見出し画像

vol.016「空気を読む部下と、「感情労働手当」のはなし。」

なんでもいいから、機嫌よくしておくこと。」の続き。

前回の話を要約すると、

①「機嫌よくしておくこと」は「情報が入るようにすること」と同義語。リーダー本人にメリットがある
②なぜならメンバーから入る情報が生命線だから。情報が入ってこないことは、自分の命を縮めることだ
③間違っても自身の気分を振り回してはならない。上司(管理職)の「機嫌」などはどうでもいいことだ

というお話でした。

 

 


■あなたの会社は「感情労働手当て」を社員に払っていますか?

 

これらの仕組み(システム)を理解するための補助線として、
報酬をよぶんに受け取っているのは、どちらか?
と考えるとわかりやすくなる。

(※以下、「管理職」に対する「メンバー」を指して、便宜上、「部下」という呼称を用います)
 

もし、上司の機嫌に付き合わされることが
「公式ルール」
なら、部下にその分の給料が払われているはずだ。 

仮に、名づけるなら
感情労働手当て
とでもなるだろうか。

しかし実際には払われていない。
おそらく99.9%の会社(サラリーパーソン型組織)で、上司(管理職)のほうが給料が高いはずだ。

ということは、
部下が上司の話を、だまって我慢して聴く義務」 
は、公式なルールではない。正当な根拠のない、誰が決めたかわからない「(謎の)慣習」だとわかる。
 

だとすれば答えは単純明快だ。

愚痴に付き合う/感情をぶつけられても我慢する/話を最後まで聴く 等の義務を負うのは、
「給料を多くもらっている側=上司・管理職」

だ。
けっして逆ではない。

なのに、多くの人間が勘違いするのは、

「自分には役職が付いてる」→「それだけ立場(身分)が上である」→「上の人間に合わせるのが正しい」→「自分には威張る当然の権利があるし、あいつら(部下)にはそれを口答えせず受け入れる義務がある!

と錯覚するからだ。

管理職には、個人の好き嫌いや感情で言動しないこと、預かりものである社員を私物のように扱わないこと に対してあらかじめ多めの報酬が、【先払いで】設定されている
という、基本的な構造を理解できてないからだ。


■映画館は席を立てる。上司との飲み会は席を立てない

 

プライベートの時間をついやし、ワリカンで、説教や昔の武勇伝に付き合わされる。
「その話、何度も聴かされた」と「内容がちっとも面白くない」は、苦痛コンテンツのツートップだ。 

お金を払って入った映画館で、上映作品が大ハズレだったとき、テレビ番組が前にも観たもので、しかも面白くなかったとき、どうしているか?を思い起こしてみる。
席を立つか、チャンネルを替えるか音量を下げるか。なにかアクションを起こすはずだ。

ところが困ったことに、「業務時間を終了したあとの、上司(管理職)との飲み会」では、それができない。考えてみたらずいぶんと謎の多いシステムだ。
しかも、2大苦痛「何度も聞かされる」「面白くない」が同時発生だったりする。

席を立つわけにいかず、チャンネル(話題)を変えることも音量を下げることもできない。苦行以外のなにものでもない。

以前に読んだコラムに、「相手が上司・先輩なら『自慢かよ!』とツッコミを入れられるけど、部下・後輩は、何も言えません」という意味のことが書かれていた。ほんとうにそのとおりだ。

飲み会の不参加の理由、ないし参加者が集まらない説明として、
「今の若い人はお酒を飲む習慣がないんですよ」
「飲みの場が好きじゃない人たちもいますから」
「仕事とプライベートは、分けたいんです」
という言い方をする。

遠慮して、オブラートに包んでるからそう言ってるのであって、正確には、
【あなたと】飲むのは好きじゃない
と受け止めたほうがいい。

お説教。長話(ながばなし)。昔の自慢話。本人だけが面白い話。
自分の胸に手をあててみると、大いに心当たりがある。自分を律する自信が、まるでない。

だからチームメンバーには、
・気を使って誘ってくれなくていい
・飲み会は参加完全自由。「欠席の理由」も一切不要
・常に多めに請求してほしい。金額の事前確認は不要

と、さきに宣言し、着任時のオリエンテーションで紙に書いて渡している。または、オフィスの目につくところに、A3で印刷して貼り出したりしている。
意志の力だけで継続する自信がないことは、仕組みの力を借りる」の法則だ。

※貼り出しておく、は効果的な手段。自分(管理者)よりも役職が上の人が来たときに目にとまり、引っこみがつかなくなる。自分を縛る鎖としてきわめて有効に働く。いじられて話題(笑い)のネタにもなるから、一石数鳥、と言っていい。

