佇む彼女は遠い存在でした③
あの日から何度めかの学校。
あのパーティーは人生において刺激になったなぁなんて思いつつ
あの日から一向に連絡のない蓮加に寂しさを覚える。
しかし、俺から連絡するのは迷惑になると思い彼女のなるままに任せることにした。
蓮加と出会った日に壊れてからというもの、弟からパクっている銀チャリを自分のもののように乗りこなし、ジャリジャリと音を響かせながら通学路を駆け抜ける。
駆け抜けた先にある学校の校門をくぐり、生徒玄関を抜けると、そのまま教室へと向かう。
あぁ、蓮加元気かな〜
蓮加あの日以降も楽しく暮らせてるかな〜
会いてぇなぁ〜
なんて、呑気なことを考えていた矢先、
「ふわぁぁ……って…‼︎」
『よぉ、おはよぉさん』
廊下を駆け抜ける俺の進路は突然彼女に塞がれた。
「はぁ、んだよ賀喜。」
『おはよぉの一言もないのかっ?』
「はいはい。おはよう」
彼女の名前は賀喜遥香。
俺の保育園からの幼馴染だ。
彼女とは圭介よりも幼馴染歴が長い。
「で、なに?何の用」
『あぁっとねぇ、英語コミュニケーションの教科書忘れちゃってさぁ…』
「え、貸せってこと?」
『え?ダメ?』
「他にも貸してもらえる友達いるだろ」
『今日他に授業あるの○○のクラスだけだし、○○のクラスに仲良い子いないの。だから…お願い‼︎』
「はぁ…ちゃんと持ってこいよな。リュック下ろしたら渡しに行くわ」
『うっわサンキュッ‼︎ホントに助かるっ!』
俺は教室の外の廊下でそんな会話をして教室に入る。
すると急に何人かの友人に挟まれた。
“おい○○!賀喜さんとどういう関係だよ”
“なんか、距離近かったよな!”
あぁ、またこれかよ。
これだから賀喜と絡むのは嫌なんだ。
…あいつ、モテるんだよ。
だから少し話しただけで俺はこうやって囲まれるし、
どれだけただの幼馴染だと説得しても本当は好きなんだろ?とか問いただされるだけで面倒極まりない。
「お前らさ…いい加減にしろよな。ただの幼馴染だって何回言ったら分かるんだよ」
「いやでも流石に距離が近すぎるよなぁ?」
「あいつ圭介にもあんな調子だから。俺に限った話じゃない」
俺はそう適当にあしらってご要望のテキストをリュックから取り出すとそのまま教室を出た。
出た先には壁にもたれかかる彼女の姿がある。
『あ、来た』
こう見ると、確かに可愛い。それは認める。
でも俺はこいつを女として見たことはない。というかあっちだって願い下げだろう。
「はい。あ、せっかくなら授業の内容書き込んどいてよ」
『え〜気が向いたらねーん』
「使えないな」
『うわひどっ。そういうこと言うんだ女の子に』
「賀喜が女の子?信じらんないね‼︎」
『はぁ?もういいし。一時間目終わったら返しにくるから教室にいてね』
彼女はそのまま小走りで自分の教室へと戻って行った。
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「○○、数学分かったかあれ笑」
「あんなもん誰もわかんねぇよ…て、あ」
一時間目の数学が終わり、駄弁りながら教室を出るとすぐそこに賀喜がいた。
『遅い』
一緒に話していた友達も何かを悟ってか俺の元から離れていく。
「佐藤の授業延長しがちなんだよ。ほら早く返して」
『はい、どーもありがとうございました』
「はい、どーいたしまして〜」
パラっとページを捲ってみると、俺がしていなかった予習ページにしっかりと書き込みがされている。
気が向いたら…って言っていたくせに。ツンデレ…ってやつか。
俺は無事テキストを受け取り、教室に戻ろうとする。
しかし、賀喜に呼び止められた。
『○○‼︎今日さ、家行ってもいい?』
急だった。
何度も来たことはあるけれど高校生になってからは結構久しぶり。
