。

 こうして見ると、案外シンプルで頑丈なシナリオですね。菱形で示した部分が、探索者が自由に聞き込みなどの調査を行うパートです。そしてその前後では、魅力的なイベントが次々に起きてストーリーを牽引していきます。
 シナリオ進行上のポイントは主に2点です。ファイエットの葬儀への誘導と、解決情報に直結するターナーの探索(特にマーニーの墓の情報)です。ここさえ押さえられれば、探索が行き詰まることは、まずなさそうです。
 あとはセッション時に、スモールズ・パラダイスでの混乱をうまくさばき、タイミングを見計らってターナー誘拐事件を起こして……誘拐の後にカーチェイスが起きる可能性もありそうですし、本番は一体どんな展開になるでしょうか?

○探索者の動機

 本シナリオの難関の一つは、探索者の動機です。
 このシナリオは「プレイヤーが自分から状況に引き付けられることを前提」としています。現代日本の感覚では「警察に任せた方がいいのでは」と思われるような事件に対して、探索者が積極的に関わることで物語が動きだすのです。
 そのためには、まずセッション前にプレイヤーさんに積極的なプレイをお願いすることはもちろん、キーパーとしても探索者が事件に首を突っ込みやすい状況を作っておきたいところです。
 そこで、あらかじめいくつかのフックを作っておいて、どれを使うかは当日、探索者の設定を見て決めることにしました。

探索者のバックストーリーを活用する。
 これが本シナリオで推奨されている方法です。例えばもし探索者に愛する人を失った経験があれば、その人を蘇らせる方法を求めて探索をするかもしれません。また、マヌスコの「復活」で狂気に陥った探索者がいれば、その狂気の効果を絡めるのも一手です。

誰かから依頼を受けて調査する。
 とはいえ、探索者自身の動機だけでは十分でない場合も考えられます。そこで、外部から依頼をするケースも用意しておくことにしました。依頼者としては、以下のような面々が考えられます。

警察
 ニューヨーク警察のトーマス・F・マロウンは、原作小説「レッド・フックの恐怖」に登場する、頑健で洞察力に富む刑事です。ハーレムは彼の管轄外ですが、クトゥルフ神話の恐怖を知る彼がこの事件を知れば、民間人の力を借りてでも解決を目指すでしょう。
 また『プレイングガイド』の194ページに掲載されている探索者の組織「南13区」も、神話的事件に立ち向かうニューヨーク警官の団体です。

怪奇作家
 こんな依頼も考えられます。事件後、スモールズ・パラダイスを出た探索者の前に、青白い顔をした猫背の男性が現れて、こんなことを頼んでくるのです。
「私は怪奇小説を書いている者です。奇妙な事件に興味があるのですが、健康を害していて、この石と騒音の都市では満足に動けません。私の代わりに事件を調査して手紙で報告していただけたら、相応のお礼をします……」
 1925年のニューヨークには、H.P.ラヴクラフトもいました。当時35歳。都市の狂騒や結婚生活の破綻、自宅の空き巣被害などに苦しんでいた彼は、生活のために慣れない求職活動を行っていました(『ラヴクラフト全集5』339-342ページ)。
 お酒は飲まないラヴクラフトですが、そうした求職活動の中で、断りきれずにハーレムに呼び出されていた日もあるかもしれません。あるいは、探索者の前に現れたのはラヴクラフト本人ではなく、実は邪神ニャルラトテップなのかもしれません。
 他にもジャーナリストや学者、リロイ・ターナーをライバル視する音楽家など、様々な人が探索者に依頼する可能性が考えられます。

○文中での不明点: ジャズにまつわる2点

 最後に、シナリオを読んでいて分からなかった点について、箇条書きでまとめておきます。

・プレイヤー資料1「名刺」に書かれた「ニューオーリンズ・スタイル」とは何か?
→ニューオーリンズで生まれた「ジャズ葬」を指していると思われます。これはシナリオ中「ファイエットの葬儀」で描かれるような、音楽を伴う葬列のことです。

・「ファイエットの葬儀」で流れる曲は?
 本作には、多くのジャズが登場します。

 しかしファイエットの葬儀で流れる2曲は、動画サイトで探してもなかなか見つかりませんでした。
 しばらく探した結果、「ただあなたに寄り添って歩く」の方は "Just a Closer Walk with Thee" という原題で動画が見つかりました。もう一曲の「最後の審判の日に会おう」については原題も分からなかったため、もしご存知の方がいらっしゃいましたらご教示いただければ幸いです(こうなるとシナリオの原文も買いたくなってしまいますが、予算が……むむむ)。

(2/17追記)「最後の審判の日に会おう」は、原文では "I'll See You on Judgment Day" だという情報をいただきました。改めて検索してみたいと思います。ありがとうございました!

