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冷・乾の世界から、ぬるあつどろべたの世界へ

 8月15日、私の誕生日。30年前の昨日、母が陣痛と戦ったと思うと感慨深い。こちらは出産予定日まであと3日、まだ生まれる気配はない。

 20代、科学でなんでも説明できると思ってた。異常値は無視して、正常値の範囲を見ていた。でも異常値を引き受ける個人もいるわけで、そこに個人の感情とか心の動きがあった。

 歩行速度が遅いと認知症発症リスクが上がる、という研究成果がある。だから街中で歩行速度が遅い人を見ると「認知症なるで」と思いながら颯爽と抜かしていた。歩道のなんでもないところで立ち止まる人ほど危険な存在はないと思っていた。だが自分の骨盤がガタガタになり、お腹が張ってくると足を前に出せなくなり、肺が十分膨らまず息切れし、私は普通に歩いているつもりなのに周りの人にどんどん抜かされるようになると、今まで私が散々追い抜かしてきた人たちのことを思った。彼ら彼女らは何も思っていないかもしれないが、早く歩きたくても歩けなくてふがいないかもしれないし、現に今痛みを感じているかもしれない。

 冷たくて乾燥している社会はスムーズに回る。圧倒的に楽。しかしこれから投げ出される世界はぬるくて暑くてどろどろべたべたして痛くてだるくてスムーズに回らない。世界は元々ぬるあつどろべたで、一部切り出したところだけ人が暮らしやすいように冷・乾にしたという捉え方の方が正しいだろう。だから、10代20代と快適に過ごした冷・乾の世界から、30代でぬるあつどろべたの世界に片足突っ込むという方が正しいかもしれない(多分冷・乾をゼロにすることはできない)。

 自分のいる世界が変わることで、私自身何らかアップデートすると思う。30代への期待を込めて。

《終わり》

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