「いいけど何の用?」
『ほら、漫画。最新刊出たから○○もう買ってるかな〜って』
「またかお前そうやって人の物を自分のもののようにして……」
『いいでしょ!じゃあね!バイバイ!』
そうとだけ言って逃げるように去っていく賀喜。
正直了承したものの、
蓮加に申し訳ない気持ちがある。
流石の俺でも、幼馴染を家に入れること、しかも異性はよくないことだって分かってる。
でも今回ばかりは…いっか…
───────賀喜だし。
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『お邪魔しまーす』
「あんま汚すなよ」
『何よ。私が汚い物みたいに』
放課後。学校から帰るなり常に喧嘩腰な賀喜が家にやってきた。
玄関で綺麗に靴を並べている姿を見ながら、育ちはいいんだよなぁなんて考える。
「漫画貸すから早めに帰れよな」
『そんなすぐに追い払わなくてもいいじゃん。ゆっくりさせてよ』
「そういうわけにもいかないだろ」
俺よりも先に階段を我が物顔で上る賀喜。
慣れた動きで迷わず俺の部屋の扉を開けると昔となんら変わっていない部屋のありように目をキラキラさせていた。
『変わってないね。あ、Wiiだ。あっ、3DSもあるじゃん‼︎』
「そういえば圭介と3人でよく通信してたよな。懐かしい笑」
『…懐かしいね…』
どこか感慨にふける賀喜。
その瞳は昔から変わっていない。
「賀喜も変わってないよな昔から」
賀喜は顔をムッとさせる。
『どういうことよ』
「子供っぽい」
『私も、もう子供じゃないよ』
その表情は
確かに、今までの賀喜とは違った。思わずそのいつもとは違う、憂いを帯びた雰囲気にドキッとしてしまう。
『○○さ、彼女とかいるの?』
「えっ?」
突然だった。気を抜いていた。
俺には蓮加がいる。
蓮加は絶対に彼女である。
『ん、あ、好きな人…?とか』
こいつ、俺が彼女いないって踏んで質問を変えたのか?
馬鹿にされてるのかな。舐めるな。
「いるよ、彼女」
蓮加のことは言わないでも賀喜に勘違いしてほしくはなくて彼女の存在を明らかにした。
『…えっ‼︎彼女いるの⁉︎』
「え、うん笑」
『え、誰?さくらちゃんとか?』
「違うよ笑他校他校」
『…他校…か…』
賀喜、お前とは縁のない人間だ。
『…まぁ、おめでとう。なんで言ってくれなかったの』
「誰にも言ってない。圭介にも言ってない」
『そんなに隠さなきゃいけないことなの?』
「まぁ…ね」
彼女は岩本商事のお嬢様、だなんて迂闊に言えることか。
彼女の立場がどうなるやら。
『そ、そうなんだ…信じらんないや、○○に彼女だなんて』
「嘘じゃないからな。事情があって多くは話せないけど」
『じゃあ、もしかして…私早く帰ったほうがいい?その、彼女さんのためにも』
「俺の罪悪感のゲージが溜まる前に帰ったほうがいいな」
『はいはい失礼しましたぁ。だから私をあんなに邪魔者扱いしてきたんだな、理解理解』
「別にそんなつもりはねぇよ笑」
彼女はものすごい勢いで階段を駆け降りていく。女子を家に入れることは気が引けるとはいえ、別にそこまで気にしないでもいいのに。
『じゃあねっ‼︎明日返す‼︎』
「当たり前だよ。気をつけて帰れよ」
走り去っていく賀喜を見送ると、静まり返った家だけが残った。
弟はまだ部活のようで帰ってくる気配がない。
1人きり…か…
蓮加、元気かな。
蓮加…蓮加…蓮加…
こうやってひたすらに考えていればテレパシーが繋がってこの家にやって来ることなんてあるわけ…………
“ピーンポーン”
突然、インターホンが鳴った。
えっ
もしや蓮加っ⁉︎
「…は、はい」
『ちょ、ちょっと私だけど‼︎』
カメラを見ると
何やら慌て気味の賀喜。
なんだ、賀喜か。
忘れ物でもしたのか?
