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蝶のように舞えない父親

もう三十分、鉄棒の前で妻と四歳息子が我慢比べをしている。

「もういいよ」
「一回だけ。支えててあげるから」
「できないもん」
「絶対できる」

保育園で前回りが出来なかったという息子を案じて公園へ。必要なのは、やれば出来るという自信だけ。ほら、と妻が見本を見せる。二度、三度。それでも息子は動かない。

紋白蝶が二匹、顛末を見守るようにひらひらと舞っている。

よしっ。
私は酸素の鼻カニューレを外し、鉄棒に向かった。

「大丈夫?」

妻の声に笑顔で応え、鉄棒を握る。
瞬間、無理だと悟った。
ジャンプして鉄棒の上までいくことすら危うい。そのまま固まった。
息子が「無理しないで」と労ってくる。「できなくてもいいんだよ」と。
おいおい。

何事もなかったかのようにそのままベンチに引き下がった。
この間わずか10秒。練習は私の謎行動でお開きとなった。

公園を出る際、振り返ると蝶もいなくなっていた。


[今日の十七音]

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鉄棒の練習に添ふ蝶二頭

(てつぼうのれんしゅうにそうちょうにとう)
【季語(春): 蝶(てふ)】
 ※蝶の数え方って「羽」でも「匹」でもなく「頭」なんですって!

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