天国に行きたいスネ夫の話
スネ夫はジャイアンとつるんで悪いことをしてるが、ふと自分は天国に行けるのだろうかと思う。
その度にパパやママに相談する。パパは天国なんてないし死んだらみんな同じだよと真剣には取り合ってくれない。ママはスネちゃまはいい子ザマスから絶対大丈夫ザマスといつも味方でいてくれた。愛犬のスネ美に話しかけてもワンと応えてはくれるが、その声に信憑性などない。
そんなことをぼやぼやと考えながらも、ジャイアンとつるむことはやめずにのび太をいじめる日は続き、ついにスネ夫は30歳になる。大学を主席で卒業した後はパパのコネで大手商社の幹部にスピード出世した。ママは自分でも事業を始めて軌道になり始めていた。スネ美は老犬になってしまったが、健康な子犬のスネ次郎を産み、休日には一緒に遊んだりもした。
歳を重ねていくごとに流石にのび太いじめることは無くなったが、強いものの取り巻きにいることは変わらなかった。幹部に昇進した後も、会社の人間関係を巧みに使い分け、味方も増えていったが同時に敵も増えていった。
ある日突然、宇宙から宇宙人が攻めて来た。過去にドラえもんたちと冒険して出会ってきた平和的な宇宙人とは違い、地球の征服を目論む悪い宇宙人だ。
ドラえもんが帰ってからの地球は、自分たちが思い描いていた未来には程遠いくらい進化のスピードは遅く、枯渇していく資源を権力者たちが貪り合い、寧ろ退化していた。
そこに目をつけた宇宙人は、地球に残った僅かばかりの資源を有効活用するという名目のもと、攻撃を始めたのである。争いばかりする愚かな人類に変わり自分たちが管理をかってでようと。
容赦無く攻撃をしてくる宇宙人は一つの提案をしてきた。それは、健康な地球人100人を研究対象として差し出すことと、地球資源の分布と分配方法を取り決めたレポートを提出すること。宇宙人もその星での生物の進化と資源の分布に興味を持っており、生贄の人物は解剖して調べ上げ、分布配置をもとに効率的に資源調査をしていける。その二つを飲めば地球への攻撃は辞めて、資源の管理だけを友好的に進めていくと。
追い詰められた地球人に選択の余地はなかった。人類は度重なる会議の末、最初の1人の人間を差し出すことに決めた。それがスネ夫だ。まずは1人送り出すことで宇宙人に対して提案を飲むことを示すのと同時に、宇宙人も交渉のテーブルに上がってくれるのかを確かめるためだ。
会議のメンバーは各世界ごとの有力者からなり、その中にスネ夫が勤めていた会社の会長も加わっていた。会長は、「あいつならどんなことでもやってのけるし、何よりあいつはこういうことに対して断るということを知らないから適任だろう。」会長の一声で場の空気は変わった。
会議のメンバーも正直、自分の身内から人類の犠牲になるものを選びたくなどなかったから、最早会議など意味をなすことなく、人類の最初の生贄はスネ夫に決まった。
スネ夫にそのことが伝えられた時、スネ夫は酷く動揺したが、会長の言う通り、こういう時にスネ夫は断ることができない人間だった。
昔から弱いものを虐める強いものたちの取り巻きにいて、自分から率先して意見を言うことなどはしてこなかった。自分の意見を言う時は常に強いものが後ろにいる時だけだったが、もう自分の後ろには誰もいない。
数少ない味方も、スネ夫の代表選抜に反対すれば今度は自分が生贄にされてしまうだろうと思い、スネ夫に味方する者はいなかった。
生贄となったスネ夫は宇宙人が指定した星まで行けるロケットに乗り込み、打ち上げ後地球時間で数日後に宇宙人達が住む星に到着することとなっている。