「なんだよ、どうした賀喜」
『帰る途中にね○○のこと探してる子がいてさ』
「え?」
インターホンの画面に映る、賀喜の隣にいる人物。
『蓮加ちゃん…って子なんだけど』
「…えっ?」
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これは、願いが叶ったと言えるのか?
賀喜と蓮加と3人でリビングを囲むという奇妙な光景。
別に、望んでない。
けど、近からず遠からず。
「はい、お茶」
『ありがと○○〜』
差し出された2つのお茶に真っ先に飛びつく賀喜に対して
蓮加は一切それに手を伸ばさず、一点を見つめるばかりだった。
「蓮加、どうした?てか、どうやってこの家の場所が分かったんだ?」
賀喜の存在お構いなしで蓮加に問いかける。
『その、杉並区って聞いてたから。あと高校に近いって分かってたからそれを頼りに…』
『あ、だから私にも○○の家の場所を聞いたんだ??』
なるほど。
え、すごい。けど怖い。もはや特定班じゃん。
しかし、何のためにこの家に来たんだ?
「何かあったのか?話聞くよ」
俺は蓮加と視線を合わせる。
しかし蓮加は口を開こうとしない。
てか待って
賀喜がいるから喋れないのかな。
『え、ちょっと待って。○○…と、蓮加…ちゃん?ってどういう関係なの』
この奇妙な空間に賀喜も明らかに違和感を覚えたのか、そう口を開いた。
流石に賀喜も俺らの関係が気になる様子。
これは言わなきゃいけない流れだな。
「蓮加は俺の彼女だよ」
そうさりげなく紹介すると、賀喜の表情は突然に強張った。
『え、あ、そうなの…』
蓮加の表情は変わらない。
『そ、そんなことなら早く言ってよ‼︎』
『じゃあ、私帰るね!邪魔したくないし!』
賀喜は遠慮してか、流れるようにして家を去っていった。
あっという間に、家には蓮加と俺だけが残る。
「賀喜ごめん!気をつけて帰れよ〜」
玄関先でそう投げかけた後、玄関の扉をゆっくりと閉めると同時に
蓮加が後ろからそっと俺の元へと近寄り
そのままふわっと抱きついてきた。
「お…ど、どした?」
『○○…私から離れていったりしない…?』
珍しい。こんな蓮加。自分から甘えたがることなんてそうないのに。
「しないよ、しない。」
俺はそんな蓮加の背中に手を回して頭をポンポンと撫でながら胸の中に収める。
「なんかあったんだな、蓮加」
『……』
「話したくないの?」
『……』
「わがままだなぁ蓮加は」
俺は黙りこく蓮加を抱っこして、そのままリビングのソファへと向かった。そしてそっと座らせる。
「俺は、いつでも蓮加の味方だから。頼りにしろって言ったでしょ?」
俺はほろっと照れ隠しでそんなことを隣で呟く。
それでも彼女から、返事はない。
やっぱりおかしい。
俺はそっと彼女に視線を移す。
すると彼女はうっすらと瞳に涙を浮かべていて
ゆっくりと頬に雫が垂れていた。
「れ、蓮加?マジで、本当に大丈夫?」
『……』
「蓮加……」
『○○のこと、けなされた』
「は?」
『うちの親が…○○と付き合うのは許さないって…』
『だから…家出した』
ことの顛末としては、蓮加の親が俺のことをけなしたために、ムカついた蓮加は家出してしまった…というわけか。
なんだよ、そんなことかよ。
そんなの、分かってたことだ。俺だってこんな可愛い娘がどこの誰かも知らない男と付き合ってるなんて知ったら別れろと言うに決まっている。
だけど、俺はあっち側の気持ちを察することができても蓮加のことを手放したくなかった。
それくらい、意志は強い。
「蓮加、俺は大丈夫だから」
『…でもぉ…』
「俺はどんなにけなされても、蓮加に何もない限りはへっちゃらだから。何言われても余裕余裕」
