Belfast Photo Festival -2-
フェスティバル2日目は、キュレーター、編集者、ギャラリスト等によるポートフォリオ・レビューが開催された。私はアイリッシュアクセントの英語の聞き取りに不安があったので、ベルファスト在住のアーティスト、増山士郎さんに通訳をお願いした。しかし実際レビューになってみると、参加者のうちアイルランド出身の作家は一人だけで、他はドイツ、イングランド、アメリカ、アルゼンチンなど、世界各国からやってきた人たちだった。なので英語の聞き取りは問題なく、増山さんもレビュアーとして作品について意見を言っていただいた。
アルゼンチン出身、現在はフランスはじめヨーロッパで活躍するアーティストPaula Luttringer。1976–1983のアルゼンチン軍政下、秘密警察に誘拐、監禁された体験を元に制作している。多重露光などを駆使した美しいプリントとその裏にある壮絶な記憶。彼女の作品もそうだが、ドキュメンタリー作品でありながら、いわゆる客観的でストレートな記録の体裁ではなく、一歩踏み込み、アーティストによる積極的な解釈と、画像加工など必要なテクニックを施した作品が目立った。こうした新たなドキュメンタリー作品の傾向は昨今顕著で、GUP MagazineのERIK VROONS、V&AのCATHERINE TROIANOの両者ともレクチャーで言及していた。
レビュー会場の横ではパネルディスカッションが行われていた。登壇者はイギリスガーディアン紙、オブザーバー紙などで執筆する批評家 Sean O’Hagan、ニューヨークのI-D Magazine編集者 Michael Famighetti、ロンドンViceマガジン編集長 Ellis Jones。Sean O’Hagan氏は野村浩のDoppelopmentを紹介してくれた。じっくり聞きたかったが、2日後に迫った自分の発表の準備のためホテルに戻り作業。
フェスティバル3日目は、あらかじめお願いしていた増山士郎さんがボードメンバーを務めるアーティストスタジオを訪問。以前あったテレビ局の"スタジオ"をそのままアーティストのスタジオとして使っているので、小さな防音室から巨大な撮影スタジオまで備えている。様々な分野のアーティストの作品制作に応えることができそうだ。増山さんは自他共に認める、ベルファスト在住唯一の日本人アーティストなのだが、この日は日本から鈴木のぞみさんと太田祐司さんの2名が滞在制作中だった。
フェスティバル4日目、いよいよ私のプレゼンテーション。「On My Mind」というタイトル通り、主催者からのマイケルからは、内容は日本の写真に関してならなんでも良いと言われていたが、今回のフェスティバルのテーマ「Truth and Lies」にちなんだ内容でスライドを組んだ。"Photography"という言葉が、日本では紆余曲折を経て「写真」と翻訳されたことが、その後の日本における写真の在り方、特に写真の真実性において少なからず影響を与えてきたことを、土門拳らの活動と絡め紹介、その上で野村浩の一連の作品に繋げて説明した。
特にヨーロッパでの作品理解には日本よりもコンテキストや歴史が重要視される。野村浩の活動が、日本の写真史の文脈でどういう位置にあるのかを踏まえつつ、その独自性をアピールするというプレゼン構成は、観客や関係者からも好評だった。今回の最大の仕事が無事終わり、ベルファスト滞在最終日は少しだけ市内を散歩し、学生時代を過ごしたロンドンへ飛んだ。