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なにこれやわらかい「正泰苑」 芝大門

焼き肉店に初めて行ったのはいつ頃ですか?おそらく、多くの人たちは子供のころ、家族と連れ立って行ったのがはじめてではないか。私がはじめて焼き肉店らしい焼き肉店に行ったのは、二十代半ばだった。何故かわからないが一族そろって「焼肉屋に行く」ということがなかったのだ。

以来、おなじみの焼き肉チェーン店などで経験を重ねていく。ねぎタン塩の焼き方だとか、ニンニクをホイルに入れて油と「ぐずぐずするやつ」だとか、チョレギサラダだとか。ひととおりの日本の焼き肉店の作法を「にわか」で習得することになったわけだが、時すでに遅し。なんとなく、焼き肉に行くということに気後れがするのだ。焼き肉って食べなれない人間にとっては難しいところがある。

それでも、評判の焼肉店と言われると心そぞろだ。焼き肉は食べなれないが、生ビールでく~っとやるのはこたえられない。そして、某叙々苑游玄亭を経て、港区の有名店のひとつ、正泰苑に予約を取ることができた。

正泰苑の特徴ってなんだろう。まずもって言えることは予約が取れないことではないか。カウンター席2名の予約をするのに何度電話すればよいのか、想像を絶する。そして、全く出口が見えない迷路に迷い込んだような気分になり、あきらめかけていたころにようやく成約(予約が)。期待に胸を膨らませながら店に向かった。

タン塩で生ビールをいただく。いつも家で食べているタン塩よりずっとうま味があるのだが、タン塩を口に含んでからビールで流し込むまでの時間は変わらない。まさに宝の持ち腐れ?馬子にも衣裳?いや、タン塩でビールを飲むときに何か特別の好いやり方があるのだろうか。これでは何とももったいないと言わざるを得ない。ハラミもカルビも同じだ。じゅーっと焼いてむしゃむしゃ噛んだら、すぐにビールで流し込んでしまう。

メニューとにらめっこしながら、このような店にはいろんな意味で何度も来れないと思い、思い切って特上カルビをオーダー。普段では考えられない散財も、肉のためなら気にしない気にしない。到着した厚切りの肉片をさっと焼いて口に運んだ。

特上カルビを噛もうとしたところ、筋が全くなく、ふにっと口の中で肉がちぎれた。ひと噛み二噛みすると、あっという間に肉がなくなってしまった。

これがとろけるということか!…肉なくなっちゃったよ!

ビールで流し込む前に、肉がなくなってしまうのである。もう一枚、もう一枚と同じように口に運んでも、口中で肉が消滅してしまう。これがほんとうにうまい肉というものなのか。軽いカルチャーショックにめまいがする。ダッテ、モウチョットカミシメタイ。

特上カルビはアッという間に無くなった。

私は肉よりビールのほうが良いので、後半はナムルやらサラダで生をあおっていた。店の人たちはきびきび生き生きと働いていて、いかにも活気のある人気店らしい風情がある。

赤身肉の、ちょっと固いやつをごりごりかみ切るのも良いが(ビールのつまみには最高)、高級焼き肉店で生中を飲み干すのも、なるほどよい感じだ。

あとは懐次第。

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