  

■飲み会の支払いは「投資対効果」で想像力を駆使する


『管理職の心得〇〇』、『できる課長の△△』といった本を読むと、やっぱり似たことを指摘している。

「管理職が、自分自身で思っているほど相手には伝わっていない」
「面談では、2:8で相手が話すくらいでちょうどいい」
「自分は管理職として平均よりは上だと、と7割の管理職が考えてる」

 
いろいろ書かれているなかで、共通している1つに
飲み会は、ワリカンにするな
がある。

(1) お会計が上司が必ず多めに支払いなさい、
もしくは
(2) 部下には払わせずあなたがおごりなさい。(負担が大きいならランチにしなさい)
というものだ。 

後者(2)はなかなか大変だ。オーナー経営者だと実践できそうだけど、普通の会社の中間管理職、特にお小遣い制だと難しいだろう。
私自身は基本的には(1)、「かならず多めに出す」派で、シチュエーションによってたまに(2)にするぐらい。(※1対1でのお祝い等)

この「多めに出す」支払いは、何パターンか考えられる。

①1人あたりお会計から百円の位を切り上げ、千円単位で払う。【お釣りを受け取らない】
②会計役の場合、自分以外(部下・後輩)がきりのいい〇千円ずつ、になるよう計算して、残りを受け持つ(端数の積み上げ分を持つ
③お酒を飲めないメンバー、遅れたメンバーを少なめにし、残りから自分が多めに出す。計算は②に準じる。【③はワリカンでも絶対にやるべき】
④全額の半分を出す。【わかりやすい】
⑤5千円札、1万円札、などお札単位できりよく出す。残りをメンバーで割ってもらう。
⑥幹事の方針に素直に従う。「管理職は〇円」「ゲストは◆円」「完全ワリカンで」等など。【幹事が年上の先輩、等の場合に使う】


ここで重要なのは「投資対効果」=相場感だ。

(例)ふつうの居酒屋→「千円でいいよ」
(例)喫茶店など軽い場→「ここは払うよ」
(例)奮発して高級焼き肉→「1人いくら。残りは持つ」

等など、多めに出すお金(絶対値)が、効果を発揮すようにする。
あえて露骨にいうと、「喜ばれる使い方」をする。

そのためには、想像力を駆使するしかない。

(例)まだお金をあまり持たない新入社員や学生さんが、おごってもらったら嫌な気分にはならないだろう
(例)自分では行けないお店で、ふだんの相場の会費で美味しく食べるのはプラスに感じるのではないか
(例)世代・年齢によって、上司に意味のわからない(高額すぎる)おごられ方をすると、「はぁ?」と違和感が残るかもしれない

 

■ワリカンするぐらいなら行くな、誘うな

 
「ワリカン」はやめておいたほうがいい。

上司(管理職)側にとって、飲みの場とは、酒や食事を味わう場ではない。栄養を取る場でもない。もちろん、自分が説教をぶって、いい気分になる場ではない。
もし行くことになったとして、それは、部下なり後輩なりとの、人間関係をなんらかのプラス作用にさせるための時間だ。

程度の差はあれ、基本的に上司との飲みは「面倒くさいもの」だ。

「そうは思わない」としたら、部下側がおとなの社会人で、気を遣って演技をして、気づかせないように振る舞ってくれてるからだ。
ものすごく聡くて賢くて、高度に空気を読み、無言の連携で、仕方なく上司を立ててくれているからだ。
若いころは自分もそうだったのに、すっかり忘れているからだ。

仮に上司が「毎回完全ワリカン」したら、それは、『わざわざお金を使って、「器の小さい上司」という評判をつくる行為』だ。

「時間を取られて話を聞いて、ワリカンかよ」と思われているのだ。

3,333円を10回払って「せこい上司」という評価を10回獲得する。
5千円なり1万円を10回払って、「ケチではないな」という評価を10回獲得する。
投資対効果の観点から、「どちらがベターか」は、簡単に算出できる。

お小遣い制などの事情で多めに出すのが困難なら、行く回数を減らす。
減ったところで(あるいは無くなったところで)、相手は何とも思ってないことが多い。「魅力ある上司」には、何もせずとも向こうからお誘いがかかるものだ。

私自身は他人に厳しく、うるさく、口数が増え、「過去の自慢話やお説教」をする『面倒な先輩』だと自分でわかっている。だから、必ず多め負担を提案するようにしている。
※ちなみに経験上、「多めに気前よく出す」で投資対効果が一番高いのは、いまのところ「焼き肉」です。