生贄が自分と決まった日からスネ夫は、隔離施設の中に入れられて厳重に監視されながらも、ある程度は自由のある生活が過ごせた。
ロケットに乗り込む前日に、スネ夫には最後の自由時間が設けられた。会いたい人に会える権利だ。スネ夫が選んだのは、自分のパパとママと愛犬のスネ太郎だった。
パパは自分が会社の重役になりそうな頃、酒で失敗をして刑務所にいた。そのことがきっかけで会社での自分の立場が悪くなったこともあり、パパとは連絡も取っていないでいた。
パパは天国なんてないって言ったけど、今でも同じだと思うかと聞いたら、パパは「天国なんてないってのは今でもそう思ってる。でも地獄だったらあるのかもしれない。この世界だって地獄みたいなものさ。」と言ってそれ以上は多くは語らず面会時間は終了した。
ママは自分が立ち上げた事業がネットで悪い口コミが書かれるようになると、不安を払拭するため、怪しい民間療法やネズミ講に傾倒したいった。
ママは天国はあるかって聞いた時、スネちゃまはいい子ザマスから絶対大丈夫ザマスって言ったけど今でもそう思うかと聞いたら、ママは「スネちゃまはいい子ザマスからきっと天国に行けるザマス。これ、最近いい先生に教えて頂いた特性のお薬ザマス。これを飲めばすごく気持ちが良くなってきっと天国に行けるザマス。」そう言ってママはどこの何かもわからない怪しい薬を置いていって面会時間は終わった。
乗り込む時に、誰か一緒に連れて行きたいやつはいるかと宇宙人に聞かれた時に、スネ夫はじゃあ愛犬のスネ次郎を連れて行きたいと伝えた。嫌がりながら連れてこられたスネ次郎はスネ夫をみるとすぐに穏やかになり尻尾を振り始めた。
スネ次郎と一緒にロケットに乗り込み、ついに発車の時刻が来た。機体は揺れ始め徐々に空高く登って行き大気圏を突き抜け始めた時、スネ夫はどうしようもない不安と恐怖に包まれた。
自分のこれまでの人生はなんだったのか。強いものの後ろにいてただ弱いものいじめをしてきただけだったのではないか。自分が生まれてきて残してきたものなどなかったのではないか。だからこんな目にあうんだ。いじめてきたからそれを返されただけだ。でも自分は最後に人類の最初の代表となることを選択した。自分と残りの99人の命でそのほか全員の命が救われる。最後の最後に良いことをしたのできっと天国に行けるだろう。
そう思いながらスネ次郎を見たら、既にスネ次郎は死んでいた。その時ふと死神のようなものが語りかけて来た気がした。
「あーあ、せっかく天国に行けたかもしれなかったのに。最後の最後でやらかしたねスネ夫君。愛犬の命のことは考えなかったの?寂しいからって、君と犬とでは会話もすることもできないし、犬からしてみたら全く知らない狭い箱に閉じ込められて、息も出来なくなり、苦しみながら死んでいくしかないんだよ。ママにも昔からよく言われてたよね?「スネちゃま、動物は人間と同じで大切にするザマスよ。」宇宙人も地球人もその言葉通り、最後はお前を人間として扱ってくれただろう?それなのにスネ夫君ときたら自分の最後の選択は、愛犬の命を無為に死なす。これじゃあ天国には行けないね。パパの言うとおり地獄ならあるけどそこがお似合いだ。」
嫌だ、嫌だ、嫌だァァァァァァァァ。スネ夫は何かの幻覚を見てるのだと思い込もうとしてるがもう何も考えることもできない。死神の言うとおり、自分は最後にか愛犬の命を見殺しにする最低の人間だと。
もう何でもいいやと思った時に、ママからもらった薬のことを思い出した。そうだ、これを飲めば天国に行けるんだった。スネ夫は薬を取り出しごくりと蓋粒飲み込んだ。体がふゎあっと熱くなり頭がまっしろになりながら、次第に眠りにつく中でスネ夫はこう思った。そうさ、僕は天国に行ける。