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新CoC【古き木々のただ中で】新米キーパー・メモ
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」
新クトゥルフ神話TRPG「古き木々のただ中で」は、1920年代アメリカが舞台のクラシックシナリオです。
物語は1925年6月、アメリカ北部の町で起きた誘拐事件から始まります。探索者たちは武装捜索隊に参加し、誘拐された少女ジェーン・ストロングを探して森の奥へと踏み込むのです。
ルールブック掲載シナリオなのですがなかなか遊ぶ機会がなく、先日はじめてKPをさせていただきました。
その際のシナリオ分析とセッション記録をメモしてみたいと思います。
※以下、シナリオのネタバレがあります。ご注意ください!
シナリオ分析
○シナリオのトーン
ストーリーとしては、導入に「このシナリオは探索よりもアクションを重視している」とある通り、戦闘やチェイスに比重が置かれています。
そのため全体のトーンはウィルダネス・アドベンチャー寄りといえるでしょう。
また一方では、凄惨な悲劇や度重なる悪夢が原典風の恐怖を募らせる、クラシカルなクトゥルフ神話でもあります。
○物語の舞台
本シナリオの舞台はヴァーモント州南西部のベニントン。楓や樫の木の多い、緑豊かな地域です。
H.P.ラヴクラフトもヴァーモント州に足を運んだことがあるそうで、その風景を作品の中で以下のように描写しています。
「大きな絶壁が聳え立つところには、目の醒めるような谷間がサッと広がって、山の峰を這い上がってゆく緑の草木の隙間に、ニューイングランドの手つかずの花崗岩が灰色のいかめしい姿を見せている(...)道路から時折、細い、半ば隠された枝道が分かれて行くが、そうした道が通り抜ける鬱蒼とした森の太古の樹々の間には、地水火風の精霊たちの大群が潜んでいそうだ」
『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』p.294より
またベニントンはおおよそ千歳市と同じくらいの緯度に位置しているので、本シナリオの事件が起きる6月末には15時間以上にわたり日が出ているようです。
おおよそ5:30に日の出、20:30に日の入りとのことなので、日光に弱い怪物にとっては辛い気候になりそうです。
○情報の構造
「古き木々のただ中で」は線形シナリオですが、実際に読んでみるとかなり複雑に感じられます。
その原因はおそらく、「誘拐された少女の保護」という当初の目的と「邪神グラーキの企み」が交錯していることでしょう。
この2つの要素と、それぞれの解決に必要な情報を整理すると以下のようになります。
①解決情報A:少女の居場所
「ジェーン・ストロングは発掘現場で捕まっている」
←糸口情報:隠れ家、湖、発掘現場など
←誘導情報:ハンターの一行、一人目の誘拐犯、芸術家の遺体、芸術家たちのキャンプなど
②解決情報B:グラーキの企み
「湖に住むものが従者たちを使い、水晶に封印された力を取り戻そうとしている」
←糸口情報:ターナーの小屋、発掘現場など
←誘導情報:トラックなど
こうした錯綜した状況のもと、探索者たちは真相を追うことになります。情報が混乱してきたら、適宜〈アイディア〉なども活用して整理する必要があるかもしれません。
○NPCについて
本シナリオのもう一つの難しさは、NPCが多いことです。
舞台となる森の中では、誘拐犯、被害者たち、グラーキの従者たちがそれぞれの思惑で動き回っています。
特にグラーキの従者には、表立って動く発掘調査組と裏に隠れている脱走兵組があるため、KPもPLも混乱しやすいと思います。
NPCをグループごとに整理して、ホワイトボードなどで図示するのが良いかも?
