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宇宙漂流お父さん3《ショートショート》【#3】

 私は相変わらず宇宙を彷徨っている。
 もう何年かは経っているだろう。

 地球の上空にある宇宙ステーションから離れ、地球からは遠ざかり続けている。
 しかも、帰るための方法が全くわからない。

 絶え間なく地球のことを考えていた。

 そこで一度、地球のことにこだわるのをやめようと思った。
 その時に少しだが宇宙生活の楽しみ方がわかった気がする。

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 宇宙空間は無重力だ。

 来た時に一度出ていたが、久しぶりに宇宙服を着て外に出てみた。

 緩やかに進む宇宙船の外。

 時々、宇宙ゴミのようなものが浮遊している事があり、それが妙に人工的なものだったりする事がある。

 それが人類で形成されたものなのか、別の星の生物によるものなのか、はたまた偶然できたものなのか。
 可能であれば船内に持ち帰り、収集してみることにした。

「これは、、、土星近くの石か何かかなぁ。こんなものを地球に持ち帰ったら、科学者たちは大喜びなんだろうけど、、、」

 帰還出来ない絶望感と表裏一体の優越感はハンパじゃない。
 帰れるかわからないが、収集癖のある私にとっては楽しみの一つになっている。

 そんな事をしながら、小惑星の隙間を縫っていく。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 星に着陸する術がないのが惜しい。

 いくつかの星を通り過ぎて来たが、まだそこに着陸は出来ないのだ。

「あの星は何って言う星かな?キレイだな…」

 太陽系を抜けた後は、本当に全てが未知の世界。
 専門家でもないし、宇宙に詳しくもないので、全てが漠然としている。
 だが、キレイなものはキレイだ。
 写真に収めてみた。

ー カシャッ ー

 スマートフォンというのは本当に便利なものだ。
 もう電波は届かなくても、高性能なカメラにはなる。
 この写真を地球まで持ち帰る…という事は出来そうにないのだが。

「ご飯にしようか。今日も同じものだけど。」

 ほとんど同じ味のものを食べる。
 同じ味のものを食べ続けると、どんなに美味しくても食欲がなくなっていく事を痛感した。

 地球にいた時、最後の食事を食べる前に、宇宙空間に放り出された。

 宇宙に来た時は何がなんだかわからなかったし、自分がどこにいるのか理解はしても、認める事が出来なかったのも、今では懐かしい思い出だ。

「さぁ、寝ようか。」

 何時なんだろう。それはわからないが、妙に眠気を襲ってくる。
 急いで寝床に伏す。

「明日は…なにしようか…スー...スー……」

 泥のように眠るとはこの事だろう。

 無重力は疲れる。
 室内は重力を維持してくれるが、外に出ると身体が疲れるのだ。

 今日は疲れがピークに達していたが、眠りこけてからすぐに夢を見始めたような気がする。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 何ヶ月も前に通り過ぎた火星近辺。

 お邪魔します、と来訪者があった。
 姿形はぼやけ、霞んでいてわからない。

『よかったら、これどうぞ。』
「あ、ありがとうございます。」

 お土産を頂いた。

ー 火星饅頭 ー

 何とも安直なネーミング。
 火星人のセンスを疑ってしまうが、東京バナナみたいなネーミングの土産菓子もあるわけだ。
 これはこれでわかりやすくて良いのかもしれないと思い返した。

 日本式で、お茶を沸かして出したが、

『火星人はお茶飲まないんですよ。火星人だけに、ね。』

 駄洒落センスは皆無らしい。

 いや、これは火星人ジョークで、ツッコミ入れて良いのではないか。
 しかし、寸での所で思いとどまった。
 火星では大うけなのかもしれない。

 お土産の他にも、火星生活の話しも聞かせてくれた。

『地球からたまに何か飛んで来るでしょう。』
「あぁ、探査機ですよね。」
『それそれ。実家の頭上に来たことがあってね、慌てて移住したんですよー。』
「あらぁ、それは申し訳ない。地球代表で謝ります。」
『いやいや、しょっちゅう移り住んでるからいいんですけどね。』

 ハハハハと笑う火星人。
 何かちょっとフットワークの軽いなおじさんみたいなノリだ。お歳を召されてるのかもしれない。

 地球の話もして、小一時間話した。

『あ、そろそろ行きます。迎えが着てるみたい』
「お迎えの方ですか?え?どこに?」
ー ここです。 ー
「うわぁー!ビックリしたぁ!」

 いいいいつの間に背後に。
 火星人は忍者か何かか?音も気配も何も感じなかった。
 しかも、あっさり進入している。
 不法侵入だろう。お連れさんでなければ110番だ。と思ったが、110番しても誰も来てはくれない。

『じゃあ、行きます。楽しかったですよ。』
「こちらこそ、1人だったので。また来て下さいね。」
『ありがとうございます。地球の方とお話しするの久しぶりでした。ではまたー。』
「えっ、久しぶりって!?」

 聞き返すより先に、消えてしまった。

 僕の前に誰かがさっきの火星人と会っているということか…。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 考えを巡らせているうちに、夢から覚めた。

 リアリティのある夢。

 本当に夢なのか。

 もし、本当だったら…そう思って、またその夢の中で誰かに出会えないか。
 日々、試しているがあの日以来、夢に誰かが出てくる事はない。

 残されたのは、火星饅頭の箱だけだった。

T-Akagi


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