【ガチ書評】ロックリー・トーマス著 「信長と弥助 本能寺を生き延びた黒人侍」 第三章
本投稿はロックリー・トーマス著 「信長と弥助 本能寺を生き延びた黒人侍」を解説する。
書評じゃなくていいや。
今回は第三章「現代に伝わる弥助伝説」を取り上げる。
書き出しですでにツッコミどころが多くて困る。
冒頭から、世界中の人々が弥助に魅了されていることと、ネットで検索するとSNS、Wikiなどたくさんヒットする、とある。
ふーん、Wikiね。情報を書いたのは鳥取トムさんでしたっけ。著者と名前似てますね。
更に、事実、通説、空想、画像などいろいろ出てくる旨と、「この本ではフィクションと事実を選り分けようと試みてきた」とある。
前の章の最後、「弥助は間違いなく信長の側近であり、立場は小姓であったことが確認できた」みたいなことおっしゃってますよね。
それって事実じゃないよね。
事実は史料に書かれているものが全てだ。
わからないのであれば、「わからない」が事実である。
著者は「わからない」ことを断定してこの本を書いているような印象を受けたのだが。
次には、弥助の論文をインターネットに投稿したら、いろんな人と交流できたよ、とある。
Wiki、論文と繋がると、著者に詳しい人は頭を抱えるかもしれない。
個人的な感想は【雑記】で発散する。
さて、本章の構成は以下のとおりである。
①弥助伝承における四つの時代
②現代の私たちにとって弥助はどんな存在なのか?
この章は内容が薄いが、②では看過できないところもあったと予告しておく。
①弥助伝承における四つの時代
著者は、当時の日本の情勢とともに弥助の伝承を四つに分けた。
一つ目は弥助が史料として世に出はじめた一五九八年ごろ。
二つ目は来栖良夫の「くろ助」が出版された一九四〇年ごろ。
三つ目は遠藤周作の「黒ん坊」が出版された一九七一年ごろ。
四つ目はパソコン版「信長の野望」で弥助で登場し始めた一九八三年から現代まで。
(個人的にはいまが五つ目の時代だと思う)
日本では、ゲームのキャラクターになった弥助は米国から輸入されたブラック・カルチャーの人気に相まって、英雄的戦士のイメージに一新された、と書かれている。
そんなイメージにはなっていない。ただの脇役である。たとえるなら焼きそばの紅しょうがである。
いくら「ご自由にお取りください」と書いてあっても、やきそばと紅しょうがの分量が逆転するぐらいの盛り方である。
さらに、弥助が出てくる作品として、漫画「信長協奏曲」を代表的な例として取り上げている。
最後に一九九八年に出版された漫画「アフロサムライ」は「真偽は不明だが弥助にインスピレーションを受けていると言われている」とある。
内容は未来の世界で黒人のサムライが父親の敵を討つという内容であるらしい。
解釈は自由であるが、そう誘導したいのは伝わってくる。
②現代の私たちにとって弥助はどんな存在なのか?
この本を読むうえできちんと意識しないといけないのは、史料にある弥助の逸話は「騒ぎになった」と「信長のオキニであった」の二点だけである。
イエズス会の書簡では、本能寺の変で「相当長い間戦った」とされているが、信長公記に活躍の記録がないので、逸話というには物足りないだろう。
ここでは、著者が直接接した情報提供者について触れている。
他の人も弥助にこんなに魅了されているんだよ! 著者だけじゃないよ! と言いたいのだろう。
情報提供者は以下の五人である。
・一人目 アメリカ白人女性
・二人目 プロ漫画家のアメリカ人男性
・三人目 作家の英国人男性
・四人目 属性不明
・五人目 日本史マニアのフランス人
それぞれが似たり寄ったりのコメントを寄せているが、著者ほど極端ではないのでほっとする。
それから、なぜ弥助は人々の興味を惹きつけ人々に影響を与えたかについて書かれている。
著者はいろいろ語っているが、弥助は自ら状況が変わるよう努力した史料はないことから、その答えは簡単に見つかる。
日本人とイエズス会が史料を残したからである。そして、語るべき活躍がないため史料が残りすぎなかった結果、空想の余地がたっぷりあったからである。
この章では、弥助が間違いなく「巻き込まれ型主人公」であることが確認できた。
ドヤりつつ、今回は終わり……の前に、一か所また恐ろしいことが書かれている。
以下に要約する。
十五世紀に技術の普及に貢献したのは中国人であり、ヨーロッパ人が武器とアフリカ人奴隷以外にもアジアに技術を広めたのは翌世紀からあった。
うーん、「広めた」か。
日本以外の国でも、アフリカ人を奴隷として使役していた記録がない国は キレていいところだ。
手元にあるなら原文を見て欲しいが、この段落、この文脈で「アフリカ人奴隷」の記述は必要ない。つまり、著者が意図して入れているのだ。
しかも今回は物語形式ではない。「ようだ」もない。
またやりやがった。
あきれつつも、次回は第四章「弥助が生きた時代」を取り上げる。