大事なのはプロセスで、アウトプットばかりに目を奪われてはいけない。
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエ イティブリーダシップ特論 第12回 大山 貴子 さん(2021年9月27日)
クリエイティブリーダシップ特論第12回の講師は、自然と社会とコミュニティの循環と再生を耕すデザインファーム、株式会社fog代表の大山 貴子さんです。
起業に至るまでの経緯から、現在取り組んでいること、その中で大切にしていることをお話しいただきましたが、身を置いた環境の中で感じた疑問を誤魔化さずにちゃんと考える、そしてその考えを行動に移す、ということを続けておられる方であることがよくわかりました。であるからこそ、若くして幅広く多様なことを実践し、多くの人々を巻き込みながら、それぞれが地に足のついた取り組みであると感じられるのでしょう。
居住されている地区でのブックポストやコンポストの設置といった身近なところから、まもなくオープンするレストラン、ショップ、ラボの3つの機能で循環型社会の実現を目指す東京の新しい拠点「élab(えらぼ)」などの取り組みをご紹介いただきましたが、その中から、島根県雲南市で実施された「うんなんローカルマニフェスト」を作成するプロジェクトについて。「うんなんローカルマニフェスト」は、これから雲南市で何か行動していく際に大切にしたい価値観を、10の言葉で表した行動指針で、今年7月に発表されたそうです。
ここに掲げられている10の言葉ですが、それだけを見ると、率直なところ、「一人一人の力が地域を支える」「自然の微細な変化に気づき、留まる力を持とう」「『思いやりのあるお節介焼きさん』であり続けよう」「ずっと協力しつづけてきた、これからも」とか、それはどの地域でもそうだろうし、地方全般にいえるあり方じゃないか、なんかすごく「ふつう」だなぁという印象です。あの地域の食の豊かさや、神話っぽいイメージを活かして(雲南には行ったことがないのですが奥出雲はかなり印象的な場所だったので)、なぜ個性的で印象に残りそうな言葉を使わなかったのかな、と思ったりもするのですが、おそらくその部分に、この日の講義の重要なエッセンスが示されていたのではないかと思います。
というのは、大事なのはこの10の言葉を紡ぎ出すプロセスであって、言葉のキャラがたっているかどうかは本質的な問題ではない。余所者目線だと、ついついそういった「らしさ」とか「刺さる言葉」を探しに(悪くすると作りに)いきがちなのですが、これは、雲南市で行動する際の行動指針であり、雲南で暮らす全ての人達で大切にしたい価値観なのだから、地元の人々が腹落ちする言葉でないと意味がありません。そのために大事なことは、その言葉を誰がどうやって発したかであって、結果としてそれが「ふつう」であったとしても、全然オッケーなわけです。
これらの言葉を見つけるために、fogの大垣さんが雲南市に短期移住し、地元の方々を深掘りするインタビューを行い、日常の会話を拾い上げ、そうした活動を続けるうちに、地元の方々が普段は言いたくてもなかなか言えないことを、ドッと話し出すようになったとのことです。外から、あるいは一部のリーダー層からの押し付けではなく、こうした真の関係者を巻き込んで作り上げていくプロセスが、大山さんが実践されている「共視(ともにめせんをつくる)デザイン」ということなのでしょう。
政策にせよビジネスにせよ、それっぽくて見栄えのいいものをアウトプットしたけど、肝心の当事者には響かず何も変わらない、なんてことを、自分も含め多くの社会人が繰り返してきているので、ほんと、他人事じゃなく行動を変えていかなければいけないと思います。
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