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vol.127「取捨する力。送り出す若い人たちへのはなむけの言葉。優先度ゼロ番目は何かという話。」

送別会で、転出する若い人たち向けに助言めいたことを話す機会があり、整理のために書いてみます。

◆結果責任を取らない人間の助言。

為末さん著書『諦める力』から付箋箇所メモ。

日本人は、この「やればできる」という言葉を好んで使う。
しかし、言葉の意味をよく考えると、おかしなことに気づく。(中略)
「それじゃあ、できていない人はみんな、やっていないということなんですね?」
論理的に突っ込んでいくと、成功と努力の相関関係はどんどん曖昧になる。僕は、競技人生を続けている間、この問題とずっと向き合ってきた。

応援してくれる人が責任をとってくれるわけではない。

メダリストを目指して、何万人ものアスリートが努力している。ものすごく限定された確率で選ばれたアスリートだけが成功し、「諦めなかったからここにいる」という話である。
そう言う人には聞いてみたらいい。「では、あなたは僕がやめずに続けたとして、どのくらいまでいくと思いますか」
その問いに対する答えが具体的で根拠のあるものなら、考え直すのもありだと思う。しかし、ただ「諦めるな」と言っているだけなら聞き流せばいい。

為末大『諦める力』より

「その話は、論理的か。信頼するに足る根拠があるか」
「言ってきた相手は、結果責任を取ってくれる人間か」
の2点は、視点として持っておいて損することはない。為末さんの話はそれに近いものだと思っていて、頷きながら読みました。

「千三つ」という言葉があります。成功するのは1000分の3程度ですよ、997の失敗が隠れてますよ、という意味です。オリンピックのメダリストを目指した人々、となれば、千三つどころではない。ほとんどの人が途中で転身を考える世界だと想像します。

確率や科学を無視した「やればできる」、つまり「すべての人に(等しく/全方位的に)無限の可能性がある」という言い方が嫌いで、為末さんのようなオピニオンリーダーに惹かれやすい。

「諦めない人=ダメな人」「夢を追うとはけしからん」ということではなく、「捨てられる人、変わり身できる人(考えられる人)になりなさい」と言っている。
「諦める力」とは「優先度を考える力」「捨てる力」、「次の新しい何かに踏み出せる力」を指しているのだと考えました。

※この本、一度図書館で借りて、なぜか1ページも読まずに返却した。後に文庫本を買って読んだら、すんなり読めた。能力が上がる(下がる)とは別に、体質の変化のような、味覚が変わるような事象は間違いなくあって、次へ次へと一気に読んだ。

◆優先度をつける重要性。

いまいる会社では人事異動の時期。送別会で、転出する若い人たちから「新しい部署に行ったときのアドバイスがあれば教えてください」と尋ねられました。私より二回り以上若い世代です。
※以下、すこし脚色・抽象化しています。

・「これさえやれば大丈夫」という万能のキラーカードはないし、状況は行ってみないとわからない。だから助言できるとしたら、仕組み・行動(自分でコントロールできること)しかない。
・一つは、人の顔と名前を一致させる。顔を合わせたとき「前回言われたことを覚えている」。メモをちゃんと取る。例えば自宅に『持ち出さない自分用ノート』を作って、「このフロアのこの席の誰さんと話した。特徴、言われたこと、印象」などのメモを書き込んでいく。役職に関係なく「仕事を進めるうえでのキーパーソン」はいるから、そういう人たちを覚える、といった方法もある。
・若いというのは強力なボーナスステージで、それだけで先輩世代は教えたり助けたくしたくなるものだから、おくせず食い下がって聞きに行ったりお願いに行ったりすればいいと思う。
・同時に、「若いからチヤホヤされている」と他の人から見られていることだってあるかもしれない。貴方たちの責任ということじゃなく人間だから起こる現象だ。「周囲からどう見えるか」の視点、何も言わない物静かな人たちの中にも同じようにキーパーソンがいて(戦略・効率性がすべてではないけど)、という感覚を持つといいと思う。

おおむねこんな話をしたのだけど、後から、もうひとつ大事なことが抜けていたのを思い出した。
別の日に、付け加えました。

・先日は「いいことを言わなきゃ」と、カッコつけてしまい、いちばん大事なことを忘れてました。優先度のゼロ番目は、「自分の身を守る」ことです。
・残念ながらパワハラやセクハラといったものは、減ってはいても絶滅はしていない。自分の心身の安全を最優先する。いまの時代、すべてのロイヤルティを会社に捧げる必要はまったくない。特に上司や人間関係で遭遇したら、対策を講じる。
・といっても組織内の力関係でいえば不利。力が上の相手と戦うときのカギは「1対1ディフェンス」にしないこと。団体戦にすること。横や斜めのつながりで、数人対1人に持ち込むこと。もしくは上司の上司、より強い者を味方に引き入れること。要するに、相手の戦力よりこちらの戦力合計で上回るようにすること。
・以上、「まずは自分の心身を守ることを最優先する」という話でした。

これは個人の価値観、好みによると思うけども、「はなむけの言葉を」と言われたとき、「活躍を祈念する」とか「貴方ならきっと大丈夫」とだけ言ってもしかたがないと考えています。
リスクを取ってなく、誰が言っても日本語として成立する「正しい言葉」だからです。
為末さんの表現を借りるなら、「責任を取らない、具体性のないアドバイスは聞き流していい」、つまり価値がないから。

人に助言をするときは優先度をつけること。リスクを取って、踏み込んだ具体的なことを言うことが重要だと、あらためて思い出した、というお話でした。


誰かにアドバイスを頼まれたとき、考えてもなかったこと、自分が信じてもいないことは、とっさに言えないものです。
ふだんから、架空の想定をしながら考える訓練、言葉にしておく訓練が大切だと思っています。

最後までお読みくださりありがとうございます。



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