※なおハンターの父親たちのステータスについては、正確にはダメージ・ボーナスとビルドが0になるかと思われます。
○クライマックス・結末について
本シナリオでは、どの場面がクライマックスとなるかが定められていません。探索者の選択によって、展開が大きく変わりうるからです。
しかしおそらくは、発掘現場や湖からの逃走か、水晶や捕虜をめぐった戦闘になる可能性が高いと思われます。
前者ならチェイス、後者なら戦闘を行うことになりそうなので、いくつか想定される処理を準備しました。
□チェイス
・現場のトラックを盗むならば〈幸運〉判定
→成功なら鍵がささったまま。失敗なら、鍵はグラーキの従者(スタントン)が持っている。
・ハザード:シナリオ内コラム「森の中で誘拐犯とチェイスする」参照
・バリアー: ターナーは1分かけて《ナーク=ティトの障壁》(ルルブp.252)を創造する可能性がある。
□戦闘
・戦闘中に水晶を破壊する場合、耐久値は25に設定。
(参考、ルルブp.134「バリアーと耐久力の例」)
・参考、コラム「死にやすさについてのメモ」について
元北軍の兵士が持っていそうな火器としては、58口径スプリングフィールド・ライフルマスケットがよさそう(武器データはP.402)。
□結末の一案
・捕虜たちの保護に失敗した場合
→後日、ジェーンの父・ストロング氏が自ら捜索隊を率いて森に赴き、行方不明となる。
またグラーキが水晶を手に入れて力を増した場合、生還した探索者たちはやがて、ジェーンたちによって湖へと誘われる悪夢を見るようになります(マレウス・モンストロルム2の「夢引き」を参照)。
・捕虜たちの保護に成功した場合
→探索者たちはストロング氏から賞賛と賞金を得て、正気度を回復する。
ただしグラーキが水晶の力を吸収した場合、野望を更に推し進めようとするでしょう。ベニントンの街でも、妙にぎこちない動きをする人影が目撃されるようになるかもしれません。
セッション記録
今回もセッションは、神田デイドリーム様にてオフラインで開催、3人のプレイヤー様にご参加いただきました!
アクション寄りのシナリオということで、探索者は以下のような武闘派の面々となりました。
・売り出し中の若き探偵さん
・元通信兵の無線技士さん
・モヒカンの騎馬警官さん
さて、拐われた少女ジェーンの父親・ストロング氏の依頼を受けて森へ踏み込んだ3人は、誘拐とは無関係な事件の痕跡に困惑したり、たびたび木陰から飛んでくる銃弾に悩まされたりしながらも、得意の拳銃やライフル、弓矢で敵を薙ぎ払って順調に森の奥へ進軍。3日目に誘拐犯の小屋を発見します。
しかしそこいたのは、怪物に少女を奪われたと喚く誘拐犯ひとりだけ。手がかりが途絶えてしまいます。
やむをえず3人は道を引き返し、誘拐とは一見無関係に思える怪しい痕跡を辿ることにします。
するとその先には、地質調査チームの作業現場がありました。これまでに得た情報からこの調査チームを不審に思っていた3人は、見張りを言いくるめて現場監督との面会に成功。しかし、ここにジェーンがいるという確証はなかなか得られません。現場監督がお茶を勧めてくるのを丁重に断って、3人は一時退却しました。
ふたたび手がかりが切れたため改めて一行が森を探索してみると、怪しい小屋が見つかります。慎重に中に入り調査してみると、地下室で怪しげな棺桶、そして南北戦争から脱走した兵士の手記が見つかりました。60年前、北軍から逃げだした彼らはこの近くの湖で邪神グラーキに出会い、永遠の命を約束された。彼らはその恩に報いるため、森のどこかに埋まっているはずの水晶を探し出そうとしている、というのです。
思わぬ情報が得られたものの肝心のジェーンの居所は掴めず落胆する一行でしたが、それでも諦めずに先へと進みます。
道は黒い湖のほとりへ続いていましたが、そこには異様な光景が広がっていました。湖の岸で、5人の若者たちが杭に縛りつけられていたのです。森で怪物たちに襲われたという彼らから、一行はジェーンが発掘現場に監禁されていることを聞き出します。