セッション記録

 さて、いよいよセッション当日です。会場は、今回も神田のデイドリーム様にお世話になりました。そして寒い中でしたが、3人のプレイヤーさんがご参加くださいました!

 軽く自己紹介と時代背景の説明をしてから、探索者を作成。今回はシナリオに従い、人種も決めていただくようにお願いしました。その結果、以下の3人が探索することに。

・大吟醸を売り歩く多芸な農夫(日本人移民)
・晴耕雨読の便利屋、実はフリーの殺し屋(イタリア系)
・酒を愛する退役軍人(アメリカ人・白人)

 この人種も職業もバラバラの3人が、なぜ一緒に探索することになるのか。頭を悩ませましたが、プレイヤーさんからの提案で、

・農夫がハーレムで酒を売りこむために、地域で顔が利く便利屋に相談する。
→便利屋が、酒場の常連である退役軍人を巻き込む。

という流れで、3人はナイトクラブ「スモールズ・パラダイス」に集うことになりました。

1. スモールズ・パラダイスからの脱出

 さて、青い扉を抜けて絨毯敷きの階段を上がると、店内はジャズと会話で賑わっています。満席のために、神経質そうな男性と相席することとなった3人は、商談相手を待ちながらジャズや会話を楽しみます。クラブ中央のステージでは、リロイ・ターナーという若い黒人が、トランペットで見事な演奏を披露しています。
 しかしその時、相席の男性の背後に、ネズミのような男が近寄ったかと思うと、その後頭部に銃弾を撃ち込みます! 正面に座っていた便利屋さんは、全身に血を浴びてしまいました。
 3人は即座に殺人犯を追おうとしましたが、ネズミのような男は人混みに紛れて去ってしまいます。

「このままだと、自分たちが犯人だと思われるのでは……?」

 冤罪を恐れた一行は、裏口から脱出することに決めます。店内に広がっていく悲鳴とトランペットの音色、そしてパトカーのサイレンを背中に聞きながら、3人は近くにある退役軍人さんのアパートに逃げ込んだのでした。

 翌朝早く、アパートの隣人がニュースを持って飛び込んできます。なんと昨夜、スモールズ・パラダイスで死人が蘇ったというのです。
 隣人によると、昨夜、クラブで殺された会計士が、ジャズの音色に合わせてひょいと立ち上がったかと思うと、踊るような足取りで外に歩き出したそうです。死人は、パニックになった人々をよそにクラブを出たところで、偶然、パトカーに轢かれて動きを止めたのだといいます。
 3人が隣人の話に首を傾げているところに、第二の訪問者が訪れます。ダニエルと名乗るその刑事は、昨晩、事件直後にクラブを離れた怪しい3人組の目撃情報があると言って、一行を詰問しました。
 3人は弁解し、真犯人はネズミのような男だと証言します。するとダニエル刑事は忌々しげに舌打ちをして、「ジョーイか……」と呟きを漏らします。そして3人の証言に一応の感謝をしたうえで、事件解決までは街を出ないように釘を刺して立ち去ってゆきました。
 街の裏事情に通じる便利屋さんは「ジョーイ」という名前から、昨晩の殺し屋がギャングのボス・ボナートの手下だと気がつきます。ボナートは政治家や警察とも癒着しているため、このままでは自分たちの疑惑が晴れる保証はありません。
 こうして一行は探索者として、会計士殺害事件と死者復活の調査に乗り出すことになりました。

