危機は市場が解決する
仮想通貨ビットコインの仕様変更をめぐる動きは、事前に「分裂危機」と騒がれましたが、大きな混乱なく終わったようです。メディアでは早くも、11月とされる「次の危機」に関心を向けていますが、今回の結果が示した重要な事実への言及は見当たりません。それは「政府が管理しなくても、市場の危機は市場が解決する」という事実です。
もし政府・中央銀行が管理する法定通貨の円で、今回の分裂騒動に匹敵するような問題が起こった場合、どうなるかは容易に想像できます。政府は緊急対策本部を立ち上げ、有識者を大勢集めた会議を開き、税金を使ったさまざまな「対策」を講じるでしょう。
ビットコインは政府の管理下にないため、今回こうした「対策」は何もありませんでした。それを不安に感じる人もいたかもしれません。しかし、結果は見てのとおりです。7月23日には仕様変更が前倒しで実施され、8月1日には新通貨「ビットコインキャッシュ」が生まれビットコインは分裂しましたが、天は落ちてきませんでした。
思い出すのは、「2000年問題」の騒動です。それまで西暦の下2ケタしか記入していなかったコンピューター・システムが2000年に一斉に機能不全となり、大混乱に陥りかねないといわれたのです。各国政府の指導で世界中でプログラムの改修が行われ、中小企業には大きな負担になりました。
米国ではグリーンスパン議長率いる連邦準備理事会(FRB)が1999年末にかけ、通貨供給量を大幅に増やしました。これが当時の情報技術(IT)株バブルに油を注いだといわれます。
しかし結局、何も起きませんでした。後になって「そもそも重大な危険は存在しなかった」などといわれましたが、無駄に使われたお金は返ってきません。
それにひきかえ、今回のビットコイン分裂問題では、政府のお節介なしに、関係者だけの努力で市場の安定を保ちました。市場のトラブルには政府が対処するのが当然という通念を揺さぶる、画期的な出来事です。
歴史をさかのぼればわかるように、もともと金融市場は、政府に監督されることなく、自浄能力を発揮して自律的に発展しました。21世紀の仮想通貨は、市場が本来の姿に立ち返る先導役になるかもしれません。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGD02H0H_S7A800C1MM0000/