『マイノリティ・リポート』 リバタリアンの映画評 #6

テクノロジーと政府権力

人工知能(AI)や生体認証など新しいテクノロジーが登場すると、市民生活に対する脅威として警戒する声が上がります。けれども問題は技術そのものではありません。テクノロジーが社会にとって脅威となるのは、政府権力と結びついたときです。傑作『マイノリティ・リポート』(スティーヴン・スピルバーグ監督)は、その真実を描き出します。

近未来の米国。首都ワシントン市では凶悪犯罪を防ぐため、ある方法を導入し、大きな成果をあげます。予知能力者「プリコグ」によって未来に起こる犯罪を事前に察知し、犯人となる人物を捕まえてしまうのです。ジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は犯罪予防局のチーフとして活躍していましたが、ある日、自分が36時間以内に見ず知らずの他人を殺害すると予知され、一転して追われる立場になります。

ジョンは追う立場にあったとき、司法省調査官から「法を犯していない者を逮捕するのは人権的に問題だ」とまっとうな批判を受けても、聞く耳を持ちません。幼い息子を誘拐された過去があり、犯罪者に憎しみを燃やすからです。しかし追われる立場になったとき、犯罪の事実がないのに逮捕される制度の危うさを思い知ることになります。

未来のワシントンでは網膜認証の情報を市が把握し、電車に乗ったり店に入ったりするたびに、居場所が当局に筒抜けです。このため追われるジョンは闇医者に手術を頼み、眼球を他人のものと取り替える破目になります。もし情報が政府に知られないよう保護されていれば、もっと楽に逃げられたでしょう。

最近、国内外の警察でAIを使った犯罪予測の試みが広がり、まるで『マイノリティ・リポート』の世界だと話題になっています。テクノロジーがどんなに進歩しても、それを使うのは不完全な人間であることを忘れてはならないでしょう。
(Netflix)


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