2. ジャズマンを追え

 調査を進める中で、3人は町中で、葬列からの死者復活(「ファイエットの葬儀」)を目撃し、葬送の演奏をしていたリロイ・ターナーに疑惑の目を向けます。
 そこで彼らは、近くのもぐり酒場でリロイに直接話を聞くことにしました。結果、リロイは数日前に、かのルイ・アームストロングからトランペットを譲り受けたということが分かります。彼のトランペットを改めて観察すると、ベルの中に奇妙な象形文字が彫り込まれています。退役軍人さんは、このトランペットのせいで死者が蘇っているようだから手放すようにと説きますが、リロイは頑なに応じません。

 トランペットが諸悪の根源だと見た探索者たちは、その出処を探るため、リロイがアームストロングに会ったというクラブ「ブルーヘブン」への潜入を試みることにします。
 しかしここで、人種の問題が持ち上がりました。日本人である農夫さんが、クラブに入れないのです(※前出のスモールズ・パラダイスは例外的に多くの人種に門戸を開いていましたが、当時は差別的なクラブの方が一般的だったようです)。
 そこで便利屋さんは自分の仕事道具を使い、〈変装〉技能で農夫さんを白人に仕立てようとしますが、判定は失敗。まるで芸人のような白塗りになってしまいます。
 ですが農夫さんはこれを逆手にとって、エンターテイナーとしてクラブに潜入することにしました。リロイ・ターナーのトランペットに合わせて、故郷で評判だったドジョウすくいを披露するのです。
 クラブ「ブルーヘブン」に行き、退役軍人さんの仲介で芸を売り込んでみたところ、マスターの評価も上々(ちなみに判定は〈芸術/制作(農業)〉で行い大成功)。農夫さん&リロイのコンビは、無事に前座として潜入できることとなりました。

3. ミンチー・マウス登場

 その晩、クラブが開店すると一行は見張りを開始。前座としてステージに上がったリロイ&農夫はファンブルしたものの、客の中にギャングのジョーイを見つけます。彼は見つかったことに気づくやパッカードに乗って逃走。便利屋さんは拳銃でタイヤを狙撃し、後輪をパンクさせることに成功します。

 その後、クラブの客にルイ・アームストロングについて聞き込みをしたものの目撃者は見つからず。探索者たちは調査の焦点を、トランペットの出処から楽器そのものに移すことにします。
 そこで探索者たちは、トランペットに刻まれた象形文字の解読をコロンビア大学に依頼しに行ったり、リロイからトランペットを借りて、ネズミの死体に向けて吹くなどの実験を行ったりすることにしました。
 ここでキーパーとして、トランペットの具体的な効果を裁定する必要が出ました。事前にこの点を考えておかなかったのは迂闊でしたが……ともかく、急遽追加の考察を行うことになりました。

○考察:「不浄なるトランペット」について

 リロイのトランペットは、「才能ある音楽家が(…)演奏すると、それを聴いた死者をよみがえらせ、復讐に駆り立てる」(『スタートセット』p.114)アーティファクトです。それでは、一度復活した死者が、再びただの死体に戻る条件は何でしょうか?
 その条件はシナリオに明記されていませんが、死体に戻るシーンは以下の5パターンが描写されています。

・パトカーに轢かれ停止(p.118)
・ゾンビが自らの状況を理解して停止(p.126)
・ゾンビが完全に破壊される(p.131)
・演奏者を気絶させる(p.131)
・演奏者を説得する(p.132)

 一方で、単に演奏を止める(p.118)、演奏者を殺害する(p.132)などの方法では、死者たちは止まらないようです。
 これらを総合すると、よみがえった死者を止める方法は、以下の3つに絞ることができそうです。

①死体自体を完全に破壊する。
②死体が自身の死を受け入れる。
③演奏者が、死体に負の感情を「吹き込む」ことを、意識的に辞める。
(※なお6版に収録されていたバージョンでは、③の方法は無効だったようです。)

 今回はこのような解釈で、セッションを進めることにしました。
 そして農夫さんがトランペットを演奏すると宣言していたので、〈芸術/制作(楽器演奏)〉ロールをお願いすることにしました。キーパーとしては、これで「才能ある音楽家」の演奏が死者復活の条件であることを伝えられると思っていたのですが、判定結果はなんとクリティカル!
 結果ネズミはよみがえり、「ミンチー・マウス」なるニックネームをつけられて、探索者たちに可愛がられることとなったのでした。

