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『千年夫婦』
夕餉の食卓でパパがふと漏らした。
「一年間、シンと一緒に走り回れる体になれたら、寿命三年と引き換えてもいいな」
肺を壊し在宅酸素で生活するパパのささやかな夢を口にしたのだが、後半の条件が不用意だった。
「やめてよ、寂しいじゃない」
真に受けたママが口をとがらせる。
「もっと長生きしてほしいもん、私」
「いや、まあ……」
パパはばつの悪そうな、同時に嬉しそうな顔をして頭をかいた。
「待って。いいものがあるよ」
五歳の息子シンがはっと何かを思い出し、保育園の鞄を持ち出す。
「見て」と取り出す、千歳飴袋。
園で手作りしたらしい。
「この中にね……」
逆さにすると飴が四つ転がり落ちた。
「一個ずつあげる。舐めると千年生きられるんだって」
二人はきょとんとしていたが、「千歳」の意味に気づいて互いに頷いた。
「僕は二個食べるから二千歳だよ」
不穏な空気はどこへやら。
パパがおどける。
「ということでママ、あと千年よろしく」
「それはそれで……」
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拾年の卓に転がる千歳飴
(じゅうねんのたくにころがるちとせあめ)
季語(初冬): 七五三、七五三祝(しめいはひ)、千歳飴
※現在、小説風の日記が書けないかと試行錯誤中です。