デンジャー・ゾーン(2021年/アメリカ) 感想 先進的な設定で冷戦時代の延長の話をやっちゃった映画。
ネットフリックスオリジナル映画。
色々な要素が詰め込まれ過ぎだと思うのよ。
〘デンジャー・ゾーン〙
(OUTSIDE THE WIRE)
画像引用元:NETFLIX https://www.netflix.com/
以下、一部にネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
味方もろとも爆撃したドローン操縦士とアンドロイド兵士が、旧ソ時代の核の残滓を巡る陰謀に立ち向かう内に様子がおかしくなる。
■内容
近い未来を想定したSF戦争映画。
世界観としては、現代戦にロボット兵士が要素として加わったような、地続きな雰囲気で構成されており、主要キャラのアンドロイドであるリオ大尉(アンソニー・マッキー)が最先端オブ最先端の超科学技術により生み出されたアンドロイド将校、という点が最大の特徴でした。
そういった世界観背景が存在する為、無機質なロボット兵とリオ中尉の対比であったり、感情の有無に関するディスカッション未満のやりとりだったり、いわゆるAIいじり要素もそれなりに見られるライトな哲学性を含んでいますが、SF全開でそこを掘り下げていくような映画ではありませんでした。
終盤の展開に関わる要素でもあるんですが、あくまでおかず程度の要素。
バトルアクションでアンドロイド兵士らしい活躍が多く描かれます。ターミネーター的なベクトルの見せ方も多く、この点はSFアクション映画らしさを意識しつつ、戦場のリアリティを良い塩梅で組み合わせて上手く描き出していると思いました。
これらのSF要素が、旧ソ時代の核兵器の残滓であったり、ロシアとウクライナという独立後の2国家の緊張関係、米ソから連なる米露の水面下の対立など、極めて旧時代的な要素が物語に大々的に絡んできます。
アンドロイド兵士と味方を巻き込み爆撃を敢行した主人公が繰り広げるバディムービーの要素もあるにはあるんですが、後半以降の展開やその見せ方の問題もあってか、あまり盛り上がりが無い印象です。
■感想(ネタバレあり)
情報はインスタントに大量に与えて大量に消費させ、脳の瞬間的な知的興奮を大量の情報で誘発するような、異常な詰め込まれ方をしている映画という印象でした。良くも悪くも現代映画っぽいです。
まず主人公トーマス・ハープ中尉(ダムソン・イドリス)。主にこのハープ中尉の成長譚が物語の主軸にあるのですが、率直に言ってその成長や変化の過程が雑です。
冒頭でハープ中尉は、上官の制止を無視して友軍もろともドローン爆撃を敢行しました。
2人を犠牲に38人の味方を救う、その判断と自らの正義について、リオ大尉と一緒に戦う中で見出す物語なのかと言えばそういうわけでも無く、後半ではむしろリオ大尉がその判断を肯定する慰めのような発言すらあり、気がつけばリオ大尉は立派なソルジャーになっているような、唐突で道筋の見えない覚醒を成し遂げるため、ハープ中尉に対して困難を乗り越えたヒーロー像を見出すのが本当に難しく感じます。
そしてリオ大尉。アンドロイド将校で人間のハープ中尉の上官であるキャラクター性は抜群の個性を見せつけています。
また最初の方では、ハープ中尉の友軍もろとも爆殺するという行動に関して人間味の無いルースレス極まりない行動だよね的な事を冗談っぽくも本質を突くように発言していたり、その一方で民兵との衝突を対話で解決したり、やたらとジョークを連発したり、人間味を強調するかのようなキャラクター付けが成されていました。
つまり、人間的なアンドロイドと人間味の無い冷酷なドローン操縦士という二者対比をやりたかったんだと思うんですが、この路線を、中盤以降では完全に捨て去るのが勿体無さ過ぎると思うんですよ。
後半のリオ大尉、合理的な判断から米国そのものが争いの火種であるとして、最初から旧ソ連時代の核兵器を手中に収めアメリカを攻撃しようと画策していたことが判明。
こうなってくるともう典型的な機械としてのAIといった描かれ方でしか無く、ハープ中尉の変化や成長(これも前述のように雑なんですが)に対応する要素でも無く、ただただ意外性を意識しただけのような薄さを感じました。
劇中でリオ大尉自らが自分がアンドロイドである事を強調しまくりますが、だからこそそこに垣間見える人間性が面白く、そこを掘り下げるような路線に行ってほしかったです。
そんな二人が追うのが旧ソ連の核兵器を追い求める革命戦士ヴィクトル・コバル。
旧ソの遺産をテロリストが狙っているのでそれを阻止するというストーリーライン、個人的には最もこの映画でやるべきでは無い内容だと思います。
それはこれまであまりにも多く作られた物語の筋であって、そこにアンドロイド将校だとかそういうものを組み合わせたからと言って新しさを感じるわけでは無いと僕は思ってます。
物凄く先進的で近未来を感じるような、転がせば転がすほど面白くなりそうな「上司がアンドロイド」という要素を用いて描いた物語で、冷戦の過去を未だトラウマのように引きずるアメリカの人々を意識させるようなこの内容。あまりにもミスマッチ過ぎませんか。
また、その過程で孤児院が登場し「この孤児を生み出したのはアメリカである」といった言葉が出てきたり、リオ大尉の最後の判断も含め、アメリカの軍拡と戦争ビジネスに対する大々的な批判が込められた内容の映画だったりします。
それ自体はとても今のアメリカの作る作品らしい自己批判精神に溢れたものだと思いますし、問題提起としてとても良い見せ方だとは思うんですが、何かずれている気もするんですよね。
それを踏まえた先に在る展開が、ハープ中尉が暴走アンドロイドのような扱いを受けるリオ大尉を撃退し、核の発射を阻止し、蛮勇さマシマシなラストカットで爽快に決めるという、USAコール不可避なクライマックスを迎えるのは何とも言えない気持ちになりました。
そんなわけで、やたらと見せたい要素が多くそれらひとつひとつがまとまりに欠けるような印象の映画ですが、こと戦闘シーンにおいては個人的には物凄く評価が高い映画です。
本当にベタなかっこよさを突き詰めたような演出が多く、ロボット兵ガンプ達の、無機質で無能っぽい描かれ方も特有の可愛さをしっかり表現していますし、なにより迫力があります。
ドローン爆撃や巻き込まれる民間人の描き方はリアルさを追求する一方、ロボット兵同士の戦闘シーンやリオ大尉の体術を組み合わせたマーシャルアーツ全開な戦闘演出は外連味たっぷりで、画全体が活き活きしていると思います。地味ながら恐怖を煽る戦場のリアリティとハイクオリティで描かれる近未来の戦場の交差が観ていて楽しいです。
それに翻弄されたり、勇気を振り絞って銃弾飛び交う戦地へ飛び込むハープ中尉の姿からはガッツリ緊張感が伝わりますし、とにかく戦闘アクションは素晴らしかったと思います。
■〆
個人評価:★★☆☆☆
ストーリーやキャラクター達の姿を追うよりもアクションシーンを目当てに観るべき映画なんじゃないかと思います。
そうなるとこの映画の個性的な設定の多くが死ぬような気もしますが、いかんせんミスマッチな部分やまとめきっていない要素が混在するタイプの映画なので、目で楽しむを重視するほうが楽しい映画という印象を受けました。
ではまた。
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