4. リバーサイドの戦い

 翌朝、探索者たちは警察署でギャングのパッカードについて情報提供をした後、リロイ・ターナーと合流します。彼らは今日、トリニティ教会の墓地で、実験の続きをすることにしていました。目的は、リロイのトランペットの効果がどれほどの範囲まで及び、どのくらいの死者を蘇らせるのかを検証することです。

 しかしキーパーとしては、これは悩ましいところでした。なぜかというと、トリニティ教会の墓地でリロイが演奏をすると、物語が一気にクライマックスまで飛んでしまうからです。
 そこで多少前倒しになりますが、リロイの誘拐イベントを起こすことにしました。

 リロイと探索者が実験を始めようとしたところ、墓地沿いのブロードウェイに灰色のパッカードが止まり、そこから下りてきたギャングたちがリロイを攫います。探索者は発砲しますが、パッカードはリロイを乗せて走り去ってしまいました。

 探索者は急いで自分の車でその後を追いますが、〈運転〉ロールに失敗して見失ってしまいます。そこで一行は、最後に車を見たリバーサイドのあたりで聞き込みをして、灰色のパッカードが川沿いにある古い車庫の前に停まっていることを突き止めます。

 探索者たちは慎重に忍び寄り、車庫の窓から中の様子を窺います。すると中では、リロイ・ターナーが椅子に縛りつけられ、それをボス・ボナート率いるギャングたちが見下ろしていました。ここはボナートたちの拠点の一つだったのです。
 ボスはリロイの力を確認するため、手下を殺してからリロイに演奏をさせます。結果、死人はよみがえり、ギャングの機関銃でバラバラにされるまで歩き続けました。そして自分の力で人が復活することを確信したリロイは狂気に陥ってしまい、ひたすら陽気なメロディーを奏で続けます。
 探索者たちはリロイを救い出すため、ギャングたちに戦いを挑むことにします。まず付近に停まっていたトラックを農夫さんが車庫に突っ込ませ、その混乱に乗じて便利屋さんと退役軍人さんが突入。最後は便利屋さんがボスの身柄を抑えて、戦いは探索者の勝利に終わりました。

 そこに、傷ついたパッカードの目撃情報を受けた警察もやってきて、ボス・ボナートとその手下はお縄につくこととなったのでした。

5. 死者のストンプ

 車庫での一件が片づいたところで、探索者は狂気に陥っているリロイを病院に連れて行くことにします。しかしその道中、リロイが車から飛び降りて、細い路地に逃げ込んでしまいます。

 一行はリロイを見失います。しかしここで退役軍人さんが〈目星〉に成功して、リロイが落とした写真を見つけます。
 そこには微笑む若い女性が写っており、「リロイへ生涯の愛を。マーニー・スミートン」と書かれていました。探索者は先程、トリニティ教会の墓場でこの名前を見たことを思い出して、リロイの行き先に目星をつけます。

 探索者たちが墓地に着くと、リロイはマーニーの墓の前で演奏を始めようとしているところでした。彼は事故で失った恋人を蘇らせようとしていたのです。一行はなんとか彼を思いとどまらせようとしますが、リロイの決意は固く、ついにトランペットを口に着けてしまいます。
 すると悲しくも甘い旋律が流れ出すとともに、墓地全体が揺れはじめて、大地の下から死者たちが起き上がってきます。
 ここから戦闘が始まりました。今回はシナリオ付属の地図を広げて、その上に各キャラクターを表すコマを置いて遊びました。

KP「リロイはマーニーの墓の前で演奏していて、彼と皆さんの間に、6体の死者がいる状態です。それでは、DEX順で便利屋さんからお願いします」

便利屋「リロイを撃って殺してしまうと、ミンチー・マウスが死体に戻ってしまうかもしれない……まずはゾンビに向かって、『こっちに来いよ!』と挑発してみます」

KP(ゾンビの行動原理は、「自分を見捨てたもの」や生者への復讐だから……敵対的な態度をとる人がいればそちらを攻撃するかな)「了解です。すると、ゾンビたちはあなたの方に向かって、呻きながら歩きだします。次は退役軍人さんですね」