俺は蓮加の肩に手を置いて諭すようにそう言った。蓮加の涙はおさまりつつあった。
「…ん〜お茶飲もう‼︎お茶飲んで落ち着こ!な!」
蓮加をソファに座らせて冷蔵庫からお茶を取り出す。
そうして蓮加から背中を向けていたところ、
蓮加はまた、俺の後ろから抱きついてきた。
「蓮加…」
『あったかい。○○の背中』
「随分と寂しがりやだな」
『何日も帰ってないもん。ちゃんと食べてない』
「は!?」
俺は思わず彼女と向き合って肩を掴んだ。
「おま、親に連絡は…?」
『…一応してある。しばらく友達の家に泊まるって』
「実際どこにいたんだよ」
『ネットカフェ。そこから学校だけ行ってた』
「もう、蓮加ぁ………」
俺は思わず正面から抱きしめてしまう。
「心配させんな…」
『そんなに心配?』
「バカ、バカ。本当にバカだよお前は」
『ねぇうるさいって笑苦しい…』
「はぁ…でもちゃんと帰らなきゃ。親も心配しちゃうから」
『…分かった』
『でも』
蓮加は顔を上げる。
『今日1日は、泊めて?』
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「まさかお兄ちゃんが…彼女を…」
「いいから食えよバカ」
いつもの食卓。7:15、四角いダイニングテーブルに俺、弟、母の他に…
なんか可愛い女の子1名。
出張で家を空けている父の席に行儀よく座っている。
『蓮加ちゃん、いっぱい食べてねっ!今日はあんまり用意が出来なかったけど』
今日の食卓は、唐揚げらしい。
そして、蓮加はそれを奇妙な瞳で見つめている。
『…これ、何ですか…?』
『え?』
まぁ、母よ。そうもなるよな。でもこの子は筋金入りの箱入り娘なんだ。そう無理もない。
「唐揚げ。食べたことないの?」
『…ない。てか、揚げ物は天ぷらくらいしか食べさせてもらえなかった』
…マジかよ。
パン粉という衣の存在を知らずに生きてきただと?
「1つ食べてみな。不味かったから俺が食うから」
『…いただきます』
一口口に入れる蓮加。
あぁ、この顔どっかで見たことあるわぁ。
もう目がキラッキラしてるよ。
マックの時とおんなじ目をしてやがるよ。
『うんっまぁ‼︎‼︎‼︎‼︎』
にこやかに見つめる母の視線が何よりも暖かかった。
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部屋に布団をひく。そしてベッドの上にお人形のように座り込む蓮加。
そして扉の隙間から覗き込んでくる弟。
「おい△△。入ってくんな」
『いいじゃん別に。おいでよ』
「おいもう弟小6だぞ。犯罪者になりたくなきゃ蓮加から離れろ」
『ふふ、ばいばーい笑』
弟をさっさと追い出して母の古い寝巻きを身につけた蓮加。なんか申し訳ないくらい似合ってない。
「もう寝るよ。明日も学校だし」
『うん、私も早く帰る』
敷いた布団に俺が寝転び、ベッドの上に蓮加が転がる。
『すご、全身から○○の匂いする』
「何その変態チックな感想」
『ふふ、幸せなの笑』
何その間接的な褒め。照れるだろうが。
とは思いつつも何とか正気を保って電気を消す。
すっかり暗くなった部屋の中で柔らかい蓮加の声が聞こえてきた。
『…ねぇ手繋ご』
ベッドから伸びる暗闇でもわかるような白い腕。
俺はそっとその指先を掴んだ。
思っていたよりも冷たかった。
「今日はやけに甘えたがりだな」
そう言うと、蓮加が俺の指を握る力を強くさせた。
『…だって、ずっと1人だったんだもん』
そうか、蓮加はここ2日くらい1人でネットカフェにいたのか。そりゃ寂しいに決まってるよな。
「いつも偉そうな蓮加とは違うな」
『…何…悪い…?』