 

■「普通リーダー運転免許」は減点方式

 

後輩と話していて、 「部下(メンバー)が上司(リーダー)に期待することってなにがある?」と尋ねたところ、ほぼ即答で、3つ挙げてくれた。
すなわち「一貫性があること」「前向きであること」「切替えられること」。

「一貫性があること」
・「言うことが前と変わる」は論外。問題外。
・価値の置きどころが不変であること。ブレないこと。
判断基準が明確なら、メンバーは自分の考えで行動、工夫ができる。報・連・相もしやすい。

「前向きであること」
・基本姿勢として、オンは常に前向き。
・相談に乗ってくれる。味方でいてくれる。すくなくとも話は最後まで聴いてくれる。
・目下の相手に愚痴をこぼさない。ネガティブな言動を取らない。
オンが前向きであれば、オフのときの弱音にも付き合える。共感のしようもある。

「切替えられること」
・オフは思い切ってオフにできる。
・仕事以外の時間の過ごし方を知っている。趣味、打ち込むものがあり、楽しむすべを知っている。
「仕事一筋」「プライベートを省みない」という印象は周囲から見ると引くこともある。「オンは常に前向き」の裏返し。2つで1セット。

言われてなるほど、と思ったのが「リーダーは"もっとも身近なプロの社会人"。であれば格好よくあってほしい」ということ。
ありがたい話だ、といえばいいのか、そんな風に(前向きに/)見てくれている、観られているということに、新鮮な驚きと、緊張感を覚えた。

判断基準が明確。不変である。ネガティブな言動をしない。基本的に前向きでいる。話を最後まで聴く。オンオフの切り替えができる。
要するに、「安定している」ことだ。

リーダーの最低限の義務は、「自分の感情を優先しない」ことだ。

気分やプライドや体面で判断したり、行動したとき、メンバーからは、「すごいアグレッシブ。素敵。強いリーダーシップ」とは思われず、「イタいやつだな」と見られる。

普通リーダー運転免許』があって、点数が引かれていく。しかも、違反かどうか判断するのは管轄省庁側(例:会社)ではなく、市民の側(部下、メンバー)である、
ぐらいに考えておくと良い。

 

■喜怒哀楽を「計画し、管理する」こと

 

メンバーを率いるリーダー、部下を持つ中間管理職は、「目下の相手のまえで、喜怒哀楽をちゃんと表現する技術」を、誰からも教わらない。
誰も教えてくれないのに、非常に大きな差のつくテーマだ。

上司の自己評価と、部下からの評価が一致することって、まずない。「自分は部下との信頼関係がまあまあできているほうだ」と思いこんでいる、その5倍くらい壁があり、溝があると思って間違いない。
役職等が下の人(弱い立場の人)は、思っていることをぜんぶは出せないし、出さないからだ。

出さないぶん、内心での、上位者に対する評価は手厳しいし、正確だ。
組織内の「上司と部下」だけでなく、自社にとっての発注先("業者"と思っている相手)の人もおなじだ。つぶさに観察され、ほかの納入先と比較され、優劣がつけられている、と考えたほうがいい。

特にアラフィフ以上世代の日本人男性サラリーマンは、「効果的な感情表現」が苦手で、下手だ。はっきり言うと、損をしている。
とくに、組織ツリーのトップにいる人の、「表現方法」は影響が非常に大きい。本人が損をするだけなら勝手にすればいいけれど、周囲を困らせる。

自然な形で、くつろいで笑う。一緒になって喜ぶ。ちゃんと伝わる表現で褒める。みずから三枚目になる。ここでいう「自然な形」は、「無防備=自分の感情のままに」とは違う

表現は、計画を立てて、戦略的に使うものだ。

そして、表現する技術は、学校の授業できちんと教わることが少ない。会社主催の研修で教わることもまずない。
自分で、時間を取って、コストを投入して、勉強するしかない。
そのかわり、実践している人のほうがそうでない人よりも、はるかに少数派だから、やると必ず良い効果が出る。

「効果のあること」は、たいてい、ちょっと手間で、面倒くさいものだ。

部下の給料に「感情労働手当て」が払われてないのなら、「上司の話を我慢して聴く義務」は存在しない。歩み寄るべき、我慢するべきは、給料を多くもらっている上司(管理職)のほうである。けっして逆ではない、
という視点は、もっておいたほうがいい。 

(つづく)

いいなと思ったら応援しよう!