ついに救出対象の居場所を掴んだ3人は、すぐに発掘現場へと急ぎます。
森の茂みから様子を伺うと、現場では3人の作業員が発掘を行っているようです。その横には掘立小屋が5軒、立ち並んでいます。
ここで3人は作戦会議を行いました。敵が多いため直接の戦闘は危ない。そして自分たちの目標はあくまでジェーンの保護、ということで一行は裏からこっそりと小屋を調べてみることにします。
まずは左手の一軒目。〈隠密〉判定に成功して無事に忍び込みますが、ここはただの道具倉庫でした。しかし掘削道具の中からダイナマイトを発見し、抜け目なくポケットに滑り込ませます。
続いて二軒目を調べようとしたところ〈隠密〉が失敗し、作業員が3人の姿を見つけてしまいました。
いったい何しているのかと詰め寄られる3人でしたが、誘拐事件の調査のために現場を見せてもらいたい、これは少女の命のかかった緊急の用件なのだと〈説得〉に成功。作業員たちに現場を案内してもらえることになります。
しかしそれは敵の罠でした。改めて二軒目の小屋を調べようと立ち入った瞬間、後ろで作業員が入口を封じ、同時に奥の部屋の扉が開いて、そこから南北戦争時代の軍服を着たアンデッドたちが襲ってきたのです。
そうして最後の戦闘が始まりました。
敵はアンデッド、グラーキの従者6人。多勢を相手に流石の武闘派探索者たちも苦戦します。おまけに従者たちはCONが高いため、大ダメージを受けても気絶せずナイフを振るい続けます。
5ラウンド以上にわたる死闘で全員が満身創痍、探索者の拳銃も故障してクロスボウまで持ち出した乱戦となりましたが、探索者たちは見事なチームプレイで勝利をもぎとりました。
囚われていたジェーンたちを無事に保護した一行は、行きがけの駄賃に発掘現場のクレーターもダイナマイトで埋め戻してから帰路につきます。
こうして、探索者たちは爆炎を背に堂々とベニントンの街へと凱旋。グラーキの力を封じた水晶は再び地の奥へと隠されて、旧支配者の野望はひとまず挫かれることとなったのでした。
ふりかえり
今回もプレイヤーさんたちのおかげで、楽しくセッションを終えることができました。感謝に堪えません。
しかしキーパーとしては、個人的な反省点が2つありました。
1つ目は「セッション・ゼロ」が不十分だったことです。今回はシナリオのイベント数が盛りだくさんのため気が焦り、事前のすり合わせもそこそこにシナリオを始めてしまいました。
しかしやはり、セッション前に「このシナリオはアクション重視なので、細かな探索よりも勢いで進んで欲しい」ということを、しっかりお伝えしておいた方が良かったなと思います。
そうすれば、誘拐捜査中に別の神話的事件が割り込んできても情報量に困惑せず、一つ一つの事件をもっと余裕をもってお楽しみいただけたのではないかと感じました。
もう一つは、感想戦でプレイヤーさんからも指摘された点なのですが、演出の問題です。
今回は自然が舞台のシナリオということで、1920年代アメリカの時代背景については一言二言しか説明しませんでした。またNPCについても、適当と思われる画像を用意できなかったため、今回は肖像画を使用しませんでした。
その結果、この時代に馴染みのないプレイヤーさんが、キャラクターや街の空気感をイメージしづらくなってしまったようです。
またNPCについては、本シナリオは大勢の人物が登場するため、やはり視覚イメージも用意した方が分かりやすかったと感じました。
……こうして書いてみると改めて自分のキーパリングの未熟さを感じますが、それでもやっぱりKPは楽しいので、今後もより楽しいセッションを目指してがんばっていきたいと思います!
改めまして、楽しい時間をくださったプレイヤーの皆様と、素敵なシナリオの作者様に心より御礼申し上げます。
主な参考文献
ラムジー・キャンベル(森瀬繚監訳)『グラーキの黙示 1』サウザンブックス社、2022年
H.P.ラヴクラフト(南條竹則編訳)『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』新潮社、2019年