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世界一しょぼいタイムスリップ|毎週ショートショートnote
近くのショッピングモールの「昭和にタイムスリップしよう!」という企画で、館内の一区画に昭和を意識した駄菓子屋が並んでいた。
――昭和って、タイムスリップって言葉が使われるほど昔なのか。
何だか昭和が江戸時代や明治時代と並んでしまったようで、変な気分になる。
「あったあった、こんなお菓子」
子供の頃、100円玉を握り締めて駄菓子屋に通った思い出が甦る。
消費税なんてふざけたものがなかった時代。
携帯電話もインターネットもなかった時代。
日本が元気だった時代。
ただ毎日が楽しかった時代。
あんな幸せな時代は、もう来ないのだろうか。
「はー、万引きボウズがまた来たよ、嫌だ嫌だ……」
店の奥から腰の曲がったお婆さんが歩いて来て、ぶつぶつ言いながら俺の後ろを通り過ぎた。客に向かって万引き坊主なんて失礼千万だが、きっと少しボケているんだろう。
店から出て、何となくポケットに手を入れると、何か入っている。
――あ!
買った覚えのないお菓子だ。店の中を回っている時、何かの拍子にポケットに入ってしまったんだろう。
俺はすぐに店に戻り、財布を出した。
「いらっしゃいませ」
出て来たのは、若い女性の店員だった。
――あれ? さっきのお婆さんは……。
「あの……これ1つください」
「はい、50円になります」
店から出て、買ったお菓子を眺める。
なるほど、タイムスリップしたのは、あのお婆さんだったのか。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「世界一しょぼいタイムスリップ」です。
はぁ……。
昔は良かった。
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