狼少女の真実《ショートショート》
「おまえ、嘘しかつかないな。」
もう何年も本当の事なんてしてない。
全部、嘘だ。
名前も、年齢も、学歴も、職業も、趣味も、特技も、交友関係も、この容姿だって何もかも嘘だった。
「いや、でも、私、人を殺した事はある。それだけは本当だから。」
これは本当。これだけが本当。唯一の真実。
「嘘つけ。本当の事なんて一つも言わないじゃないか。」
「...そうね。ごめん、ごめんね。...ははは。」
悪いなんてこれっぽっちも思ってない。謝ってるのも嘘。
「じゃあな。もう会うことは無いから。さよなら。」
みんな、私からそう言って去っていく。
ー もう会うことは無い ー
間違いじゃない。
もう会えないよね。
それもそう。
もう君は誰とも会えないからね。
「全部、嘘でごめんね。最期にひとつだけ本当の事したげる。」
私は立ち去ろうとする男の、背中に刃を突き刺した。
「うわぁ、お、おまえ!」
「だから言ったじゃない。人殺した事あるってのは本当だって。」
人間なんて全部消えてしまえばいい。
私は人間に信じてもらえなかったんだから。
信じてくれればお母さんは助かったかもしれないのに。
だから、なるべく早く、私のことを認識している全ての人間を、消してしまおうと決めた。
「サヨウナラ。」
私は、嘘をまとった狼少女。