便利屋「なんか、ハーメルンの笛吹きみたいなことに笑」

退役軍人「私は、リロイからトランペットを取り上げます」

KP「わかりました。では、便利屋さんの挑発のおかげでゾンビの邪魔は入らないので、〈近接戦闘(格闘)〉でロールしてください。リロイは〈回避〉を試みますが……失敗です」

退役軍人「コロコロ……こちらは成功です。トランペットを取り上げました!」

KP「するとリロイは驚愕の面持ちで、あなたの方に手を伸ばしています。まだ死者たちが動きを止める様子はありません……では農夫さん、お願いします」

農夫「リロイを説得したいと思います。『取り戻せない過去に、いつまでもしがみついてちゃダメだ。これからも、僕と一緒にステージに上がろう!』と」

KP(シナリオ上ではリロイを説得する難易度はエクストリームだけど、退役軍人さんが既にトランペットを取り上げていることと、これまでのロールプレイを考えると、難易度は2段階下げていいかな)「……では、難易度レギュラーで交渉技能をロールしてください」

農夫「コロコロ……成功です! リロイを抱きとめますよ」

KP「……するとリロイは、ハッとした様子で墓地の惨状を眺めます。死者たちは次々に、その場に崩れ落ちていきます。リロイはマーニーの墓を見、それから貴方たちの顔を見て、このように呟きます。『あぁ……そうだよな。オレも、いつか天国のマーニーに会いにいけるように、頑張って生きていかなきゃいけないよな』……戦闘終了です。お疲れさまでした」

便利屋「よかった……けど、転がってる死体たちはどうしたものか……」

 こうして探索者たちの活躍により、今回の事件は幕を閉じました。事件は悪質な墓荒らしの仕業とされ、街を襲うはずだった悲劇は回避されました。
 またシナリオ上では、リロイ・ターナーは精神病院で余生を送ることになっていたのですが、農夫さんたちの熱い説得にその結末はふさわしくないように思えました。

 結果、リロイは農夫さんと共に、トランペット&ドジョウすくいの異色コンビで全米興行に旅立つことに。そして彼らのマネージャーは社会的信用のある退役軍人さんが務め、そしてその一行に、便利屋さんがマスコットのゾンビネズミ、ミンチー・マウスを連れてついていくことになったのでした。
 彼らがウォルト・ディズニーに先んじて全米の人気を獲得し、エンターテイメントの歴史を塗り替えることができるのか、それはまた別の話……というところで、今回のセッションは幕となったのでした。

感想と反省点

 今回も、プレイヤーさんたちの素敵な想像力と積極的なご協力のおかげで、楽しいセッションになったと思います。
 特に、3人がリロイ・ターナーと積極的に関わってくださったことは嬉しい驚きで、想像以上のハッピーエンドに繋げることもできました。

 ただ個人的には、それを踏まえて次回への反省点もありました。それは、背景情報を意識することです。
 今回、私は鍵となる情報を渡すタイミングに意識を置いて、シナリオの進行に努めていました。しかしその結果、3人がリロイと沢山話してくれていたにも拘らず、彼の恋人マーニーに関する情報を、あのような土壇場になるまで出しそびれてしまいました。
 せっかくならリロイとの会話の中で、マーニーに繋がる背景情報を自然にプレイヤーさんへ渡せていたらよかったな……と思います。
 次回からは背景情報を意識することで、よりNPCとの会話を豊かなものにできるようにしたいです。

 まだまだ未熟なキーパーですが、今回も一緒に楽しいセッションを遊んでくださったプレイヤー様、素敵なシナリオをくださった作者様と訳者様、本当にありがとうございました!

主な参考文献

H.P.ラヴクラフト(大瀧啓裕訳)『ラヴクラフト全集』東京創元社より
・「履歴書」(『全集3』1984年)
・「ナイアルラトホテップ」「レッド・フックの恐怖」(『全集5』1987年)
・「あの男」(『全集7』2005年)

英米文化学会編『アメリカ1920年代――ローリング・トウェンティーズの光と影』金星堂、2004年

外山喜雄・外山恵子『ルイ・アームストロング 生誕120年没50年に捧ぐ』冬青社、2021年


いいなと思ったら応援しよう!