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マスクマン・フロム・ザ・スカイ《ショートショート》

 白い使い捨てマスクをした男は空からやってきた。

 たしかに、その男はヒーローだった。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 ヒーローは遅れてやってくる。

 僕はいじめられているけど、まだヒーローはやって来ない。

 今日も帰りの門をくぐった瞬間に足を掛けてきた。

「うわっ!…い、痛い……。」

 転げて擦りむいてしまった。

 しかし、それだけならまだいい。
 いじめっ子は、いつの間にか取られてしまっていた水筒の中身を頭の上から掛けて来た。

 まだ冷たいお茶を頭の上から注がれる。

 何とも不快だ。

 しかし、嫌とは言えないし、それだけで終わらない事もわかっている。
 このあと僕は連れ回され、何かをおごらされたりするのだろう…。

 毎日のようにこんな憂鬱な生活をしている。

 周りの近しいクラスメイトは気付いていたはずだが、止めたら自分に向くかもしれない、と怯えていたのだと思う。

 僕にはまだヒーローがいない。

 やっぱり、ヒーローはいないのかな。

 それとも、ヒーローは遅れてやってくるんだろうか。


 そんな事を考えていたある放課後。

 今日も放課後、街へと連れまわされていた。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 僕のおごりで一切歌も歌っていないカラオケを出た僕は、意を決していじめっ子に話そうと思っていた。

― もう止めて欲しい ―

 一見、それほど過激でないいじめも、精神的にはもう限界。

 止めて欲しいのは切実な願いで、学生の僕に取っては生き死にに関わる問題だ。

 そして先日、遂に担任の先生にこの事を相談したのだ。

 担任の先生は、眼鏡で短髪。毎日ちゃんとした服を着てくる。
 色々話しを聞いてくれたし、いじめっ子にも注意の声を掛けてくれた。

 だが、いじめっ子は要領の良い奴で、大したおとがめもなく終わってしまった。

 そんな後、すぐにでも連れ回すようなハートの奴。

 今日、気持ちを伝えて、ダメなら学校にはもう行かないと決心していた。

 しかし、思いもよらない事が起こるのである。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

「ねぇ、◯◯くん…」

『ん、なんだ?』

「言っておきたい事があるんだけど、」

『なんだよ、早く言えよ。』

「……。明日からさぁ…」

ー もう止めて欲しいんだ。関わらないで欲しい。 ー

「もう止めて、、、えっ!?」

 続きを言おうとした瞬間、空が轟音を鳴らす。

 何かが凄いスピードで落ちてくるのが見えた。

 尋常じゃないスピードで向かって来るそれが、僕らの方に向かって来ると直感で感じ取った僕は、

ー ドンッ!!ー

 僕はとっさにいじめっ子の肩を押し弾いた。

 反動で僕は反対側に倒れ込むように壁にぶつかった。

『いってぇ!お前何すん…だ…えっ…』

 思った通りキレかけているいじめっ子だが、僕ら二人の間に落ちて来たモノを見て、言葉に詰まる。

『んん…何これ?』

「なんなんだろう…」

 大きな塊が落ちて来たが、固そうな感じはない。それどころか…

「だ、だれ...…?」

≪ ハハハハ ≫

≪ ハハハハハ ≫

≪ 私は!マスクマン!困ってる君たちを助けに来た!≫

 えええええーーーーーー!!!!!

 なーーーんだこいつーーー!?

 なぜか普通のスーツに、眼鏡、しかも白い使い捨てマスクをしてる!

 ふ、普通のマスクしたサラリーマン…略して“ マスクマン ”?

 でも、上から降ってきたし普通じゃないよなぁ、と思いながらも、このマスクマンとやらが何故現れたのか。

≪ おい、そこのいじめっ子。お前ちょっとはこいつの気持ちをわかってやったらどうだ。嫌がってるそうじゃないか ≫

 え?何で知ってるの?と口から出そうになったが、我慢して聞いてみた。

≪ だいたい、君もハッキリ言ったらどうなんだ ≫

 ぼ、ぼくも?!いじめられてるのに!

≪ いじめっ子、お前の行動はわかってんだぞー!これからちょっとは優しくしてやれ! ≫

『な、何でお前みたいなやつに言われんだよ』

≪俺だから言うのだ。令和が生んだこの街のヒーロー、マスクマン!空から参上!≫

 説教してから登場のセリフを言ったな。言い忘れてたんじゃないか?

『……はぁ。』

「……うわぁ。」

 ドン引きしてしまった…。

 このいじめ事情を知ってるのはごく一部。

 近しい生徒たちがこんなことをするはずがない。だから必然的に知ってるのは…

 答えが出そうになるが、空から降って来た理由だけが謎過ぎて合点がいかない。

『お前なんで知ってんだよ。入ってくんな!』

≪ そういう態度が、間違いを生み続けるのだろう!≫

『わかったから、どっか行け!!』

≪ ふむ、なるほど。どっか行くから、お前がしていることを、今一度ちゃんと考え直すんだ。≫

『何で言われなきゃなんないんだ!』

≪ お前の名前は、◯◯。どこに住んでいるかも知っている。また同じような事をしていたら、いつでも空から参上するから覚えておけ! ≫

 かなりテンションの高いマスクマン。いじめっ子がイライラを越えて、ちょっと面倒くさそう。

『もう、わかった。…頼むから家には来ないでくれよ。家だけには。』

≪ ふふん。お前の態度次第だ。ずっと見ているぞ。では、さらばだ! ≫

 マントを付けていた事に気付かなかった。
 そのマントを翻して、ささっと去っていく。

 空ではなく、駅の方に小走りで。

『なんだ、あいつ...お前、大丈夫かぁ?』

 いじめっ子は、壁を背にへたりこんだ僕に、手を差し伸べてきた。

「えっ、、、」

『ずっと座ってるわけに行かねえだろ。行くぞ。』

「...ありがとう。」

 握手するように引き上げてくれた。

 立ってズボンに付いた土を払っていると、

『うち、貧乏なんだよ。』

「そうなんだ...。」

『今まですまねえな。俺ぜんぜん金なくて、連れ回しちまってた。もうそんな事しねえからさ。』

「うん。」

『家の事...。秘密にしといてくれよ。』

「わかってる。」

『......。』

 少しの間の後に、

『じゃあな。今までのおごってもらった分、ちょっとずつでも返すから心配すんなよ。』

「じゃあ...」

 こちらも少しの間を空けて、

「返さなくていいから。」

『......。いいのかよ。』

「その代わりに、これからも遊びに行こう。今度からは、あんまりお金かからないとこ行こうよ。」

 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 それまでと変わらず連れ回されている。

 しかし、以前と違うのは二人で割り勘だということだ。

 あの日、空からやってきた” 変な男 ”の” 的確な言葉 ”のお陰で、元いじめっ子のことをよく知ることが出来た。

 ちょっと拍子抜けで真面目には見えなかったし、眼鏡をかけた使い捨てマスクのスーツを着ていた。

 それでも、僕にとってはヒーローにだった。



......それにしても、担任の先生に似ていたなぁ。

著:T-Akagi


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