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三日月 秋
2020年12月23日 11:44
第3章 悪夢 「唯~。由真と連絡ついた~?」結花が台所で食事の支度をしながら大声で尋ねた。「ダメ~。携帯は何度かけても繋がら~ん。メールも返信は来な~い。一応家の留守電にはメッセージ入れといたけど~」人参の皮むき器を手に持ったまま居間に戻ってきた結花が、あきれたように大きく口を開いた。「まーったく、あの子はどーこほっつき歩いてるんだろ。またジャングルかどっかの山に遊びに行いってんのか
2020年12月24日 13:09
第4章 邂逅 結花の家を出た翌日。優子はJR新宿駅に着いた。結花から貰った服ではなく、アイロンの効いたセーラー服を着ている。今日は東と会わなければならない。結花から貰ったシックな服で東に会うのは、やはりどこか気恥しく、服装についてとやかく言われたくもなかった。もっとも、東はこれまで優子の服装について、彼女に何か言ったことは一度もないのだが。ここで再び優子がスマートフォンの電源を入れ、
2020年12月27日 12:21
第6章 闇の中で 煌々と丸い月が闇夜を照らす曲がりくねった秩父の山道に、優子がスズキのGSX250Rを疾走させる。他に誰も走る者のいない、暗いワインディングロードに、GSX250Rの甲高いエキゾーストノートがこだまする。ハイビームのヘッドライトが照らす木々の中には、時折、野生の鹿のものらしき眼玉が妖しく光る。GSX250Rは良くも悪くも、癖がなく扱いやすいバイクだった。スピードを出して高
2020年12月28日 11:49
最終章 涙 県道から枝分かれした細い林道脇で、生い茂る雑草に前輪を突っ込んだまま、一台の黒い大型ジープが止まっていた。車にはフロントガラスがなく、タイヤもなくなった右後輪はホイールが波状に歪んでいる。ジープのすぐそばには、一人の薄茶色の作業服を着た中年男性が、頭から血を流し、アスファルトに顔を突っ伏して倒れていた。恐らく麗巳は、男性が運転していた車を奪い、そのまま逃走したのだろう。その