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《散文》不要不急とされたもの

画面が拡張されるときのように
視界がいつもよりもひろく感じる
たとえば劇場や映画館で
なにか作品をみたあとに
さあ駅へ戻ろうかと
どこか喫茶店に入ろうかと
歩み始めるそのときに
あきらかな変化が起きている
ふだんの視界では必要なものしかみえていなくて
行きかう人の姿や
木々と空の距離感さえも曖昧であるのに
かちりとすべてが腑に落ちて
歩幅もすこし元気になって
心地よく自分といられるようになる
不要不急とみなされたものたちの
正体がはっきりとわかった気がして
いてもたってもいられなくなるほどに
観に行きたくなることの
読みたくなることの
心のあわただしさとか
荒ぶる気持ちのはげしさだとか
やっぱりそうなんだと納得できた
なにもしないとぼやけてしまう世界の解像度を
元通りきれいにしてくれた
それはわたしへと帰らせてくれるということ
幼い日の 大きくおおらかに遊んでいたままの
もとへとかえるということだ

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これは2年前くらいに書いて投稿し忘れていたものです。
自分で再読してみて当時の感覚を思い出しました。
今、私たちは不要不急とされていたものを愛せているでしょうか。
大切に思えていたら、思い出せていたら
とても素敵だなと思います。

古屋朋