見出し画像

『#ヘスティア』上演台本と公演のこぼれ話(追記予定)

どうも、後関貴大です。
先日、2024年10月31日~11月4日に上演した、ゴセキカク vol.2『#ヘスティア』無事に全公演が終了しました。
ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました!

今回は遅ればせながらそんな『#ヘスティア』の上演台本の販売と、公演のこぼれ話を書いていこうと思います。
色々なことを思い出しながらなので、急に追記修正したりするかもです。ご了承ください。


①タイトルとコンセプト

以前のnoteでも書きましたが、まず初めに「親元を離れた妹がVTuberをやっていて、炎上してしまう」というのが最初に思いついた要素でした。

そもそもVTuberをモチーフにしようと思った経緯について。
初日のアフタートークゲストに登壇してくださったあまねまいさんが、僕の元職場の上司だったのですが、その元職場には僕の知る限りあと3人もVTuberをやっている人がいたので(!?)個人的に身近だったのが理由の一つ。
もう一つは「舞台上でVTuberがリアルタイムで動いてる小劇場演劇って新しくね!?」という安直な理由でした。
(と思ってたんですが、あとで調べたらゆうめいが既にやっていたらしいです。しかも初演が2019年。先見の明ありすぎませんか)

実家に寄生している兄と、家族との関係を絶った妹。
そしてその周りの人物の話にしようと決めたところで、「家族」と「推し」、そしてそれぞれの持つ「繋がり」が今作のテーマになりました。

企画意図
 近年、SNSなどの発達により誰でも簡単に情報や主張を発信できるようになりました。「1憶総メディア時代」などと言われており、インターネット上での個々の繋がりを生み出すことが以前よりも容易になったと感じています。
一方でその繋がりは歪であるとも感じています。承認欲求の暴走や、誤った情報の流布、ネット上での私刑など、目に余る光景を何度も見てきました。今作品では「VTuber(バーチャルYouTuber)」と呼ばれる、ある種の匿名性を帯びた配信者を軸に、歪な空間としてのインターネットに翻弄される人々の「繋がり」を描きたいと考えています。
 また、インターネットの匿名性の対称として、家族間の「繋がり」も今回描きたいテーマの一つです。私事なのですが妹が一人おり、彼女が現在どこに住んでいて、何を仕事にして生活しているのかを私は全く知りません。
 そしてこれまた私事ではあるのですが、この文書を書いている現在父親の肺がんが発覚しました。私はずっと父のことが嫌いで同じ血が通っていることに嫌気がさした時期もあるのですが、いざ死の可能性を目の前に突きつけられると、彼に対してどう思っていたのか自分の感情に答えが出せなくなりました。
 ネット上の他人は良いところも悪いところも嫌でも目に付くのに、血を分けた家族のことは何もわからない。今作品ではそんなチグハグなディスコミュニケーション会話劇を作りたいと考えています。

公演イメージ
 舞台は現代日本。就職に失敗し、フリーターとして働いていたがある日職場が無くなり実家に寄生している男と、親元から離れて誰にも明かさずVTuber活動をしている妹の二人が主人公です。
 親から正しく愛されずに育ってしまった二人と、その周りの人間達の簡単には解決しない葛藤や悩みを会話劇として描きます。問題を綺麗に解決させるということはせず、視点によって如何様にも解釈できるビターな終幕を目指しています。
 演出イメージとしてはインターネットという空間の特異性を活かして、会話としてのリアリティは優先しながらも、それに囚われず時間や空間を飛び越えた劇的な演出が出来ればと考えています。

『#ヘスティア』企画書 より

公演のイメージを関係者の方々に説明する際に使っていた企画書から抜粋しました。
わかってはいたけど、こうして企画書を改めて読み返すと初期イメージから随分変わった箇所もありますね。

***

僕自身は「推し」と呼べるような明確な存在がいないのであくまで想像の範疇を超えないのですが、個人的な所感として「推し活」に熱心な人ってある種の宗教を信仰しているのと感覚が似ているような気がしていて、タイトルもそういった要素から取りたいなと考えていました。
神様に祀り上げられた人間みたいな意味や、家族神話の否定みたいな意味も込めて。

「家族 神」などいくつかの検索ワードで浮上したのが「ヘスティア」。
ギリシャ神話のかまど(≒家庭)の女神でした。

ヘスティアーは、炉の神として常に家の中心に坐すため、そこから動くことが出来ないと信じられた。主な神話において他の神々が戦ったり窮地に陥ったりしていても彼女は、炉から離れることが出来ないという理由から介入することはなかった。そのため重要な神とされながら、神話には登場することが少ない。

ヘスティアー Wikipedia より

この文章を読んだときに"家庭に縛られている"という点が登場人物たちと共通すると思ったのと、ヘスティアをもじって「丙栖てぃあ」にしたらすっごいVTuberっぽい名前になったので、これだ!となり採用。
インターネット要素としてSNSにおけるハッシュタグを頭に付けて、タイトルを「#ヘスティア」としました。感想にタイトルを書いてもらえたらそれだけで検索しやすそうだし。
(と思ってたんですが、同名のアニメキャラがいたみたいで結構検索で埋もれちゃいました。リサーチ不足はよくないというわかりやすいお手本)

ここまでちょこちょこ「推し」や「インターネット」の話をしていたんですが、結果完成稿では推しの話は控えめになっています。平井さんのサブストーリーとして語られるくらい。
詳しい理由は後述しますが、両立が難しかった、というのがシンプルな理由になりそうです。ままならないもんですね。


