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九州島内完乗達成なるか!?② 平成筑豊鉄道・JR後藤寺線
西にある九州は日没が遅く、夜明けも遅い。6時半にホテルを出て、博多駅へ向かう。今日は北九州の近辺を文字通りぐるぐる廻る。朝食は博多駅でうどんにしようという腹だったが、ホームに立ち食いスタンドはなく、仕方なく駅中のファミリーマートで冷やしごぼう天うどんを買う。コンビニも地域によって商品ラインナップが少し違う。それを探すのも面白い。
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7時ちょうど発の特急ソニック3号大分行きの自由席に乗る。途中の香椎、福間などで通勤客が乗り込み、窓際の席がほぼ埋まった。時間的に北九州市内への通勤に利用するのだろう。実際、折尾から車窓に工場群が広がり、下車する客も出てくる。
赤い若戸大橋が見え、都市高速道路が迫ってくると、小倉に到着。ここで進行方向が変わるのだが、小倉で降りる客が立ち上がるやいなや、慣れた手つきで残った客も席を立ち、座席の向きを入れ替える。それが終わるのを待っていたかのように、小倉からの客が乗り込んでくる。暗黙の連係プレーだ。発車してほどなく、さっき通った西小倉駅を通過して、日豊本線に入る。日豊本選に入って最初の停車駅である行橋で下車。高架駅で4番ホームまであるかと思いきや、その先端に切り欠きの5番線ホームがあり、そこに平成筑豊鉄道田川線のディーゼルカーが発車を待っていた。
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社内で「ちくまるキップ」という、1000円で乗降フリー、沿線の温泉施設も1箇所無料で入れるという破格のフリー切符を買う。乗客は5人ほど、高架線を地上に下りると、「令和コスタ行橋」という駅に停まる。名前からして最近できたのだろう。平静を冠した施設や駅名はそこそこあるが、令和はまだここだけではないだろうか。平成筑豊鉄道は駅が多く、頭に企業名を付けているところも多い。第三セクター鉄道として、少しでも乗降が期待できるならば駅をつくり、広告に使えるものは何でも使う経営努力がうかがえる。こうした小駅からも1人や2人、ちゃんと乗ってくるから、あなどれない。
交換駅に着くと、ホームの長さに対して複線区間が異様に長いことに気付く。これはかつての筑豊炭田で取れた石炭を運ぶ貨物列車が行き交った名残だ。山と水田の中を平坦に伸びる1本の線路道。崩れ落ちそうなぼろぼろの駅舎の崎山から山が迫ってくる。鉄橋で川を渡り、レンガ積みの短いトンネルを2つ抜けると源じいの森駅。ここには「ちくまるキップ」で入れる温泉施設があるそうだが、今日は休館とのこと。
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山を越えて、上伊田でJRの日田彦山線と合流し、しばらく走って田川伊田に到着。ここで半分くらいの乗客が降りる。ここから伊田線になるが、伊田線は驚いたことに複線である。これもかつての運炭線の名残で、複線だったにもかかわらず炭鉱の衰退で国鉄時代に廃線候補に挙がり、第三セクターとなったことが分かる。
金田に近付くと、後ろで車窓を眺めていた子どもが歓声を上げた。振り向くと糸田線のディーゼルカーが迫って、並走している。確かにこれはなかなかダイナミックな光景だ。金田では同じホームで乗り換えができ、直方へ向かう。伊田線は1時間に2本ほど運行されており、割と便利な路線だ。鉄橋を渡ると筑豊本線と並び、複々線のようになる。しかし直方の駅はJRの片隅に小さなホームがあるだけだった。折り返しの列車に乗るが、駅前に東筑軒という有名な駅弁屋があり、うどんの立ち食いスタンドと名物のかしわ飯弁当を売っている。この後、いいタイミングで昼食にありつけるか分からないので、少し早いがかしわ飯弁当を1個買うことにした。
折り返しは糸田線に直通する田川後藤寺行き。糸田線は川沿いに走りつつ、家と家の間を縫うように走る。田川線、伊田線、糸田線と、名前は似ているが、それぞれに個性がある。田川後藤寺駅は0・1番線がJR後藤寺線、3番線が平成筑豊鉄道の糸田線、3・4番線が日田彦山線というジャンクションだが、昼間の時間帯は窓口が閉まっている。それでも乗降客はそれなりにあり、中でも後藤寺線は1時間に1本ながら、博多方面へ乗り換え1回で行けることもあってか、発車を待っている乗客が多かった。
15分ほど待って、キハ40の単行がやってきた。昔ながらのボックスシートで、社内の天井には扇風機が回っている。少し早いが、ボックス席に乗れたので、直方駅で買ったかしわ飯を開ける。刻み海苔、錦糸卵、鶏肉の甘く煮たそぼろがストライプに、鶏出汁の染みたご飯の上に載っている。漬物は紅ショウガと粕漬けの2種類があり、どちらもそれぞれ、ご飯と一緒に食べると絶妙なアクセントとなる。おかずもなくシンプルなのに、その気になればいくらでも食べていられる飽きの来ない味だ。
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列車はしばらく進むと船尾に着く。駅が大きな砕石工場に囲まれていて、異世界に来たような印象だ。下鴨生では嘉麻市へ行くコミュニティバスが停まっていた。新飯塚では待つほどもなく直方行きの快速が接続。ほんの1時間ほど前に乗った伊田線の複線が並走すると、終点の直方に着いた。