
宇宙漂流お父さん First Contact【連載第一弾#6】【シリーズ#9】
宇宙漂流お父さん First Contact⑥
『おい、ここで何をしているんだ。"地球人"。』
名前も知らぬ衛兵に仕事を押し付けられ呆然としていると、今朝僕を釈放してくれた衛兵総長に声を掛けられた。
「あ、あなたは確か衛兵のお偉いさん。」
『偉くはない。この辺の衛兵をまとめているだけだ。』
「こんな時間まで、見廻っておられるんですか。」
『あぁ、今日は日を跨ぐ頃までは代わりが来ない。』
大変だなぁ。早朝から夜中まで。
この国には勤務時間外なんて考え方はあるんだろうか。
『ところで、何故おまえがそんな格好しているんだ。』
「あ、いやぁ、これには事情がありまして…。」
『事情ね。聞かせてもらおうじゃないか。』
今朝牢屋からここに辿り着くまでの流れを説明した。
もちろん、扉の話しはせずに。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
話しを終えたあと、衛兵総長のサトーは建物の中に戻って行った。
『何かあったら声を掛けてくれ。トラブルがあれば、笛を鳴らせ。』との事だ。
「あと何時間か…。」
警備員のような感じだろうか。
遠くで賑わっている”音”が聴こえて来る。
ニビアの国の一大イベントだ。
仕事サボってでも行きたいほどとは、どれだけ楽しいのだろう。
興味はあるが、僕がここにいる理由は遊びに行くためではない。
ー どうやって地球に帰るか。どうやって宇宙船に戻るか。 ー
この空の向こうの地球に帰る方法。
その為に、あの宇宙船に戻る方法を探さなくてはならない。
この星がどれだけ地球に似ていて、どれだけいい星であっても、僕の帰るべき場所は地球だ。
そんな事を考えながら、にぎわう街を見下ろしていたら、いつの間にか朝日が昇り始めていた。
あの男、帰って来ないじゃないか。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
朝になって、昼の番の衛兵が交代に訪れた。
更衣室がないので、サトーに連れて行かれた部屋に行ってみた。
ー コンコンコン ー
『なんだ?』
「僕です。"地球人"。」
ー ガチャ ー
扉には鍵が掛かっていたらしい。
そりゃそうか。寝ていたのかもしてないし。
『どうだ。何もなかったか?』
「はい。幸いというか何というか。」
『そうか。それじゃあ、これ。』
おもむろに封筒を差し出してきた。
「え、これって…」
『一応、給料だ。』
「でも、頼まれた衛兵の人にもらいましたが…。」
『それは別だ。一日でも働いたら、こっちから出さなくちゃならん。それにお前、この国の通貨はほとんど持って無いんだろう。』
「あぁ、そうです…。本当に頂いちゃっていいんですか?」
さすがに気が引ける。ここに住み着くつもりもないし。
『手持ちがないと、飯もろくに食べられないだろう。』
「その通りで…。それじゃ頂いておきます。」
『困ったらいつでも来い。』
どのくらい価値があるかもわからない貨幣の入った袋を受け取った。
「困ったらいつでも、か…。いま困り果ててるんだけどな…」
宇宙船まで戻る算段をつけるには、宇宙開発の技術がないといけない。
宇宙開発技術に取り組んでいる者や技術者は、果たしてこの星にいるのだろうか。
技術者を探すにも、まずこの星でどう立ち回って行くかを、決めなくてはいけない。
夜中ずっと立っているだけではあったが、少し疲れたし眠い。
この国の通貨を手に入れた事だし、街の入り口にある”森のクラゲ亭”に向かい、とりあえず部屋を借りよう。
街は朝にも関わらず多くの人が生き交ってはいたが、まっすぐ宿に向かった。
親切な従業員に部屋を案内してもらった時に、慣れないチップも渡してみたが、この国の貨幣価値がわからず、渡し過ぎていた様で驚かれてしまった。
この従業員のお陰でここに泊まることも出来て、いざとなったら衛兵総長に助けを請う事も出来るようにあった。
少しチップを弾んでも、バチは当たらないだろう。
そして、宿の部屋に入った瞬間、泥のように眠ってしまった。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
半日は寝ていただろうか。
花火のような轟音と共に、目が覚めた。
窓の外は時折花火が上がっているようで、その音なのだろう。
本当に毎夜毎夜ドンチャン騒ぎしている。
昨日は街の反対側の丘の上にある牢屋のある建物から見ていたが、ここまで近いと音も凄い。
こんなんで夜眠れるのだろうか。
とは言え、もう今日は日中十分に眠ってしまった。
「さて、これからどうして行くか...。」
ゆっくり休める場所も見つかった。
しかし、宇宙船に戻るための手がかりは何もない。
この星に来た時に開いた扉は、その時その瞬間は確実にこの土地に繋がっていた。
誰かがその扉を開けたのか。それとも偶然扉が繋がったのか。
手掛かりはどこかに無いのか。全く思い付きやしない。
いつまでもここにいるわけには行かないが、このままだとこの星で一生を過ごす事になる。
「行ってみようかな。」
暗がりで考えを巡らせても仕方がないか。
3年に一度の騒がしい街に繰り出してみることにした。
軽く準備し、階下のフロアに降りて行く。
親切な従業員に一声掛けて、玄関までてくてくと歩いていた時だった。
『君、”地球人”だね。』
心臓が飛び出るかと思った。
なぜ僕を地球人だと知ってるんだ?!