「ううん、可愛いよ」
蓮加からふっと笑う声が聞こえた。
『ねぇ』
「ん?」
蓮加は改めてベッドの上で寝返りをうつ。そして俺の方をじっと見た。
『…もっとくっついてもいい?』
そのじっとりとした柔らかな声質が鼓膜をなぞった。
今までのどんな時間よりもドキドキしている。
「いいよ、おいで」
『やった』
蓮加はそう言うとベッドから降りてそっと、ベッド横の床に敷いてある俺が入っている布団に潜り込んできた。
好きで好きで仕方ない彼女の顔がすぐそばにある。
俺は我慢ができなくなった。
「蓮加…」
意を決して、彼女の唇にキスをする。
初めてのキスだった。柔らかくて、しっとりとした感触が伝わる。
蓮加も俺を拒んだりはしなかった。
そのまま、俺たちは少しずつ、夜にまどろんでいく。
───────蓮加
───────○○
─────────大好、きだよ…
─────────私も、大好きっ…だよっ
俺は箱入り娘で
唐揚げもマックも
カラオケもゲーセンの存在すら知らないような女の子に
初めてを奪われた。
───────────────────
───────────────────
───────────────────
「じゃあ学校行ってくるわ」
『お邪魔しました』
次の日の朝、俺たちは同じ家の玄関の扉をくぐる。
玄関からは母親が俺たちを見つめていた。
『蓮加ちゃん、また来てね』
母親特有の包み込むような笑顔に蓮加も合わせるようにして会釈すると、家の目の前にいる黒くて長い車に乗り込んだ。そして瞬く間に発進していく。
「じゃあ俺も行くわ………」
『○○』
母親が自転車に跨いだ俺のことを引き止める。
『孫は勘弁だからね笑』
「……」
俺は、昨日の夜のことが母に聞こえていたという事実と蓮加の柔らかい体、嬌声を思い出して赤面しながら家を飛び出した。
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いつものように学校まで自転車を漕いでいると、
『よっ』
といつのまにか隣に並走する
賀喜の姿があった。
「なんだ賀喜か。おはよ」
『おはよ。これ、昨日の漫画ね。ちょ〜面白かった‼︎』
「あ〜うん、面白かったな」
『特にさ………』
賀喜は隣でベラベラと喋っているが
俺は昨日のことが忘れられなくて話が全く入ってこない。
蓮加の白い肌が今も目の前にはっきりと見えるようだ。
親に声が聞こえてしまっていたことは誤算だったがそんなことどうでもよく思えるくらい浸っている自分がいる。
『でさ……って、○○聞いてる?』
「え、あ、ん?聞いてるよ、聞いてる」
『…絶対聞いてないじゃん』
「別に話してって頼んでないだろ」
『は…何それ。』
完全に不貞腐れた様子の賀喜。少し言いすぎたかも。
その事実に気がついた俺はなんとかして話題を変えようと、彼女のリュックサックに垂れ下がっていたキャラクターのキーホルダーに焦点を当てた。
「…あ、そのキーホルダー‼︎そのキャラクター蓮加も好きなんだよ」
何とかして賀喜の機嫌を取り戻そうとした。しかし、賀喜の表情は不機嫌なままで、事態は思ってもみない方向へ進む。
『蓮加…ちゃん、ね…』
「か、賀喜?」
『ごめん、用事思い出した。先行くね』
な、なんなんだ。
いつもとは違う、余裕のなさそうな賀喜の姿。
違和感を覚えずにはいられない。
「おい‼︎」
呼び止めたのも束の間、彼女は立ち漕ぎをして俺から逃げるように去っていった。
たなびくスカートが遠ざかっていくのを前にして
俺は何が何だか分からなくて
どうしようもなくその姿を見つめることしかできなかった。
───────to be continued