②2年間かけて書いた初稿と、1ヶ月で書いた完成稿

そんなこんなで構想を考え始めた『#ヘスティア』。
構想から考えると実に二年を費やしていました。試しにパソコンに残っていた一番古い台本データを探してみると、最終更新日が2023年の4月8日。一年半ほど前でした。

登場人物の名前や設定も何度も変更しました。
覚えてる限りで特に完成稿から大きく変わったのは以下の通り。
公開するのも恥ずかしいような内容もいくつかあるんですが、まあ、ぶっちゃけ話ということで。

  • 環奈の炎上理由・・・裏アカや同棲バレは最初から考えていましたが、初稿まではそこにもう一つ「過去のイジメ」という要素がありました。学生時代、田中のことをイジメていたグループがあり、環奈もその中にいたという設定。それを掘り起こされて叩かれる、といった内容です。

  • 浅倉の設定・・・最初はもっと無機質な人間にしようと思ってました。それこそ「痛い」と言えるレベルには。出雲環奈という面白そうなコンテンツを見つけて暫く楽しんでいたのですが、飽きてしまったので最後に炎上させてもう一度楽しもうという頭のおかしい奴という設定でした。初稿を書いている途中で「流石にちょっとな……」と思い、設定変更。環奈のことを不器用ながらちゃんと大切にする人物になりました。

  • 田中の設定・・・前述の通り環奈にイジメられて一時期不登校になっていたという設定で、初稿では炎上を引き起こした原因の張本人にもなっていました。それと、悠太の元カノでした(!)。兄妹それぞれと形の違う確執があって、そこをどう乗り越えるかみたいなことを書きたかったんだと思います。
    初稿まではZoom会議のシーンもあって、そこで企業コラボ相手の丙栖てぃあと会話する中で正体が環奈だと知る一幕もあったり。

  • 父と母の設定・・・最初は母が既に故人という設定でした。優しかった母との思い出に縋る悠太、みたいな画を考えていたのですが、父と悠太だけだと家庭内の会話が全然発生しない(あっても建設的じゃない)のと、後関の実生活のあれこれがあって今の形に。ちなみに当時の母の役名は「真里弥」でした。流石にやりすぎ。

  • 上島の設定・・・この人が一番設定変わりまくりました。最初は田中の会社の上司で丙栖てぃあの熱狂的ファンだったり、環奈が昔泊めてもらっていた家の家主だったり。環奈と浅倉を自室に軟禁して包丁を取り出し「お話、しよっか!」なんて言ってる瞬間もありました。書いた当時はいける!と思ったんですが、今見返すと酷いもんですね。いてててて。居酒屋店主というのは一番最後に足された設定です。

  • 幻の9人目・・・登場人物は全部で8人(丙栖てぃあ除く)なんですが、最初期はもう一人増える予定でした。悠太の年上の幼馴染で心理カウンセラーをやっている女性であり、上島の婚約者という設定。母が故人という設定のときに外部の人間で出雲家の事情に介入できる人間として考えていましたが、父母の設定変更と同時期くらいにいつの間にか消滅。名前は気に入ってるので設定変えていつか使いたいな。

と、紆余曲折ありながら、自宅でパソコンとひたすらにらめっこしたり、近所の喫茶店に通っていたら会計のときにお店の方から「いつもありがとうございます」なんて言われるくらい常連になったり、世の脚本家って大変なんだなぁなんて思いながらちまちま書き進めていました。
前作「明けちまったな、夜。」の稽古中、本を書きながら稽古や他の作業をするのがあまりにも大変だったので、今回はどうにか書き上げたいという一心で稽古初日に初稿を持っていくことを目標にしていました。
時間が迫る中、ずっと脚本執筆にアドバイスをくれていた河村慎也や岡本セキユの提案で、24時間営業のスーパー銭湯に泊まり込んで執筆もしていました。ありがとう、新宿のテルマー湯。

泊まり込みの翌朝、初稿を書き終えてテンションのまま投稿したポスト。
このあと地獄を見ることをこのときの彼はまだ知らない。

③その他


【上演台本】

『#ヘスティア』フライヤー表面

初めましての方は初めまして。
そうでない方はお久しぶりです。
どうも、後関貴大です。

まさかもう一度、このトンデモネームの企画をやることになるとは思いませんでした。
でももしかしたら、僕が一番望んでいたのかもしれない。

今作『#ヘスティア』は家族とVTuberのお話です。

とっても私事で恐縮なのですが、今年父が亡くなりました。
最愛とは程遠い、憎たらしい父でした。

まあ、それでも。
こんなこと書くのも癪ではあるけれど。
この作品を、故・後関定之に捧げます。

皆さんもよかったら、ご自身の家族と照らし合わせて今作をご覧いただけたら幸いです。
どうか最後までお楽しみください。
ではでは。

『#ヘスティア』当日パンフレットのご挨拶 より


#ヘスティア
作 後関貴大

登場人物

出雲悠太(奥泉) 環奈の兄。フリーター。
出雲環奈/丙栖てぃあ(樋口双葉) 個人勢VTuber。

出雲博之(神野剛志) 悠太・環奈の父。
出雲絢子(佐瀬恭代) 悠太・環奈の母。

浅倉くりす(岡本セキユ) イラストレーター。環奈の同居人。
平井規邦(サラリーマン村松) 悠太の元同僚。丙栖てぃあの視聴者。
田中絵恋(一嶋琉衣) 悠太の元同僚。環奈の元同級生。
上島晃(河村慎也) 居酒屋店主。丙栖てぃあの視聴者。

⬇以下、上演台本のPDFと本編⬇

ここから先は

35,688字 / 1ファイル

¥ 500

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?