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【読書】ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』
人類史1万3000年を上下巻約800ページで扱います。
大きなテーマは、「なぜ、新大陸(アメリカ)の先住民が旧大陸(ヨーロッパ)の住民に征服されたのであって、その逆ではなかったのか」ということで、この本ではその答えを「社会や技術の発展のために有利な地理的条件」というところに求めています。
証明不可能な命題ですから、もちろん究極的にはすべて仮説なのでしょうが、説得力があり、随所に発見のある楽しい読書体験でした。
断片的ですが、いくつか抜粋します。
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<上巻>
P186
実際には、すべての食料生産者が狩猟採集民より快適な生活を送っているわけではない。(「第6章 農耕を始めた人と始めなかった人」から)
P246
メソポタミアが農耕の開始に有利であった条件の一つとして、この地方が地中海性気候に属し、穏やかで湿潤な冬と、長くて暑く乾いた夏に恵まれていることがあげられる。(中略)穀類やマメ類は、この気候に順応し(中略)、一年生植物(一年草)となって(中略)人間が栽培しやすいようになっている。(「第8章 リンゴのせいか、インディアンのせいか」から)
P287
リンゴは歴史上もっとも栽培がむずかしい果樹のひとつで、接ぎ木というむずかしい技術を使わないと果樹としての本数を増やすことができない。(中略)北米では、生物相全体において栽培化や家畜化が可能な動植物の種類が限られていたことが、食料生産の開始を歴史的に遅らせてしまったのである。(「第8章 リンゴのせいか、インディアンのせいか」から)
P355
もちろん、車輪や文字の伝播の過程が、農作物のように、緯度や日の長さのちがいに直接影響を受けたわけではない。緯度や日照時間のちがいの車輪や文字に対する影響は、食料生産システムを介しての間接的な結びつきによるものである。初期の車輪は、農作物を運ぶための牛車から出発している。初期の文字はエリート階級だけのものであり、その階級は食料生産に携わる農民たちによって支えられていた。(「第10章 大地の広がる方向と住民の運命」から)
P390
もしも、コロンブス以前のアメリカ大陸の人口が二千万人であったという最近の推定が正しければ、同時代のユーラシア大陸の人口より極端に少なかったわけではない。アステカの首都であったテノチティトランのような都市は、当時、世界最高の人口密度を誇る都市の一つであった。それなのになぜ、テノチティトランには、侵入してきたスペイン人に感染するような特有の病原菌がはびこっていなかったのだろう。(「第10章 家畜がくれた死の贈り物」から)
<下巻>
P129
労働の分化もさらに進んでいき、今日の国家では、農民でさえ自給自足できなくなっている。したがって、西暦407年から411年にかけてローマ軍とその治政者の撤退と貨幣制度の引き揚げにともなって英国で起こった崩壊のように、国家崩壊の社会的影響は壊滅的である。(「第14章 平等な社会から集権的な社会へ」から)
P131
まず、国家は、政治および領土を共にする人びとの集団であり、この点において、血縁関係や親戚関係を共有する人びとの集団である小規模血縁集団、部族社会、単純な首長社会と基本的に異なる。また、小規模血縁集団と部族社会が、そして首長社会の多くが、一つの言語・習慣を共有する人びとの集団であるのに対し、国家には、言語・習慣を共有する人びとの集団が複数存在するのが一般的である──他の国を併合したり、征服して形成される帝国では、この特徴がもっと顕著である。(「第14章 平等な社会から集権的な社会へ」から)
P132
たとえば、かつて一つの国家であったソ連やユーゴスラビアやチェコスロバキアが崩壊したように、われわれは大が小に分裂してしまうケースを知っている。(「第14章 平等な社会から集権的な社会へ」から)
P135
このような誤りをアリストテレスが犯したのは、彼が見聞き紀元前四世紀のギリシア社会がすべて国家だったからである。(「第14章 平等な社会から集権的な社会へ」から)
P191
これら三つの島やタスマニア島で起こったことは、人類史上の一つの重要な結論を極端なかたちで示している。完全に孤立状態にあった人口数百人の集団は、存続しつづけることができなかった。人口四千人の集団は、完全な孤立状態で一万年存続しつづけることができた。しかし、この存続には著しい文化的損失が伴っていた。(「第15章 オーストラリアとニューギニアのミステリー」から)
P306
1577年にヨーロッパ人が渡航を再開したとき、古代スカンジナビア人の入植地はもはやグリーンランドに残っていなかった。それは、なんの痕跡も残さず、十五世紀に姿を消してしまったのである。(「第18章 旧世界と新世界の遭遇」から)
P388
現代という時代にあっても、新しく台頭して力を掌握できる国々は、数千年の昔に食料生産圏に属しえた国々である。(「エピローグ」から)
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地球規模の1万3000年。長く興味深い旅でした。
……夜勤明けの中央線車中にて。ぽかぽかして超ねむい。
(2012/11/7 記、2024/1/3 改稿)
ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄(上巻)』草思社 文庫版(2012/2/2)
ISBN-10 9784794218780
ISBN-13 978-4794218780
ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄(下巻)』草思社 文庫版(2012/2/2)
ISBN-10 4794218796
ISBN-13 978-4794218797