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【読書】トマス・ハーディ、ほか『イギリス名作短編集』

たしか5年ほど前、図書館でたまたま見つけて、途中まで読んで返したはずで、以来、アマゾンのほしい物リストに入りっぱなしでした。リスト内のほかの本と同じように、きっとそのまま忘れちゃうだろうと思っていたのに、なぜかこの本は事あるごとに、特にトマス・ハーディの「妻ゆえに」が思い出されました。

(この読書メモは、2015年5月に書いたものです)

嫉妬に突き動かされて、大して好きでもない、でも素直で誠実な男と結婚し、その甲斐性のなさに不満を持ちながら悩みつつも結婚生活を続け、見栄のためにあるリスクのある決断をして、結局、夫と息子二人を失う妻の物語。

好きなタイプの小説じゃありません。陰鬱で、読むと胸が苦しくなります。でも、人生の真実のひとつの側面を言い当てているようで、ずっと頭から離れませんでした。それで結局、入手してはじめから読み直した次第。12年も前の本の在庫が本屋さんにちゃんとあったのにも驚きです。

帯に「六人の作家の人生を見つめる目の確かさを感じさせる、六つの多彩な短編小説」とあります。ほかの作家の作品も含めて、まさにその通りだと思いました。

抜粋は、収録作品のひとつ、サマセット・モームの「仕合せな男」から、不思議な魅力を放つつぶやき台詞を。

P97
「たしか結婚しておられましたね?」と私は言った。
「ええ、妻はスペインが気に入らず、キャンバウェルに帰りました。そっちの方がくつろげたんです」
「やあ、それは残念でしたね」
(中略)
「人生には埋め合わせになるものが一杯ありますよ」と彼はつぶやいた。
── サマセット・モーム「仕合せな男」

(2015/5/17 記、2024/10/14 改稿)


トマス・ハーディ、ほか『イギリス名作短編集』‎近代文藝社(2003/2/1)
ISBN-10  4773370033
ISBN-13  ‎978-4773370034

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